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前世を思い出した我儘王女は心を入れ替える。人は見た目だけではありませんわよ(おまいう)  作者: 多賀はるみ


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24 【エドワルド視点】

【エドワルド視点】


 リンダ嬢がコソコソとしていて、なにか企んでいるのは分かっていた。

 分かっていたが、まさかこのような祝いの場でやってくれるとは。




「エドワルド・エイガ様、婚約破棄させていただきます!」


 よりにもよって、アルの二十歳の祝いの場で何を言い出すんだこの女。婚約破棄をしたいなら、さっさと言えば良いものを、わざわざこんな大勢の場、しかも王族の祝い事の場でやるなんて頭大丈夫かよ。


「皆さん、聞いてください。私、リンダ・イヤーナはこちらのエドワルド様に何度も暴力をふるわれ、結婚した際にはお前は俺の所有物になるのだと尊厳を踏みにじられるようなことや暴言を言われてきました。周りの方々に助けを求めようにも、エドワルド様は公爵家の方。子爵家の私にはどうすることもできません……ですが、このような場でならきっと、皆さんが助けてくれるのではないかと勇気を出して告白いたしました」


 あー、なるほど。俺を悪者にして自分の都合のいいように、婚約破棄をしたいってわけだ。

 そもそも俺、あんたと会ったのだって数回だし、話したことなんて最初の頃だけだろうが。いつそんな事する暇あるんだよ。


 ざわつく会場。


「そしてそんな傷ついた私の心を癒やしてくれた、伯爵家のレイス・ゼニーノ様と新たに婚約いたします」


 レイス・ゼニーノ伯爵子息。たしか、でかい商会を経営している家だったな。それに、魔法石の卸す数を数年前から増やして欲しいと言ってきた商会だ。

 魔法石の産出は100%エイガ公爵領からだ。この国だけではなく、近隣諸国の人々も魔法石はエイガ公爵領産のものを使っている。

 なぜか。

 魔法石は魔物からしか取り出せない。魔法石を取り出すためには、魔物を倒すしかないのだが、そもそも魔物を倒すこと自体が難しい。

 どうにかして魔物を倒せても、魔物によって魔法石がある位置が違うため、せっかく倒したのに魔法石が壊れていて意味がないなんてことがある。

 世間一般的に魔物を倒すことは難しいのだが、エイガ公爵領の騎士たちは精鋭ぞろいのせいか魔物を倒すのはそう難しくはないし、なぜか魔法石を壊すような倒しかたをしない。

 皆、慣れてくると『なんかここに魔法石ある気がするから、違うとこの急所を狙うか~』と直感が働いて魔法石を壊すことなく倒すことができる。

 もちろん、危険が0というわけではない。怪我をするもの、命を落とす者もいるが、エイガ公爵領では定期的に安定して魔法石を入手することができる。

 魔物から魔法石を取り出すことができると知った昔の人は、なんとかして自分たちで魔法石を入手しようと試みたが、エイガ公爵領の騎士のようには上手くいかないどころか、命を落とす者が沢山いた。何度もそれを繰り返すうちに継続的かつ安全に魔法石を入手するなら、エイガ公爵領産の魔法石を買ったほうが一番良いと気づいたのか、それからは魔法石はエイガ公爵領産のものしか出回っていない。

 この国だけではなく、近隣諸国にも魔法石を卸しているため、一つの店に魔法石を卸せるのはごくわずか。

 魔法石は平民から貴族まで生活には欠かせない。質や大きさには違いはあっても、今や必需品なのだ。

 だから、沢山の人に行き渡らせるためにはどの店に幾つ卸すかなど厳重に管理されている。

 恐らく、ゼニーノ伯爵家はもっと融通してほしいが為に将来公爵夫人になるリンダ嬢に近づいたのだろう。現に、これ以上騒ぎに巻き込まれたくないと言わんばかりに、リンダ嬢に腕を絡まれているのを必死に剥がそうとしている。


