19.ダイヤを砕く大泥棒(6) 答え合わせ
その時、奴はショッピングセンターの唯一の魚屋の中に。その人物は鞄を持って、ある商品に手を出そうとする。そして、それを鞄の中に放り込もうとするから後ろに立って言ってやった。
「なぁ、リヴィア……それを鞄の中に入れたら万引きになるんだぞ?」
リヴィアは俺の声に対し、固まった顔で振り返る。何だか今までに見たことのない彼女の姿に動じてしまいそうになるも、耐えていく。
怖い顔になっていたのに気付いたのか、すぐに女の子らしい可愛い表情を意識し始める彼女。
「あはは……! 何言ってるの!? 別に入れようとしてた訳じゃないし……そもそも、もう六時……あの宝石を守らないといけないんじゃないの!? こんなことしてる場合じゃないでしょ!?」
勢いよく焦る彼女の顔。ころころと変わる彼女の感情の変化から俺の推理は間違いないと改めて確信した。
「怪盗の標的は、あのブラックダイヤなんかじゃないんだ」
「えっ!? だって、予告状には闇に変わったダイアモンドって書いて……」
「いや、違う。それだと売られてしまった場合をどうするのかが説明がつかない。別にあのブラックダイヤが予約をされている訳じゃあなかったし」
「……じゃあ、何だって」
「だから、その手に持った黒はんぺんの総菜だ! リヴィア……じゃなかったな! 怪盗クーアイ! アンタが狙ったのはそれなんだろっ!」
彼女はフフッと笑いながら。まだリヴィアの真似をして。こちらの不安を煽っている。
「ううん、どうしてその予告状が黒はんぺんになるっていうの? 黒はんぺんが売り切れてたら、どうなったの?」
「お魚屋さんであれば、大抵は総菜のリクエストができるだろ? まぁ、そんなことをしなくても売れ行きを確認して、違うものにしていたかもしれないが、な」
「違うものって?」
「だって条件に当てはまるものは何個かある。いわしのつみれとかも、だな。そっ、海のダイヤモンドダスト……つまり、海の宝石と言われるような魚達のことだ! その清純が闇に変わりし秘宝、つまり黒く食品加工された秘宝っていうことなんだよ! てっきり宝石だと思うから、誰もアンタの犯行に気付けないって訳だ!」
「だから、ここを見張っていたと?」
「正確にはリヴィアとここを、だな」
「ちょっと待ってよ。何でまだ私を偽物って話で進めてるの? その推理が間違ってるかもしれないじゃないの!」
今度は怒りに変わる彼女。流石、怪盗。昔から百面相と評されるだけはある。
「いや、何度か考えてリヴィアは違うって思ったよ」
「何でよ!? 何で!? ちゃんと貴方のことが大好きで大好きで、他の人に渡したくない位なのよ!? 何でよ!?」
やはり女性の姿を見ると、顔から熱が出てしまう。それに今の主張、かなり心に刺さるが……致命傷ではない。
だって今の主張、違うのだから。
「それが違うんだ!」
「違うって?」
「渡したくないって言うのが違うんだ。確かにリヴィアはアレンに対してライバル意識を持ってることは正しいんだ。でも、だ。今日ここに来る時も思ったけど……リヴィアはアレンのことも大切に思ってるんだ」
「ど……どういうこと?」
理解できなくて目をぱちくりさせているか。
「アレンと一緒に動くのを嫌がってないんだよ、リヴィアは。だからこそ、俺はアレンと一緒にいられた。リヴィアは自分だけが幸せにとは思ってないんだ。いろんな人に対し、平等にチャンスが訪れるようにって……不器用なところがあって、まぁ、そこも可愛いんだけど。そういう女の子なんだよ! 下調べが足りなかったな!」
「……そういう細かい気遣いとか……が大事だったってこと……? うう……」
悔しそうにして拳を握っている彼女。そこに人が集まってきて、警備をしていたぶどうさんやアレンまで現れた。たぶん、これも奴の狙いなのかもしれない。
ここからが勝負だ。
「……で、クーアイ……! アンタは何が目的だ?」
「ん? どういうこと?」
「アンタが海産物が欲しくてわざわざ予告状まで出して万引きした理由が分からない」
「へぇ、ここまで来た名探偵さんも分からないことはあるんだ」
「でも、分かることもあるんだ。アンタはわざわざ、ここに人を集めたよな。ここまで来るようになってるってことは……アンタがやりたかったことはリヴィアがこの状況で万引きしている姿をみんなに見られることなんかじゃないのか!?」
チラッとぶどうさんを見ると、彼女が説明してくれた。
「そうみたいだよー! 六時ちょうどになったと思いきや、いきなりひらっと予告状が飛んできて! 『魚屋の前に集合!』だなんて貼り紙が……! だから、アレンちゃん達とこうやって来てみたら……」
俺は頷いて、更にもう一つ推理できたことを語っていく。
「そして、クーアイ。アンタはリヴィアの姿で何度もダイアモンドって言ったよな? リヴィアはダイヤモンドって最初に言ってたんだがな。予告状でもダイヤモンドだったし、クーアイの方こそ間違って覚えてたとは思えないんだ。宝石に俺より詳しいだろう……アンタがな」
リヴィアがしないような怪しげな笑いを見せる彼女。そこに俺の答えを叩きつけてやる。
「そこから察するにアンタはリヴィアの万引きシーンを他の人達に見せつけること、そしてその真相を俺に暴いてもらうことが目的だったんじゃないのか!? 何でそんな矛盾したことをやるんだっ!?」
そこで彼女はついに、語り出した。怪盗クーアイが起こした事件の真相を、だ。何だか少しずつ重くなっていく雰囲気に胸を騒めかせて、聞いていく。
「それは貴方がちゃんとできる探偵かどうか見極めたかったから……かな。もし、そうでなかったら、徹底的な形でリヴィアを陥れたかっただけ。そうすれば警察に逮捕されて……ね」
「陥れるってどういうことだよ!? 何がしたいのか分からないんだよ!」
怪盗クーアイが陥れる人物と言うのは、それは。人を苦しめることで私腹を肥やした悪人達だけではないのだろうか。
アレンもリヴィアを庇いだす。
「あの子は貴方に何かをされるような謂われは無いと思うのですが……!?」
「あら……貴方も異世界の捜査官みたいですね。それなら理由が分かってるんじゃないの?」
「ん?」
「知ってるんでしょ? 各地で起きている未曾有の大犯罪! 異世界人が関わっているという、惨劇を! それを止めに来たようだけど……! 残念ながら名探偵さんがいるなら、こちらの出る幕はなさそうね!」
「り、リヴィアが……!?」
戸惑う俺達が混乱して。奴の言葉に真に受けている場合ではないと手を伸ばそうとした、その時だ。
煙が辺りを覆いだす。その上で目に染みる成分が入っているようで。目を開けてなんかいられない。
「待てっ! おい……待てっ!」
そう叫ぶ俺に対し、クーアイは煙の中に消えていく。
「ああ、安心して! ここにあった商品とかお魚、全部買っておくから! 商品にならないとか心配しなくていいからね!」
「そういう問題じゃあ、ない!」




