18.ダイヤを砕く大泥棒(5) 暗号文を解明せよ
「確かに言われてみれば……」
だいたい怪盗が狙うのと言えば、博物館や美術館の展示品と相場が勝手に決められている。売り物をターゲットにする理由があまりよく分からない。
一応、そういうケースがないのかとまず、ぶどうさんに確認してみる。
「過去の中国で起こした事件とかでさ、商品を狙ったのとかってあった?」
彼女は一応スマートフォンを確認してくれるものの、収穫はなし。
「見たところ、売り物と言うよりは資産家の隠し金庫を開けるとかが多いね……」
結果、今までに商品を狙ったケースはないと。ではもし買われてしまったらが分からないようだ。
一応、異世界でも犯行をしてきたようだからとリヴィアにも聞いてみることにした。
「なぁ、リヴィア。異世界ではこういう万引きみたいな犯行をした、とかあるか?」
「万引きなんてちゃちな犯行は聞いたことが無いわよね。ねぇ、アレン?」
アレンも首を縦に振って。
「そうですね。パワハラセクハラをしていた悪の将軍から書類を奪い取って告発したって言うのなら、あるんですけどね」
その言葉にぶどうさんが少しショックを受けたような表情で。「異世界でもそういうパワハラってあるんだ……何だか、イメージが違う……」と。
話としては異世界でもこのようなケースはなかったらしい。
不審な点はあるが、今は何を考えても分からない。ただ目に見える事実を優先しなくては、と再び暗号文を思い返す。
『海に浮かぶダイヤモンドダストが光る時、清純が闇に変わりし秘宝を頂戴する』
この暗号文。結局実際のブラックダイヤを見たとしても、何も分からない。アレンも腰をかがめて、実物を眺めて不思議そうにコメントする。
「ううん、ダイヤが光る時って言うのがどういうことなのかさっぱりですね。時間は六時ってちゃんと言ってるのに」
「そうだよなぁ……」
「あっ、信濃さん……実際に買ってみて怪盗が困るかどうか確かめましょうか?」
「もし狙いが違うものだったら、俺ただ破産するだけなんだけど……」
そのアレンの態度に対し、リヴィアがすぐに飛んできた。彼女はいきなり白い肌を俺の腕に押し付けて。
「ちょっと……何、信濃を困らせてるの?」
「別に困らせてなんてないですよ……」
「嘘つきなさい! 信濃は私と一緒に捜査するんだから、邪魔しないで。勝手に捜査なんてしたら、怒るわよ?」
「そうですか? ふふふ……怒ってる姿も可愛い」
ちょいとリヴィアがアレンから俺を強く守ろうとするから、その分柔らかい肌が当たって困る。彼女特有の甘くもあり辛みもあるような潮風の香り。ある意味、その肌の匂いからリヴィアが本物だと分かるような気もするのだが。
「それよりやっぱりアンタが偽物なんじゃない? だって、酒飲まないって言ってるんでしょ? いつものアンタだったら、もう飲む飲む言って暴れまくってるんじゃ」
「どんなイメージを持ってるんですか? それを言ったら、リヴィアちゃん、今日はちょっと頼もしく見えます。偽物じゃないんですか?」
「どういう意味よ、それ!? 絶対アンタをダイアモンドに近付かせないからね!」
「それは同じです。貴方を宝石に近付かせたら……いつ仕掛けをされるか分かりませんからね」
二人は終始睨み合っている。
俺はすっとリヴィアから離れ、ぶどうさんの方へ。
ぶどうさんも「何でここで喧嘩が始まるの!?」と驚いている模様。この二人はいつもそうなのだ。
に、してもリヴィアの言う通り、アレンの様子も酷く気になる。
「……何でアレンはいつもと違うんだ……?」
ぶどうさんは思い当たりがあったようで。スマートフォンをいじってから、こちらに提示してくれた。
「これじゃない?」
「ん? 婚活飲み放題って……アレンは別に婚活をしてる訳じゃ……」
「いやぁ……まっ、怪盗クーアイが化けて、そういう設定にしてるってのもあるかもだけど」
「なるほど……女性の方は安くお酒飲み食べ放題……今日それに参加したいから……お酒を控えてるって訳ね」
「それにやっぱり海鮮かぁ……ううん……。ねぇ、信濃くん」
「ん?」
「あたしも年齢偽って参加してきてもいいかなぁ……何か、すっごく美味しそうで……」
「そんなことしなくても、ちゃんと守りきったら、それ位ここの店員さんが色々奢ってくれるんじゃないか?」
今の発言で店主がのけぞりそうになっていた。まさか、お礼をケチるつもりだったのだろうか。すぐに彼は「ええ、そうですね……皆さんが食べる位なら……」と。
「だったら店主さん、幻の名酒と呼ばれるものをですね……ああ、それなら山梨の超高級ワインもお礼にしていただけると……」
「私もいいかしら? それだったら、信濃との世界一周旅行とか」
アレンとリヴィアが暴走し始めた。これだとブラックダイヤが盗まれた方がお得なのでは、と思えてきてしまう。
「怪盗よりヤバいことやってやんなよ……って」
ふとぶどうさんのスマートフォンの画面が再度、目に映った。
「あれ……」
「どうしたんですか?」
アレンがこちらの固まった様子に気付いてくれた。
「いや……以前、テレビでこういうのを見掛けたことがあるんだ」
「ああ、この料理、一度テレビで特集されたことあるみたいって銘打ってましたね」
「……テレビ特集……となると……ああ……!」
怪盗クーアイがしたいこととは。
全てではないが、少しだけ片鱗が見えた。
もう一度思い出す、暗号文。「海のダイヤモンド」の本当の意味。
そして、少しずつだけれども。何となくだけれども。降り積もったあの人への違和感や不信感。
リヴィアがまたもや、こちらに近付いてきた。
「信濃、状況はどう? やっぱ、アレンが偽物? いや、むしろ今までの感じが偽物であってくれた方がいいのかしら……」
「偽物だったら、逆にちゃんとシスターになりきらない?」
「じゃあ、やっぱり今のがちゃんとした偽物?」
「ちゃんとしたって本物がちゃんとしてないみたいじゃないか……いや、否定はできないけども」
この推理力、リヴィアっぽい。
あのちゃんちゃらな感じ、アレンっぽい。
あまりピンと来ないぶどうさん。今、「ひどっ」と言われたような気はするが。こちらは何も喋っていないから空耳だろう。
「でも……何となく意味は分かった気がする……怪盗クーアイ、何を考えてるんだ……アイツ……!」