「皆さん、どうかいたいけなこの私を助けてください。そして、新たな婚約者となるレイス様との幸せを祈ってくださいませ」


 いたいけ……いたいけねぇ……この王族のためのパーティーで、やらかしている女が自分のことをいたいけなんてよく言えたな。

 周りの連中はというと様子を見ているが、リンダ嬢に対して冷たい視線を送っている人ばかりで安心した。


「エドワルド様の暴力や言葉に傷つきましたのでもちろん慰謝料はいただきます」


 まさか慰謝料まで請求されるとは。それなりには支度金として定期的に渡していると聞いていたが、それじゃぁ足りないってことか。公爵家だから贅沢できると思ったのにあてが外れたんだろうな。

 エイガ公爵領はどの領地よりも稼いでいる。それもこれも魔法石のお陰で。しかし、魔法石を得るためには危険が伴う。ハイリスクハイリターンだ。

 そのため、魔物の襲撃によって建物などが壊されることも多く、年がら年中復興資金が必要なのと、討伐する際に怪我や亡くなってしまって働き手がいなくなってしまった家には見舞金を渡しているから贅沢三昧なんてできない。公爵家としての体裁を整えるだけの収入はあるが、贅沢三昧するわけにはいかないのがエイガ公爵領なのだ。

 はぁ……そんな事も分からないのかこの女は。もう、いい。両親には悪いが、俺は結婚しないで養子を取るパターンだな。


「リンダ嬢、婚約破棄、承知した。陛下の了承を得なければならないが……しかし、我が家の名誉にかけてあなたに暴力を振るったこともないし、尊厳を踏みにじるような言葉をあなたに言ったことはないと否定はさせてもらおう」


 婚約破棄は賛成だ。こんな女を嫁にしなくて良かったなんて、むしろありがたい。しかし両親のほうをチラと見ると、母親は倒れそうになっていたし、それを支えている父親もそんなまさかといった表情をしている。

 あの気丈な母親が倒れるとは、よっぽどショックだったのか。両親は猫を被ったリンダ嬢しか知らなかったから、尚更ショックを受けているのだろう。


「エドワルド様ひどいです……私は、エドワルド様のような見た目の方でも婚約して差し上げたのに……潔くご自分のしたことをお認めになってください」


 婚約して差し上げた、か……確かに両親はこの婚約に乗り気だったが、俺は頼んじゃいない。


「これはなんの騒ぎだ」


 陛下が現れ、騒がしかった会場が静まる。会場にいた全員が臣下の礼をとる。

 その間に宰相が今起きたことを説明している。


「皆、おもてをあげよ。して、リンダ嬢といったか。そなたはエイガ家のエドワルドとの婚約破棄を望んでいるとか」


「はい! その通りでございます。エドワルド様はアガルト殿下とも親しい間柄だとお聞きしております。しかし、王家の方々も信頼している公爵家の次期当主様がこのような卑劣な事をするなんて……私は勇気を持って彼の人柄をお伝えします。そして、こんな方と結婚するなんて私は耐えられません」


 アルの誕生日の祝いの日に、陛下に対してよくそんなペラペラと話せるな。王家の方々も巻き込んだ婚約破棄だなんて、醜聞でしかないのに。


「ふむ……では、私が正式にこの時をもって婚約破棄を認めよう」


「ありがとうございます!」


 こんなことになるなんて、本当に王家の方々には申し訳ない。が、陛下に婚約破棄を認めてもらえて正直安堵している自分がいる。

 正式に陛下の許しを得た婚約を破棄するのは難しいかと思っていたが、良かった。

 陛下から婚約破棄をしていいと無事に許可をいただけて、安堵しているとレイス・ゼニーノがなにやら言い訳がましいことを言い始めた。


「陛下! 恐れながら、発言をお許しいただけますか」


「そなたは……」


「ゼニーノ伯爵家のレイスと申します」


「ほお。許す」


「ありがとうございます。今回のこの婚約破棄騒動は、私にはなにも関係ございません」


「は? レイス様、何をおっしゃっているの?」


「うるさい、バカ女。エイガ公爵家に目をつけられたくないのが分からないのか」


「な、な、バカ女ですって? あんなに綺麗だって、あなたみたいな方を妻に迎えられる男性が羨ましいって言って、沢山贈り物をしてくれたじゃない」


「お前が次期公爵夫人になるっていうから、便宜をはかってもらえるかもしれないと思って、よいしょしていただけだ。陛下、公爵様、確かに私は便宜をはかってもらえるかもという下心がございましたが、誓って、誓ってこの女との間にやましいことはありません」


