15.ダイヤを砕く大泥棒(2) 舞台の中で
予告状の謎について悪戦苦闘と言える程の足掻きもできないまま。
「と、とにかくどっかでダイヤモンドダストの展示とかやってるのかもしれないし! 実際に行ってみないと分からないじゃない!」
「まっ、それもそうだな……」
実際に行ってみることには、してみる。
予告がされていたというショッピングセンターは意外と落ち着いている。怪盗というと、もっと刑事がザワザワしていても良いものだと思うのだけれども。
「あれ……? 警察は来てないのか? 予告状当日なんだよな? えっ、それとももしかしてここで何日か待てってこと……? 明日はともかく明後日以降は学校あるんだよ?」
その点についてはアレンが手を合わせて説明してくれた。
「ショッピングセンターの人が警察には連絡しないようって言っていたとお聞きしました」
「ダイヤモンドが狙われている、のに……か?」
「ええ。公表も警察ではなく、そのお店に。予告状の追記としては『日本の警察に連絡した時点で盗みには入らない』と」
「……だったら、そもそも警察に相談しておけばいいんじゃないか……? 一人でも入れば来ないんだったら……」
「どうやら、デパートの人は怪盗をとっつかまえて手柄を立て、それで怪盗に注目している人達に来てもらいたいらしいですね。そうすれば、このこざっぱりしたショッピングセンターも少しは活気が出るかもってことで……」
嫌な判断をされていらっしゃる。
警察をひっそり呼ぶとかしなかったのか。それとも、何かできない訳でもあったのだろうか。
勘ぐっている合間にリヴィアがアレンと俺の間に入ってきた。
「まっ、そのために探偵や異世界の捜査官が呼ばれたってことになるわね。まっ、警察に色々説明するっていう手間は省けるし! ぶどうちゃんだったら、私達の能力も少し知ってるし! ちょうどいいんじゃないかしら!」
まるでもう怪盗を捕まえていると言わんばかりの顔だ。ここから泣き顔に変わりそうな気もするのだが。
「取り敢えず、中に入ってみるか……ダイヤモンドが何なのか……知らないといけないし、な」
ショッピングセンターに入ったら、まず確認するのが何が入っているのか、だ。今いる一階には主婦がよく使うであろうスーパーマーケットが入っている。そこで一つ目の案を出したリヴィア。
「分かったかも」
「ん?」
「ダストってことだし、粉もののことを言ってるんじゃないかな? 小麦粉とか、砂糖とか塩とか、料理に使う粉があるってことじゃないかしら」
俺が指摘する前にアレンはやれやれまったくこの娘とはと言いたげな顔で首を横に振る。それがカチンと来たようで、リヴィアは吠える。
「な、何か文句でもあるの!? 言いなさいよっ! 完璧に推理で叩きつぶしてあげるから! 信濃も驚いて惚れ直しちゃいなさい!」
アレンは溜息を一つついてから。
「まだ周りを見ていないのに気を付けるのは危険なのでは。粉ものとなると、このスーパー以外にも製茶店やコーヒー店が入ってますし。インスタントコーヒーも粉ものです」
後はと彼女には悪いが、俺も続けさせてもらうことにした。
「一階には他にもガーデニングの店もあるし、二階には工具店もある。土やセメントとかの可能性もあるんだ」
「だったら、土じゃないの!? 土だったら、黒いし」
「それはコーヒーも同じだよな? 怪盗が難問を出している以上、二つ以上の正解があるものを用意するのかって……ケチを付けられたら怪盗の名にも傷が付くし……」
「何よ。みんな、怪盗の美学を信じる訳!?」
怪盗の美学頼りと言われたら、おしまいだ。それを言ったら、ショッピングセンターのダイヤモンドと予告しながら、他の店から腕時計を盗んでいかれても俺達にはどうにもできない。
「俺達ができるのは、予告通りに来ることを信じてその鼻を明かしてやること、だろ……?」
「まぁ、そうね。そのパターンの方がぎゃふんと言わせやすいかもしれないわね!」
何と言うか、判断や感情が忙しいリヴィア。アレンの方はその間に中のルートを感知してくれたようだ。
「ううん、見たところ一階は普通ね。スーパーマーケットの他にお肉屋さんやお魚屋さんがあるみたいね」
リヴィアが鼻をくんかくんかと動かして、辺りへと歩いて行く。
「揚げ物のはお肉屋さんのところに。クリーミーな三島コロッケが売られてるし、お魚屋さんではカツオの美味しそうなお刺身とかシラスとかが売られてるのよね……おっ、桜エビもある……!」
「お腹空いてるのか……?」
「い、いや、違うわよ! 別に食べたいとかじゃなくって! ほら、二階はどうなの!?」
実際に二階に移動して、辺りを確認する。先程の工具店の他にCDやゲームショップが入っている。他にはブランドものの服などが売られていて。ちょいとリヴィアが中を覗いていた。
「こんなかに何か手掛かりがあったりして……」
というのが嘘なのは俺にもアレンもよく分かる。
「手の掛かる子よね……」
「ま、まぁなぁ……」
目がキラキラで。どう見ても、夏用の優雅な服装に憧れているだけだ。ひまわりの服などに目を輝かせていて。
リヴィアはこちらを見て一言。
「怪盗の時間までまだまだ余裕はあるし。一回色々見回って来なさいな。アレンと一緒にね」
俺もアレンも唖然とした。邪魔をされたくないとか、ではなさそうだ。彼女が気を遣っているのか。
「アレンはアレンで、ね」
「はぁ……?」
何か分からない言葉を残した後、「ご試着如何ですか?」なんて女性店員に声を掛けられ「どうしよっかな」なんて迷っている状態だ。
アレンと俺は二人きりになって。
「何処を見ます?」
「三階に行くか? 三階には宝石ショップやゲームセンターがあるな」
「スロットとかも……ありますか?」
「ギャンブル系はないと思うが……な」
それでも彼女はギャンブルに程近いクレーンゲームに興味を持っていて。アレンがピンと来たという、うさぎのぬいぐるみを挑戦することにしたのだが。
こいつがかなり厄介。うさぎのぬいぐるみは一旦持ち上がるものの、すぐに落ちてガラスの中をころころ転がっていく。
俺がやっても。
「こういうのは、コツを掴めば簡単なんですよ」
「そうなのか……?」
「わたしもやってみますね……」
アレンがやっても。そもそもアレンは掴めてすらいなくて。それが彼女の癪にさわったのか。
「……怪盗がこれを狙っていたってことにして……これ、証拠品として押収できませんか?」
「何ちゃっかり公務を理由にして、持ってこうとしてんだよ……シスターどころか、警察官がやっちゃいけないことだろ……」
「冗談ですって」




