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時が流れるのは早いものね。
私達は二年生に進級した。変わったことといえば、私が生徒会役員に選ばれてやることが増えたことくらいかしら。
音楽祭や学園祭などが控えていて、とても忙しく充実した日々を過ごしている。
これではあっという間に卒業してしまいそう。って、ダメダメダメー。もうあと半年で、エドワルド様が結婚してしまう。流石に結婚してしまったら、どうにもならない。
あっ、そうそう忘れてはいけない変化がありました。私の身長が152cmに伸びたのです。この世界で女性の理想身長は145cm。だから私は身長が高くなってしまったことで、前より絶世の美少女要素が薄まってしまった。気にしてないけど。
それでもエドワルド様とは多分30cmくらい差があるの。
あまりにも差がありすぎると、子どもを産む時に大変だと聞いたことがあるから、私は身長を伸ばすために毎日牛乳を2リットル飲んで頑張った。そのおかげか、前より8cmも伸びたの! でも、せめてあと3cmは欲しい。
そういえば、アリサ様もお兄様との身長差を気にして、毎日牛乳を飲んでるって言ってたわね。
この一年半、私だって何もしていないわけじゃない。情報収集に勤しみ(主にアリサ様とカリナ様の協力の元)、お父様にはやはり私か決めた方と結婚したいから、絶対に次は私がこの方と結婚したいと言ったら必ず認めてください、そしたらお父様を無視しません。って言ったら、もちろんだ! って。食い気味に言われたわ。それに、誓約書まで書いてくる始末。よっぽど私に無視されているのがつらかったみたい。
お兄様はアリサ様から聞いていたのか、応援してるよって言ってくれたし、宰相からは諦めないことですって、飴ちゃんをもらった。大っぴらにはしていなくても、宰相も応援してくれてるっぽいもんね。こんなに、たくさんの人が応援してくれるんだもの私は諦めないわよ!
そう決意を新たにしたところで事件が起きた。
事件が起きたのは、エドワルド様の結婚があと3ヶ月後と迫ったあるパーティーでのこと。刻一刻とエドワルド様の結婚が近づいてきているのに何も出来なくてやきもきしながら私もパーティーに参加していた。パーティーには、十六歳のデビュタントを済ませてからちょこちょこ参加している。
今回はお兄様の二十歳の誕生日をお祝いするパーティーだったのだけど、そこであのリンダ嬢がやらかしてくれました。
パーティー会場はそろそろ場も温まり、本日の主役のお兄様がもう少しで現れるという少し前。
「エドワルド・エイガ様、婚約破棄させていただきます!」
周囲の、え、お前何してんの? という視線もなんのその、リンダ嬢は言葉を続ける。
「皆さん、聞いてください。私、リンダ・イヤーナはこちらのエドワルド様に何度も暴力をふるわれ、結婚した際にはお前は俺の所有物になるのだと尊厳を踏みにじられるようなことや暴言を言われてきました。周りの方々に助けを求めようにも、エドワルド様は公爵家の方。子爵家の私にはどうすることもできません……ですが、このような場でならきっと、皆さんが助けてくれるのではないかと勇気を出して告白いたしました」
その時の私は、『あ゛ーーーーーん。お兄様のお祝いの場だというのに、何やってくれてんのよ。こんなお目出度い日を台無しにするつもり?』と『えっ、リンダ様がご自分からなんか問題起こしてくれちゃってる。嘘でしょラッキー』と『はぁーーーー? エドワルド様がそんな事をするわけ無いじゃん。意味不明なこと言わないでくれる?』という、三つの考えが頭を埋め尽くしていた。
周りはなんだなんだ、とザワついている。
「そしてそんな傷ついた私の心を癒やしてくれた、伯爵家のレイス・ゼニーノ様と新たに婚約いたします」
うん、さっきからずっと気になってた。リンダ様はなぜ婚約者ではない男の方と一緒にいらっしゃるのかと。なんなら、腕を巻き付かせている。リンダ様が高らかに宣言した途端、レイス様は顔を真っ青にしてその腕を振りほどこうと必死みたいですけど?
「皆さん、どうかいたいけなこの私を助けてください。そして、新たな婚約者となるレイス様との幸せを祈ってくださいませ」
えー、凄い。自分でいたいけとか言ってるし。エドワルド様との婚約を破棄させたいとは思っていたけど、ご自分から婚約破棄を言いつけるとは。私、あなたの瑕疵を見つけてどう婚約破棄させようかめちゃくちゃ悩んでたのに。
みんなどうしたものかと様子を見ている。
「エドワルド様の暴力や言葉に傷つきましたのでもちろん慰謝料はいただきます」
すごい、あんな大嘘ついておいて慰謝料までもらおうとしてる。隣のレイス様、今にも倒れそうだけど大丈夫?