「ひどい! 私を騙したのね!」


 まぁ、そうだろうな。うちに歯向かって、魔法石を卸してもらえなくなったら大打撃だろうし。騙したって言うが、ただの客へのリップサービスしか言っていないんじゃないかその男。そもそも、このバカ女と結婚したいと思う男がいるんだろうか。


「接客には多少のリップサービスはつきものだ。そんな事も分からないのか」


「なによ、公爵家の人達はあまり贅沢させてくれないから、あんたの方が沢山贈り物をくれるから貢いでくれると思ったのに、とんだ誤算だわ。陛下、申し訳ありません。私はこの男に騙されていたのです。エドワルド様との婚約継続を望みます」


 いやいやいや。せっかく、陛下の許しを得て婚約破棄出来たのに、誰が婚約継続を望むか。この女、思っていた以上にやばい女だ。


「はて、そなたは先程、こんな卑劣な事をする男とは結婚するなんて耐えられないというから、私は婚約破棄を認めると言ったのだが」


「申し訳ありません。私が騙されていたばかりに……ですが、公爵様もエドワルド様も私がいないとお困りになるでしょうから」


 ずいぶんと舐められたものだ。そりゃぁ、結婚できて血の繋がった後継者が生まれたら嬉しいが、そんなバカにされてまでなんて両親も望まないだろう。


「いいや、婚約は破棄だ。しかし、先程そなたが言った理由からの婚約破棄ではない。エドワルドがそなたに暴力をはたらいたり、暴言を言ったことはない。よって、名誉毀損と侮辱罪、それに一方的な婚約破棄を宣言したことに対する慰謝料をエドワルドへ払うことを命じる」


 ほっ。良かった。ここでやはり、陛下にも先程の破棄はやはり無しと言われたらどうしようかと一瞬不安になったが、こちらの味方でいてくれたようだ。

 しかも、むしろこちらへ慰謝料を払うようにまで言ってくださった。


「そんな……暴力や暴言がなかったなんてどうして言えるんですか?」


「そなたは先程、エイガ公爵家の事を王家の信頼厚い家だと言っていたな」


「え? は、はい」


「その通りでな、私も私の家族もエイガ公爵家の者たちを信頼している。だからな、そんなエイガ公爵家の嫁となる者も、信頼できる者なのか調べる必要があると思わぬか?」


「あの……その」


「そなたには秘密裏に王家の影をつけておったのだ」


「っ! ひ、ひどいです!」


 なるほど。数回しかリンダ嬢には会っていなかったが、時折護衛のようなものがいるとは思っていた。まさか王家の影だったとは。

 そこまで我が家が王家の方々に気にかけていただいていたとはありがたいことこの上ない。


「どうした、なにを焦っている」


「プ、プライバシーの侵害だわっ」


「高位貴族ともなれば、常に護衛がつく。それと大差ない。実際にそなたの身に何かあれば助けるようにいってあった」


「う、嘘だわ。これは誰かの陰謀よ。それに……それに、公爵様たちもエドワルド様に結婚相手がいないと困るでしょ。誰もが結婚したくないと言っているエドワルド様と私が結婚してあげるって言ってるの!」


 ああ、分かっているさ。誰も俺とは結婚したがらないことなんて。それを今更、こんな大勢の人の前で言うほど俺は彼女に嫌われていたってわけだな。

 なんて冷静に考えていたら、信じられないことを言い出した。


「そのことなら心配には及びません」


 ミリアリア様が俺の目の前まで進んでくると、その小さな可愛らしい手で俺のゴツゴツとした剣ダコだらけの手を取る。


「ずっと、ずーっと前から貴方のことが好きです。エドワルド様に婚約者が決まり、一度は諦めましたが……その婚約が破棄されたのならどうか私と結婚してください」


 辺りがシンと静まりかえる。

 なにを、何を言っているんだこの方は。こんな、大勢の人の前でそんな事を言ったら、もう取り返しがつかないじゃないか。

 あまりの驚きに、口がポッカリと空いてしまった。ここでミリアリア様の求婚を断ったら、彼女に恥をかかせてしまう。そんな事、できるわけがない。しかし、話しを受けてしまったら本当に結婚するしかないんだぞ。前のときとは違うんだ。

