7.抹茶のカフェの悪夢(4) 私のできること
「ちょっとちょっと! 本当に……!? あり得ないってばっ! あの子はとってもいい子なんだから! あっ、って言ってもレモンちゃんもだよ! いい子なんだから……通り魔だなんて話、絶対にあり得ないって!」
あまりにも叫ぶものだから、たぶんリヴィアが落ち着いてきたよう。女性に押されに押されまくって、混乱している俺の代わりに聞き込みをし始めてくれた。
「っていうか、三人で何しに来てたの? 女の子三人がカフェに集まるだなんて、何かの秘密会議の真っ最中だった?」
ぶどうさんはポカンとする。俺も、だ。普通は一緒にお出掛けとかと考えるのではなかろうか。
「な、何でそうなるの」
挙動不審になるぶどうさんを見て、ふと思う。リヴィアは何かを見出して、かまをかけたのだろうか。そう思ったのだけれども。
リヴィアは純粋に気になったようで。
「えっ、だって。同僚とかと一緒ってことはお仕事か何かで。あっ、学生さんだとすると校外学習か何か……」
何か触れたらヤバいものがあるのではないか、と。
バチバチ音が鳴っているような地雷にぶどうさんが触れる。
「普通は友達とワイワイどっかにお出掛けするってなるけど……」
「……お出掛け?」
「ええと、みんなでワイワイ」
「友達って一緒にお出掛けに行くっていうの……」
「……えっ? えっ? それってたぶん文化の違いってことでいいんだよね? 違うよね? えっ、ちょっと!?」
今度はリヴィアが「私はたまたまだよね!? たまたまいなかっただけだよね!? そういう友達が……!? まさか友達は……いや、私は……」と騒ぐ始末。
そのおかげで、ぶどうさんがフォローしようとしてくれていた。
「まっ、まぁ、三人共幼馴染だし。今日は……あたしのお兄ちゃんのお見舞いに行こうってなっただけだから……」
今度は俺が知るべきだろう。この話は聞かないといけない気がする。
「お見舞い?」
「……まっ、まだ目覚めないお兄ちゃんなんだけどね。病院でずっと寝てるの」
「病気ですか?」
「ううん……事故。会社帰りの事故だったの……。みんなで行こってなって。その前に近いこのカフェでお茶でもしてから……ってなって。よくみんな、ここに来てたから。今日も普通に集まってただけ……普通に集まって……下らないこと駄弁って……」
となると、皆常連。この辺の地理には詳しい訳だ、と。人を刺してから逃げて、ここに来る自信があったのかもしれない。
ただ残念ながら、男に関しても迷うことはなく。ここにやってきてしまった訳だけれども。
思考している合間に警察が到着して、聞き込みが始まっていく。
一人の若い男の刑事が状況を語っていた。
「外の方でナイフとジャンバーが発見されまして、ですね。被害者は首を凶器で斬られた状態で。犯人を追い掛けて……この店に入ってきたみたいですね。ジャンパーが発見された場所がこの店の裏だったため、被害者はそれを見てこの店かと勘違いしただけかもしれませんが」
その語り口調にぶどうさんがすぐさま反応した。
「ってことは刑事さん! 外に置いて、犯人がわざと外へ逃げたように見せかけたってこともあるんですね!」
「あっ、ああ……でも、一応君達にも話は聞かせてもらうよ。被害者は奥まで歩いて行ったって言うし、この店で取った行動とかもね」
「は、はいっ!」
刑事が話している間に俺はリヴィアの方に気に掛ける。彼女はだいぶ落胆した状態で椅子に座っている。生憎俺には慰め方が分からない。
せめて、何か甘いものをあげた方がいいだろうか。しかし、今の状況でカフェのものを提供してもらうというのも何とも。
どうしようかと思ったところ、レジ前に飴が売られていた。現場に落ちていた茶飴だ。
「あっ……これ、買っていいですか?」
そうウェイトレスに聞こうとしたら、刑事に止められてしまう。
「おーい、現場保存だぞー。まぁ、関係ないとは思うが……」
「あっ、はい……」
ううん、ダメだった。いや、そりゃあ事件に関係のあるかもしれないものを勝手に動かすのがどうかって話だ。
残念がる俺に見かねたのか。ウェイトレスがこっそり駆け寄ってくれた。
「……あのさ、飴がちょっと欲しいんだったらあるけど」
彼女はエプロンのポケットに入れていた茶飴を二つ俺へと。
「いいんですか?」
「まっ、色々ショッキングだっただろうからね……目の前で、あのクレーマーが意味分かんないことやってたし」
「ええ……ん?」
今、重要なことを言わなかったか。
「クレーマー?」
「ああ、あのクレーマー。結構うちに来るの。結構なサブカル野郎でね。他のお客さんと将棋とかチェスとかやるのはいいんだけど……負けると機嫌を悪くして、店員に八つ当たりするのよ。後は音楽や配信動画を大音量で聞いてたこともあったかな」
意外と多趣味な人だったのだな、と。
「情報をありがとうございます」
「情報をって……刑事さんじゃないんだから」
「あっ、ですよね。変なこと言ってすみません」
彼女から貰った茶飴に「ありがとうございます」とお礼を言って、リヴィアの方へ。「私なんてどうせ」とネガティブ思考に陥ってる彼女に。
「ほら」
「えっ? 飴?」
「これでも舐めたらって……こういう時は甘いもんの方がいいだろ?」
俺は飴を舐めて、舌に転がしていく。やはり茶の名産地と言われるだけあって、渋さと砂糖の甘さの調和が溜まらない。茶は飲み物としての茶だけではなく、調味料やお菓子としても文化は広がっていく。
「……ありがとう。やっぱやるじゃない。アンタ」
「そりゃ、どうも」
「それに比べて……私って何もできてないね。誰にも何もしてあげられないのに、誘ってもらおうとかしてもらおうとかって……バカみたい」
ふと思う。それは嘘だ。
「いや、違うでしょ。君には特別な何かがあるよね……魔法?」
「えっ?」
「朝の事件、俺は終わったと思ったよ。包丁が顔に突き刺さって。終わったと思った。でも、助けてもらったよね」
「そ、それは……」
「ちょっと現実味が足りなかったけど……あの場で異世界から来て魔法で何とかできたのってリヴィアだけだからさ。ありがとうが遅くなって、ごめん。ありがとう」
リヴィアはようやくニコリと。何だか本当に笑ったみたいになって。
「じゃあ、私は私のできることをしてみよっかな」
「えっ?」
「一つ、大きな疑問があって。これに関してはたぶん私しかどうにかできないんじゃないかって思ってさ。信濃が励ましてくれるんなら、できる気がする。成功するかどうかは分かんないけど」
「何か作戦があるのか……分かった……頼んだよ」
「まっ、その前に捕まえちゃっててもいいけどね!」
そう言って、彼女は刑事が止めるよりも早く店から出て行った。刑事が「おい! 待って」という静止も聞かず。
「ああ、大丈夫ですよ。彼女、そこの河で水遊びをするだけだと思いますから」
「はぁ!?」
その合間に俺はメッセージを解読する必要があるのだ。