「リンダ嬢、婚約破棄、承知した。陛下の了承を得なければならないが……しかし、我が家の名誉にかけてあなたに暴力を振るったこともないし、尊厳を踏みにじるような言葉をあなたに言ったことはないと否定はさせてもらおう」
エドワルド様は今日も素敵。
エイガ公爵夫婦はというと、ショックを受けて夫人がふらついて倒れそうになった所を公爵が支えていた。公爵もそんなまさかといった表情をしてリンダ様を見つめている。
「エドワルド様ひどいです……私は、エドワルド様のような見た目の方でも婚約して差し上げたのに……潔くご自分のしたことをお認めになってください」
この女、この女、絶対に許すまじ。なーにが、『エドワルド様のような見た目の方でも婚約して差し上げたのに』よ。上から目線すぎるでしょ。いっとくけど、あんたの容姿だって微妙なもんよ。前世的にも今世的にも。
「これはなんの騒ぎだ」
会場が騒がしかったから、早めにお父様たちか来てくれたみたい。みんなが臣下の礼をとる。
その間に宰相が、今起きたことを説明している。お父様はなんとも険しい表情だ。
「皆、おもてをあげよ。して、リンダ嬢といったか。そなたはエイガ家のエドワルドとの婚約破棄を望んでいるとか」
「はい! その通りでございます。エドワルド様はアガルト殿下とも親しい間柄だとお聞きしております。しかし、王家の方々も信頼している公爵家の次期当主様がこのような卑劣な事をするなんて……私は勇気を持って彼の人柄をお伝えします。そして、こんな方と結婚するなんて私は耐えられません」
「ふむ……では、私が正式にこの時をもって婚約破棄を認めよう」
「ありがとうございます!」
喜色満面、自分の言い分が通ったと笑顔で告げたリンダ嬢。隣にいるゼニーノ伯爵令息は慌てて発言をした。
「陛下! 恐れながら、発言をお許しいただけますか」
「そなたは……」
「ゼニーノ伯爵家のレイスと申します」
「ほお。許す」
「ありがとうございます。今回のこの婚約破棄騒動は、私にはなにも関係ございません」
「は? レイス様、何をおっしゃっているの?」
「うるさい、バカ女。エイガ公爵家に目をつけられたくないのが分からないのか」
「な、な、バカ女ですって? あんなに綺麗だって、あなたみたいな方を妻に迎えられる男性が羨ましいって言って、沢山贈り物をしてくれたじゃない」
「お前が次期公爵夫人になるっていうから、便宜をはかってもらえるかもしれないと思って、よいしょしていただけだ。陛下、公爵様、確かに私は便宜をはかってもらえるかもという下心がございましたが、誓って、誓ってこの女との間にやましいことはありません」
「ひどい! 私を騙したのね!」
「接客には多少のリップサービスはつきものだ。そんな事も分からないのか」
「なによ、公爵家の人達はあまり贅沢させてくれないから、あんたの方が沢山贈り物をくれるから貢いでくれると思ったのに、とんだ誤算だわ。陛下、申し訳ありません。私はこの男に騙されていたのです。エドワルド様との婚約継続を望みます」
「はて、そなたは先程、こんな卑劣な事をする男とは結婚するなんて耐えられないというから、私は婚約破棄を認めると言ったのだが」
「申し訳ありません。私が騙されていたばかりに……ですが、公爵様もエドワルド様も私がいないとお困りになるでしょうから」
は? ヤバイヤバイ。この女本当にヤバイ。騙されていたとかの前に、散々エドワルド様を悪しざまに言って、しかも公爵家の方々がケチだからみたいな事を言ってたのに、何また婚約者におさまろうとしてるの? 怖いんだけど。
「いいや、婚約は破棄だ。しかし、先程そなたが言った理由からの婚約破棄ではない。エドワルドがそなたに暴力をはたらいたり、暴言を言ったことはない。よって、名誉毀損と侮辱罪、それに一方的な婚約破棄を宣言したことに対する慰謝料をエドワルドへ払うことを命じる」
「そんな……暴力や暴言がなかったなんてどうして言えるんですか?」
「そなたは先程、エイガ公爵家の事を王家の信頼厚い家だと言っていたな」
「え? は、はい」
「その通りでな、私も私の家族もエイガ公爵家の者たちを信頼している。だからな、そんなエイガ公爵家の嫁となる者も、信頼できる者なのか調べる必要があると思わぬか?」
「あの……その」
「そなたには秘密裏に王家の影をつけておったのだ」
「っ! ひ、ひどいです!」
慌てだすリンダ様。そうよねー、だって全部嘘なんだもの。
それにしても、王家の影をつけた理由ってほんとにそれだけ? もしかしなくても、私がまだエドワルド様を諦めていなかったから、お父様もリンダ様の事を調べていたとか? 公私混同ね。でも、グッジョブお父様!