 悩んだのは一瞬。やはり、王族に恥をかかせるほうがこの場は良くないと判断して、言葉を発する。


「こ、光栄です。どうか、私に貴方の夫となる栄誉をいただけますか」


「もちろんです!!!」


 その時のミリアリア様は、本当に本当に嬉しそうに微笑んだ。その顔がまた可愛かった。


 陛下は一瞬、虚をつかれたような表情をされたがすぐにいつもの威厳のある顔で咳払いを一つし「エイガ公爵家のエドワルドと、私の娘ミリアリアとの婚約を認めよう」と、宣言なさった。

 まさか、宣言をなさるとは思わなかった。引っ込みがつかないんじゃないかこれは。


「こ、こんな事あって良いはずがないわ! 私が公爵夫人になるはずだったのよ! わかったわ、ミリアリア様が私を陥れようとしたんですね。私が小柄で綺麗で優秀だから!」


 は? 俺のことはどんなにバカにされても構わないが、ミリアリア様を悪く言うことは許さないぞこの女。ギロリと睨みつける。そもそも、お前のどこがミリアリア様より優っているんだ? 容姿も明らかにミリアリア様のほうが可憐で美しいし、成績だって学園では中の下あたりだっただろうが。こんなんで、本当に公爵夫人になるつもりなのかと心配したほどだ。


「君は王家を嘘つき呼ばわりしたにもかかわらず、ミリアリアの事も侮辱するのかね。ふむ、イヤーナ子爵家は王家になにか含むところがあるようだ」


 リンダ嬢はようやく王族に対して言ってはいけないことを言ってしまったと理解したのだろう。今まで以上に焦り始めた。

 人波をかき分けてイヤーナ子爵夫妻が転がり出てきた。


「陛下、お、お待ち下さい。娘が大変、失礼なことをいたしました。しかし、我が家は決して王家の皆様方に含むところなどございません」


「そうかそうか。そなたらは王家に忠誠を誓っていると、心からそう言えるか?」


「もちろんでございます」


「だが、リンダ嬢がこれだけの騒ぎを起こしたのは事実。沙汰は後ほど伝えよう」


「む、娘を修道院へ入れ、二度と王都へ来れないようにします。エイガ公爵家にも慰謝料を払います。ですから、どうか」


「分かった。それで今回のところは許そう」


「ありがとうございます」


 リンダ嬢は修道院と聞いて、小さく悲鳴を上げた。

 お前、むしろあれだけ王家と公爵家へ無礼をはたらいておいて、修道院行きだけで済んだことを幸運に思う所を悲鳴を上げるとは。


「待ってよ、お父様! 勝手に話を決めないで。私は悪くないもの」


「お前は黙りなさい。これ以上どうなっても知らんぞ。申し訳ありません、すぐにでも荷造りをし西の修道院へ向かわせますので、今日はこれで失礼させていただきます」


「ああ行って良い。さて、レイスよ、そなたは商売からの下心があったとしても行き過ぎた接客をしたのは間違いがなく、このような騒動をを起こした原因の一端ではあったと思う。しかし、リンダ嬢の真の姿が分かり、エイガ家にあのような嫁を迎えずにすんだことも事実。そなたや家には特に沙汰は出さぬ。しかし、くれぐれも接客の態度には気をつけるように徹底しろ」


「はっ、かしこまりました」


 レイスは首が千切れてしまうのではというくらい、首を振りさっさとその場から退場していった。

 確かに、今回こんな騒動に巻き込まれて迷惑だったが、あの女を嫁にしなくてよくなったことには感謝しかない。今後、あの店に魔法石を卸すかどうかはあちらの出方によってだな。


「さあ、色々あったが今日はアガルトの二十歳の祝いだ。みな、存分に楽しんでいってくれ」


 会場に華やかな曲が流れ始めた。先程から、ミリアリア様にずっと手を取られていて自分の手汗が気になる。いつ手を離そうかとアルとアリサ嬢のダンスを見ながら考えていると、ミリアリア様に踊りに誘われてしまった。


 俺の手を引っ張り、ステップを踏み始める。まさか、俺がミリアリア様と踊っているなんて夢のようだ。

 しかし、俺は今後のことを考えるとどうすればいいのかと現実逃避し始めたのだった。




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