16.ダイヤを砕く大泥棒(3) 変わり身の魔法
ゲームセンターで少しだけ息抜きをしてから、うさぎのぬいぐるみを大事に抱えていたアレン。
「何とか取れましたね」
「お金……すっからかんだよ……怪盗に盗まれたってことにして、訴えることってできるからなぁ」
「探偵さんとしても人間さんとしても、やっていけないような」
俺の冗談はさておき、だ。
宝石の店の前に貴重品の類をチェックしておく。ダイヤは当然、宝石ショップにあると思われるが。腕時計などにダイヤの装飾が付いていたり、名前にダイヤが付いていたり。それで見落としていた、なんてなったら、怪盗を逃がして残念どころか大恥だ。
「そっちはどう……?」
俺よりも真剣にショーケースの中を覗くアレン。
「で、どれをローンで買ってくれるんです?」
「学生探偵に頼むことじゃねえな!?」
バイトのシフトをぎゅうぎゅうにして、一年働いたとしても全く足りない額の腕時計なんかも売っている。残念だが、アレン達にこの時計を買うことは……。
「まぁ、どっちか生涯共に歩くってなったら、話は別か……」
「ん? どうしました?」
「いや、何でもない」
その時はローンでも何でも来い、とは思う。そう甘くはないと思うが。
見ながらも怪盗の話をさせてもらいたい。
「そういや、その怪盗って凄く強い感じ?」
優秀な捜査官かどうかは分からないが、アレンの方が詳しいと思った次第。彼女は問題なく語り始めていた。
「ううん、腕っぷしで何とかしたって話は聞かないかな。あくまでその身軽さで相手の攻撃をのらりくらりとかわす感じかな」
「って言っても、リヴィアが大量の水を操れば何とかなりそうじゃないか?」
大量にトイレとかで水を出しっぱなしにしてとか俺が勝手に提案をしてみるも、アレンは苦い顔をしたまま。
「ああ、それなんだけど。あの怪盗、たぶん魔封じの煙幕使うかも」
「えっ? 何それ……その人の魔法?」
「当たった人や吸った人の魔法がしばらく使えなくなる煙幕ですね。わたし達の世界の火山灰と魔法を組み合わせて作るから、魔法とは違う。道具みたいなものですかね」
「ゲームで言うところのアイテムで……そうされると困るのは……やっぱ魔法で止められたら困るってことなんだよな……その怪盗クーアイはこの場所でも同じものを使うのか……?」
「一応、異世界で捜査している人がいるって話は極秘情報ではあるけど……煙幕としても使えるし。それでこの髪色とか雰囲気とか見たら、使うんじゃないかなとは思いますね」
「なるほど」
「それに……」
彼女が何か言い掛けようとした時だった。二階にあった酒屋の方からだろうか。
「現在! 酒の処分セールやってるよー! なんと大ボトルが百円での販売だっ!」
店主の大きな声が三階にまで響き渡ったようで。俺が「ちょっと!」という間にアレンは駆け出して、一秒も待たずに姿も見えなくなってしまった。
仕方なく、一人で進もうと判断して。四階は映画館で特に映画の販売品でもダイヤに関するものは売っていないと見て、下へ戻ってきた。
後は宝石店の方へと歩いた矢先、声を掛けられる。
「おお! 信濃の探偵さん! やっぱ来てくれたんだっ!」
ぶどう探偵がいた。彼女はハイテンションで手を振っている。彼女はかなりリボンの多い服を着飾っている。だいぶ派手な様子で。
「にしても、そのリボン重くない? それにだいぶ着るのに手間暇掛かりそうな感じだけど」
「最初は可愛いじゃなくて、その反応?」
「あっ、いや……」
どうやら恋愛としては、その声掛けが不正解だったらしい。
「でも、ちゃんと意味があるから……聞いてくれるのも良かったのかも」
ただ探偵としては正解だったみたいで。
「何が?」
「だって怪盗は変装の名人でしょ? どんなトリックかは分からないけど、一瞬で葉や着替えを済ませて顔までもを変えちゃうって話でしょ?」
「えっ?」
「だけどもなかなか売ってなくって、着替えにくい服だったら。服をすぐ調達するのは無理だし、奪ってきたら着るのに苦戦してる間に何かできるかもだし」
「えっ?」
「それなのに何かいつでも着てそうな服を持ってきて、大丈夫?」
「ちょい待て。変装できるの? その怪盗?」
「何で驚いてるの?」
俺は慌てたせいで好機の視線を向けられる羽目に。
「リヴィアやアレンから聞いてないぞ……?」
本人達からは「聞かれてなかったから……」なんて、たじたじする様子が今にも目に浮かぶ。
彼女は過去の記事の詳細をスマートフォンを提示することによって教えてくれた。
「ほら、見て見て! 豪邸亭主になりすまし!? 怪盗クーアイが亭主として指示をして盗まれちゃったんだって!」
「ほ、本当だ……本物はクローゼットに閉じ込められていた、と……」
「そっ。その人はいっつも同じ偉そうな服を着てたみたいだし。変装されやすかったかなって思って」
いや、と思った。彼女はもしかしたら知らないのかも、だ。怪盗クーアイは異世界から来ていて、魔法を扱えることを。
つまり、クーアイの固有魔法は変装魔術ではないだろうか。
「……って……! やらかしてるじゃねえか!」
「えっ!?」
今になって気付かされた。
クーアイはたぶん外を見張っていて。異世界の捜査官らしい人物を見極めたのだろう。たぶん髪の色とかで。
探偵に成りすませば、犯行もしやすいだろうし。
そんな目的で彼女達が散り散りになるよう誘導したのだ。服屋の店員や酒屋の店主。そのどちらもが偽物の可能性もあった。きっとその間に彼女達に成りすましているのでは、と思うが。
「どっちにせよ、行かないと」
「ちょっと待って……変に動かない方がいいかも」
「ん?」
「迷子になるかもしれないし。警察を呼んで警備を多くするような危険なことは、しないとは思うし! 変装されてたら、見抜いてすぐに変装されてる人を返してもらうしかないよ!」
目の前にいる彼女に関しても、だ。もしかしたら、だし。他の人に変装していることだってあり得るのだが。
ぶどう探偵は俺に会う前から変装されてる可能性もあるのだけれども。
こういう時にやるべきことは過去について、聞いてみるべきだろうか。
「……ねぇ、最初に会った事件のことって覚えてる?」
「あっ、もしかして怪盗かどうかの確認してる? 覚えてるよ! この前のおじさん、助かってほんと良かったよね!」
ただ、だ。その変装魔法が何処までなのかを知らなかった。
「あっ、でも記憶までコピーされてたら」
「えっ? 流石にそれは無理じゃない? それに前の犯行でも変装してた亭主は一応口数少なかったみたいだし」
「そ、そっか……」
「でも、怪盗側もきっと考えるかぁ。来る人達のことをチェックして、どんな話をするか……みたいなの。その辺りは幾らでも聞き出してるかもしれないし、これだけじゃあ何とも言えないかもね」
人には忙しい、その話を避けたいなどはある。気分によって口にしたくないと言われることだってあるだろう。特にまだ俺はリヴィアやアレンのこと、過去を全然知らない。
とにかくその人物の明らかな矛盾を探すしかないのだ。