「どうした、なにを焦っている」
「プ、プライバシーの侵害だわっ」
「高位貴族ともなれば、常に護衛がつく。それと大差ない。実際にそなたの身に何かあれば助けるようにいってあった」
「う、嘘だわ。これは誰かの陰謀よ。それに……それに、公爵様たちもエドワルド様に結婚相手がいないと困るでしょ。誰もが結婚したくないと言っているエドワルド様と、私が結婚してあげるって言ってるの!」
「そのことなら心配には及びません」
ここは私の出番ですよね! 今までは、事の成り行きをお父様にお任せしていたけれど、ここから先は私も黙っていないわ。
すっとエドワルド様の側まで行き、その大きな剣ダコだらけの手を取る。
「ずっと、ずーっと前から貴方のことが好きです。エドワルド様に婚約者が決まり、一度は諦めましたが(諦めていないけど)……その婚約が破棄されたのならどうか私と結婚してください」
辺りがシンと静まりかえる。
エドワルド様のお顔ときたら、驚愕って言葉がピッタリね。他の貴族の方たちも、顎が外れるんじゃないかってくらい驚いて口が空いている。
前に告白したときとは違って今回は沢山の人が聞いている。もしここで断ろうものなら、私に恥をかかせてしまう。
断るなんて、できないわよね? うふふ。
「こ、光栄です。どうか、私に貴方の夫となる栄誉をいただけますか」
「もちろんです!!!」
わーい、やったーーーーーーーー! 言質取ったよ。取っちゃったよ。エドワルド様が私の夫になってくれるって。キャー。
まさかこのタイミングで私が求婚するとは思っていなかったお父様が、えって顔を一瞬されたけど、誓約書を思い出したのか、こほんと咳払いを一つして「エイガ公爵家のエドワルドと、私の娘ミリアリアとの婚約を認めよう」って、宣言してくださった。
「こ、こんな事あって良いはずがないわ! 私が公爵夫人になるはずだったのよ! わかったわ、ミリアリア様が私を陥れようとしたんですね。私が小柄で綺麗で優秀だから!」
いや、確かにあなたのほうが小柄ではあるけど、綺麗も優秀も私のほうじゃない? だって、あなた学園では一度もAクラスになったことがないって聞いてるわよ。
「君は王家を嘘つき呼ばわりしたにもかかわらず、ミリアリアの事も侮辱するのかね。ふむ、イヤーナ子爵家は王家になにか含むところがあるとみた」
そこでやっとまずいと表情をしたリンダ様。人波をかき分けてイヤーナ子爵夫妻が転がり出る。
「陛下、お、お待ち下さい。娘が大変、失礼なことをいたしました。しかし、我が家は決して王家の皆様方に含むところなどございません」
「そうかそうか。そなたらは王家に忠誠を誓っていると、心からそう言えるか?」
「もちろんでございます」
「だが、リンダ嬢がこれだけの騒ぎを起こしたのは事実。沙汰は後ほど伝えよう」
「む、娘を修道院へ入れ、二度と王都へ来れないようにします。エイガ公爵家にも慰謝料を払います。ですから、どうか」
「分かった。それで今回のところは許そう」
「ありがとうございます」
リンダ様は修道院と聞いて、小さく悲鳴を上げた。
「待ってよ、お父様! 勝手に話を決めないで。私は悪くないもの」
「お前は黙りなさい。これ以上どうなっても知らんぞ。申し訳ありません、すぐにでも荷造りをし西の修道院へ向かわせますので、今日はこれで失礼させていただきます」
「ああ行って良い。さて、レイスよ、そなたは商売からの下心があったとしても行き過ぎた接客をしたのは間違いがなく、このような騒動をを起こした原因の一端ではあったと思う。しかし、リンダ嬢の真の姿が分かり、エイガ家にあのような嫁を迎えずにすんだことも事実。そなたや家には特に沙汰は出さぬ。しかし、くれぐれも接客の態度には気をつけるように徹底しろ」
「はっ、かしこまりました」
レイス様は首が千切れてしまうのではというくらい、ブンブンと首を振ってさっさとその場から退場していった。
ある意味では、私の恋のキューピットだわ。ありがたやありがたやーと念だけ送っておく。
「さあ、色々あったが今日はアガルトの二十歳の祝いだ。みな、存分に楽しんでいってくれ」
会場に華やかな曲が流れ始めた。
最初にお兄様とアリサ様が一曲踊ると、次の曲からはみんなパートナーと踊り始める。
「さぁ、エドワルド様。私と踊りましょう」
エドワルド様の手を引っ張って、私達も踊り始める。エドワルド様は終始ぼんやりとしたお顔で、華麗に私をエスコートしてくれる。ダンスも完璧だなんて、流石エドワルド様だわ~。
この時の私はもう有頂天。エドワルド様が何を思っているかなんて、全然考えていなかった。




