4.抹茶のカフェの悪夢(1) お見合い開始!?
そこから何故かとぼとぼと逃げられそうな感じが。俺のことを知っていることに加え、不審な様子も見せている彼女。
本当に逃がして大丈夫な存在なのかも怪しくなってくる。
「……待って。取り敢えず、行ってみたいカフェがあるし、そこで話でもしない?」
「えっ、と、あっと、その、お手柔らかに」
まさかまさかで告ってしまったことになってしまったことに後悔しているのだろう。
「君のことも知らないし。行くよっ!」
「う、うん! そこでお見合いをするってことでいいの!?」
「……まず、付き合うの意味について話し合っておく?」
「うう……できることなら、絶景スポットで告白するとかしたかったぁ! せめて、何かインパクトに残るような! そうだ! ビルの上から飛び降りながら、告白とか良さそうじゃない!?」
「シンプルに心中を勧めるなよ!?」
混乱している彼女。時に騒いだり、時に黙り込んだり。
落ち着かせるためにもやはりカフェに行くべきだろう。そして目指すべきは日本茶の中心地とも言えよう、静岡の喫茶店。
住宅地を抜けて、川のそばに建っている一つの抹茶カフェだ。
「ここに来たかったんだよ。抹茶のカフェ」
彼女は首を横に振る。
「日本について勉強したんだけど、抹茶って言ったら、京の都ってイメージがあるけどなぁ」
確かに、だ。京都の宇治抹茶など、抹茶の中では知名度トップと言えようもの。ただ、こちらはこちらで違うものがある。
「静岡の抹茶も玉露と一緒に栽培されていてね。どっちが上とか比べる気はないけど、こっちもかなり美味しいものなんだよ」
美味しいお茶にはコクのようなものもある。口の中でお茶の露を転がすことで、お茶の中に入っている渋み、苦味、旨味が舌に広がっていく。次第に体が温まって、ほっこりとした気分になる。
もうお茶の香りだけでもだいぶリラックス効果があると思う。製茶工場が途中にあり、そのおかげでだいぶ彼女の緊張も解れている。
「ううん、昔の人は和室でお茶を飲んでお見合いをしたって言うけど……こうやって落ち着いて話をするのにはお抹茶とか、緑茶とか飲むと……あっ、この人、リラックスする人なんだって勘違いしてくれるかもしれないな」
「何それ。あっ、それってもしかして吊り橋効果って奴? 怖いドキドキを恋のときめきと勘違いするってのと」
「そうだね。それそれ!」
「じゃあ、殺人事件のドキドキも……」
「えっ……?」
何をと思いながら、店の戸を開ける。ちゃりんと風鈴が鳴る音と同時に心の中で響き渡るものがあるような。うむ、これが恋という奴か。
そういえば、先程からドキドキしているような。いや、これこそ吊り橋効果に違いない。ヘラヘラしていたとしたら、絶対吊り橋から落とされるに決まってる。
「さて、じゃあ、付き合う前にお見合いする?」
彼女が案内される前に俺へとニカッと笑顔を見せてくる。何だか調子が狂うなぁ。
「……ってか、嫌じゃないのか俺のこと」
「まっ、嫌いじゃないよ。私の推理にケチ付けたこと以外はね!」
「……結構根に持ってるんだよな」
「うんっ! だから次に何かあったら目に物見せてやるんだからっ!」
彼女が意気込んだ瞬間、店員が川が見える窓とは反対側の席に俺を案内してくれた。
和のものを取り扱うカフェとして、畳のようなものもあり、小さなテーブルの上には将棋なんかもある。俺達がいるのも茶室のようなもの。拓けていることもあって、店の至るところまで見えるようになっている。
彼女にとっては珍しいようで。先程も日本を勉強したと言っていたし、この国の人間ではないようで。それでいて日本語は結構堪能なのだ。不思議な存在が過ぎる。色々聞いてみる必要があるだろう。
「で、まず付き合う前に知っとかないといけないでしょ」
「ちゃんと手順を踏まないとってことね。なるほど。これが日本のお見合いって奴か」
「何か違う気もするが……まぁ、いいや。俺は信濃って呼んでくれ」
「私の名前言ってなかったよね。リヴィアって言うのよ!」
「リヴィア……やっぱ、日本人じゃないのか」
「日本じゃなくて……こっちの人から言うと異世界人ってことなのかしら?」
頭の中が混乱状態に真っ逆さま。異世界人だ……と?
