6.抹茶のカフェの悪夢(3) 犯人に繋がるメッセージ
救急車が来て、被害者の男は運ばれていった。かなりの出血だ。意識を取り戻すか、取り戻さないかは五分五分なところ。
何とか意識が戻ることを願って、俺達がするべきことは一つ。
「あのおじさん、最後何を言いたかったんだと思う?」
リヴィアはずっと考え込んでいる。カフェの中で起こった惨劇に対し、少々震えている様子はあるもののすぐに立ち直る。
「調べないとね……もしかしたら、この事件も異世界人が関わってるかもしれないし。犯人から色々聞きたいところだけれども」
捜査をするべき、と。
警察に任せるべきとの考え方もあるのだが。
「警察に捕まっちゃうと犯人と話せなくなる可能性も高いから。これは一応、隠密捜査……この場所の警官にも秘密、なの。だから警察署に行く訳にもいかないし。私が謎を解き明かすしかないのよっ!」
やはり、そうか。と言っても警察も異世界だか何だか事情を言ったとして、信じる訳がない。ただ奇妙な女子が狂言を吐いているとしか捉えられない。
「俺達が……か」
「本当は通り魔事件だから、警察に任せたいところなんだけどね」
「ああ……俺も、本来なら、だ……」
俺の手に余る事件。だと思うのだが。
気になってることがある。
被害者が最後にしていた奇妙な行動の数々だ。
将棋の桂馬を胸に当てたり、品書きを読んだり。
「ううん、あれって絶対意味があるよね。首から血を流してる状態で何か注文をしようとしてたって訳じゃなかろうに……」
リヴィアの発言が最もだ。
何よりも見逃せないこと。被害者が女性の方に対し、指を差したことだ。
ウェイトレスと女子三人組。ウェイトレスはずっとここで働いていたことを考えると、怪しいのは三人組。
「……あの中の三人に対し、何かを伝えようとしていたのかもしれないな」
なんて声が相手にも届いてしまったのか。
女子の中の一人がこちらを見やっていた。
疑っていることがバレてしまったら、逃げられてしまうかもしれない。警察が来る前に逃走されたら困る。
と思ったのだが。その彼女はただ一人でこちらに歩を寄せてくる。
彼女は最後に入ってきたテンションの高い女の子だ。どうやら一番ショックからの立ち直りが早かったらしい。
「ねぇ……今入ってきたおじさんのこと、知ってるの?」
俺に詰め寄ってくる彼女。
香りが強いことに気が付いた。香水の匂いが鼻に思わず鼻をつまみたくなった。つまるところ、他の二人も香水をしているから血の臭いに気付くことはなかったのだろう。
柑橘系か華のものか、分からない強い臭いを纏う彼女はこちらをじっと見つめている。
「えっ、いや……」
ふと彼女が犯人か。などとも思ってしまう位の勢い、近づき方だった。これはモテない男にとっては刺激が強い。
胸が当たらないようにひょいと後ろに下がったところでぼんと後ろの何かが当たる。
「んん? どうしたの?」
「ご、ごめん」
リヴィアの持っている大きなそれに触れて、体全体が痺れるような不思議な感覚を味わったことは言わないようにしておこう。彼女もたぶんたまたま当たったと思っているだけだろう。
俺の気も知らず、彼女は問いを続けてくる。
「何か知ってるよね? おじさんが最後に何かしてたよね!? あれって、何だったの……!? あっ、自己紹介まだでしたね。あたしは静原ぶどうって言いまーす!」
「えっ、ああ……何か探偵みたい」
「まぁ、探偵に憧れてるようなところはありますねー! ってか、貴方の方こそたぶん探偵さんですよね? 何か見慣れてる感ありませんか?」
「いや、まぁあるけどさ……」
ギャル探偵見習い、ぶどう。彼女は謎を口にする。
「ねぇ……さっきのおじさんの行動って何かのメッセージってこと?」
「たぶん」
「でもさぁ。それだったら、こいつが犯人です! とか言うか……すれば良かったんじゃね……って思うけど」
その疑問に対し、俺は喉元に手を当てていく。
「いや、たぶん喉をずっと抑えていたから。何か刃物で喉を切り裂かれたんだと思う。声帯にダメージがいったかどうかは分からないけどさ……喋ったり、叫んだりすれば間違いなく激痛は走ったはずだよ」
「そっか、喋れないはずってことか……賢いねぇ! 流石、探偵さん」
「それ程でも……」
「でも、それだったら文字に何か書いて伝えた方が良くね? と」
褒めつつ、疑問を投じてくるタイプだ。油断すると質問の波に襲われそうな感じがする。
戸惑った瞬間、リヴィアが強い眼光で推理を語る。
「犯人に消される可能性もあったってことを考えるのと、後一つ。犯人にそのメッセージを見られると困るのかも」
「困る?」
つまるところ、犯人は……。
俺が推理を進めようとしたところで違う物語が始まってきた。
「困ると言えば……私達デート中なのに、何で目をやってるの?」
「デート中だったの? それは失敬。でもでも、名探偵には優秀な助手がつきものだから……!」
「優秀って何よ? 今のやり取り見てれば、どっちの方が優秀かは明白じゃないの?」
何だか俺の取り合いが始まっているような。こんなことなんて初めてだから、どうすれば良いのかなんて全く分からない。おろおろおろおろするばかり。ちなみに吐いている訳ではない。困っているのだ。
確かに推理っぽいことを話していたのはリヴィアだ。しかしながら、ぶどうさんの方も負けじとニヤリ。
「……そこに落ちてたもう一つのメッセージを発見しちゃったんですよ」
「ん?」
俺が反応すると彼女は指を差して点々とした床の血の中に落ちている物体を指差した。何かが落ちているかと顔を近づけてみて、飴だということが分かった。しかも丸い赤の飴。いや、これはたぶん血塗れになっているだけ。
俺はほんの少しだけ血が付いていないところの色やほんのり香る匂いから飴の正体に気が付いた。
「お茶か……?」
ぶどう探偵は誇らしげに告げる。
「うん! このメッセージもまた犯人に繋がると思うの。そっ……犯人はお茶の飴を……? ん? お茶の飴? お茶ってことは……えっ? 嘘っ!? えっ、嘘!? まさか茶々が犯人とかって言わないよね!? ちょっと探偵さん!? どういうこと!?」
自分で見つけてきた証拠でパニックになる探偵とは如何なものか。俺の服を何度も引っ張っては戻しての繰り返し。破ろうとしていないだろうか。
リヴィアはリヴィアで「くやしぃ……先に解かれちゃった」と壁に手を付けて、苦い顔をしているし。
現場の状況もまた悪夢となっているのである。




