17.ダイヤを砕く大泥棒(4) 怪盗への疑惑
困惑する俺に対し、「それよりも」とぶどうさんはダイヤについて見ておくことを提案した。
「ブラックダイヤだったよね。『海に浮かぶダイヤモンドダストが光る時、清純が闇に変わりし秘宝を頂戴する』って話だから、海からやってきたダイヤが作る過程によって黒くなっていったっていうのがここにあるみたい」
彼女に案内されて宝石店の中へ。眼鏡をかけた宝石店主が「ようこそ、探偵さん達ですよね? お待ちしておりました」と俺達の方へ視線を向ける。
彼に問い掛けるべき、質問がある。
「あれ、ブラックダイヤって天然のダイヤですよね」
「ええ。天然の硫化物等が混じることにより、アフリカ等で採掘されることがあります。が、ここにあるのは残念ながら、先程の子が説明した通り、日本で作成された人工物。天然と比べると、少し価値が下がります」
と説明されて値段を見て分かる。多少値段が下がったとはいえ、こちらが気軽に手を出せる価格ではないと。
それは分かったのではあるが。
「でも、かといって、唯一無二の特別な製法で?」
「いえ。そこまではないのですが……」
疑問が残りまくる。怪盗が狙うというのだから、かなり由緒正しいものかと思っていたのだけれども。
「じゃあ、持ち主が次々死ぬとかっていう呪いの伝説も?」
「お客様にそんな大変なものを売る訳にもいきませんよ……裕福になるっていう伝説がある訳でもないですが」
「じゃあ、何でわざわざ静岡にまで来て、他の場所にもあるとされるブラックダイヤを狙うんだ……?」
ぶどうさんが説を出していく。
「じゃあ、ただいま観光中だったとか?」
「その可能性もあるけど……静岡は富士山空港だけ……。中国にも行き来はできるけど……何故そこを選んだのか。他の空港はもっと駅に近かったり、都心で行けたりして……」
「おお、やはり旅情探偵、そういうのは下調べしていて詳しい……!?」
「まぁ……後は特に観光中の場所で盗みをするっていうのが、どうもね。だって、逃げにくいじゃないか。逃走ルートがしっかりしてる場所を選んだ方がいいと思うんだけどな」
「そういうスリルもあるとは思うけど……」
怪盗クーアイは中国で活動していたのだから、そちらでブラックダイヤを狙った方が良かったのではなかろうか。わざわざ静岡に標的を狙った理由が全く分からない。
47都道府県の中で何故。
先程近くの窓で見た富士山を見て、考える。富士山から魔力を得たというのであれば話は分かるが。そもそも怪盗に関しては変装する魔術がほぼ完璧ではあるはず。ここに来て、というのもよく分かってはいない。
「……後、鼠小僧的な泥棒なんだよな……」
俺はこそっとぶどうさんに伝えてみせた。彼女も大声を出さないように口に人差し指を付けて。
「んっ? ってことは何が言いたいの? もしかして……あの店主さんが何か企んでるとか?」
「んん……まぁ、かといって、何で値段の低いダイヤを盗んだりして売りさばいたっていうのが気になるんだよなぁ。宝石店主が悪なのか、それとも……」
「それを売りさばいたバイヤーとかが悪とか?」
「まっ、それもあるかもしれないけど……だったら中国で暗躍していた奴等をとっつかまえて、ここに来たって流れなら……ちょっと納得できるかもな」
ただ、ここまで普段と違うのであれば。偽物なのではとは思ったけれども。
「うう……ただいま……変な物掛けられた……!」
戻ってきたリヴィアの少し砂を被ったような姿に、違うと思った。たぶんアレンが説明してくれた通りのものだ。
「リヴィアちゃん、何があったの?」
「ぶどうちゃん! いきなり誰かに白い砂を掛けられたんだよ! たぶん魔封じの粉だと思う……」
「魔封じの粉……?」
「前に見たよね。水の魔法……! 水魔法を使えなくなっちゃったんだよ」
「そっか……魔法で犯人を捕まえる作戦はやっぱ無理だってことなんだ」
魔封じの粉を使っていることからして、偽物の可能性はなさそうだ。異世界からやってきた本物の怪盗に違いない。
問題はぶどうさんが魔法の存在をしっかり認識していたことだ。
「あれ、ぶどうさんって魔法のこと聞いてたの?」
「うん。リヴィアちゃんが話しているうちに教えてくれてたんだ。ほら、このやり取りで残ってる」
「そっか……メールで教えちゃってたんだ……まっ、知ってる人には言っても良かったか」
納得したところでもう一人の女性、アレンもやってくる。彼女も服に白い粉を掛けられていて。
「くっ……半額セールなんてやってなかった!」
そう言いながら、紙袋を持っているのは何故だろう。そこからうさぎがたらんと顔を出していることから。うさぎのぬいぐるみの足元にはたいそう大きなお酒の瓶か何かが入っていることが予測されている。
に、してもだ。今日のそもそものアレンがおかしい。どうして持っているお酒を飲み始めないのか、だ。買っているのであれば、仕事中に飲んでいても不思議ではない。
少し引っ掛けてみよう。
「アレン、折角買ったお酒、飲まないのか?」
「ちょっ!? 今はお仕事中ですよ?」
そこに続いてリヴィアも。
「仕事中に飲むなんて、本当停職ものなのよ。何を考えてるのかしら」
いや、前回だいぶ飲んでいたではないかと。聞いてみてもやはり、何かおかしい。
いや、その前にだ。リヴィアにも言っておかないと。
「そういや、リヴィアはリヴィアでだ」
「どうしたのよ?」
「何で変装魔術があるってこと教えてくれなかったんだよ!? 言ってくれてれば、みんなを離さないようにしたのに……」
「い、言ってなかったっけ? それに成り代わりの対策なんて到底無理よ。怪盗クーアイは停電でも起こして、無理矢理入れ替わるって話を聞いてるし」
「そ、そうか……」
今の二人の話、何だか引っ掛かる。ぶどうさんは気付いたようだ。
「そうだ……停電……! そうだ。店員さん! ここの配電設備とかブレーカーとか大丈夫ですか!?」
「そ、そうですね。非常用のライトの用意と、そちらに仕掛けがないかどうか調べさせますのでどうかお待ちを!」
「まだ犯行時刻まで時間があるから……」
警察がいない分、探偵として呼ばれた僕達が異常を見抜かなければなるまい。
更にはこの少女達の怪しいところも、だ。
「ぶどうさん……」
彼女は彼女で声を掛けたところだった。
「そういえば、あたしも気になることがあったんだ」
「ん?」
「もし怪盗クーアイより先にこのダイヤが買われちゃったら、どうするんだろ? クーアイ……展示品とかじゃなくて、普通に売ってるんだよね、あれ」