コスプレ好きの探偵志望とかではなく、か。
「異世界転移してきたってこと?」
まだあんまり信じられない。この子の正体については不審ばかり。まさにミステリー。
「ええ……あんま大騒ぎにできないけどさ……私、捜査官なのよ。この世界に隠れた異世界人の犯行や災害を止めるため、やってきたの」
ううん、あまりにも彼女は真剣だ。こちらを笑わせに来ている感じではない。しかし、だ。
「やってきて、冤罪を生み出そうとしたリヴィアの方がよっぽど災害だと思うけどな」
「それを言うなぁああああああああ! 私はポンコツ捜査官じゃなく、隠密指令を受けた、探偵捜査官なんだからっ!」
一つのセリフでだいぶ矛盾した。
リヴィアはハッとして、やってきたウェイトレスを見た。あははと口では出しているが、目はそうは言っていない。完全に俺達のことに呆れている感じだ。
一応フォローしておこう。
「すみません。今度の演劇の打ち合わせの衣装とセリフ合わせをしているだけなんです。うるさくしてすみません」
信じてはくれたみたいだ。ウェイトレスは水の入ったコップを置いて、「そ、そうですか。ではご注文がありましたらお呼び出し下さい」と言ってお品書きを俺の元へ。
他の客はいないことが幸いした。もし誰かいたとしたら、恥ずかしくて顔が燃えてしまっていただろうから。
「な、ナイスフォローね! それができるか、どうか試してみたのよ」
「滅茶苦茶な言い訳だなぁ」
「……ごめんなさい。ま、まぁ、ともかく色々異世界人のせいで大変なことになってるの。それを止めるために信濃と組めと上の人がとやかく言ってきてね」
「で、俺を探していたと……」
にわかには信じがたい。
そもそも異世界人が魔法を使ったら俺のような現実に生きる探偵はどうにもできないのでは、と。
「安心して。異世界人はどうやら人間を操るのが好きで。人間が物理的なトリックを使うのが楽しいらしいの。つまり、君が欲しいの……!」
「また告白みたいな言葉を……」
そんなことを言われると……惚れっぽい俺は嘘でも協力したくなってしまう。女の子の役に立てたら、なんて軽い感じの人間なのだ。俺は。
「分かった。リヴィアの協力をすればいいんだな?」
「うん! 捜査官として、次こそはちゃんと活躍するから、それをサポートしてくれれば大丈夫なのよ!」
「いや、俺の方がいいような」
「じゃあ、このカフェのおすすめメニューは推理できる?」
突如として俺の特技を披露しろと。悪いが、推理の必要もない。品書きやこの店のレビューに関しては勉強済み。
俺は一つ口にしてみせた。
「ここの抹茶や玉露、煎茶や深入り煎茶も美味しいみたいなんだけど、アレンジメニューが特におすすめなんだよ。抹茶オレや抹茶ココアは苦いのが嫌な人にも子供にも大人気! ここの看板メニューと言ってもいいかも」
どうだと驚いてもらおうとしたのだが。
彼女は品書きを見て。
「ないけど。そんなメニュー」
「うそっ!?」
確かに、だ。どうやら俺が写真で見た時とお品書きの内容自体が変わっている。特に甘い飲み物に関しては和菓子に入れ替わっていた。
予習不足だ。
「……俺も結構ポンコツってことかよ」
「まぁまぁ! お似合い同士、二人で頑張りましょ!」
そんな時だった。深みのあるお茶の香りの中に、ふとツンと強い、嫌な臭いが混じった。
気持ち悪くなりそうなこの強い臭気。
そうだ。今日二度目。
血の臭いだ。




