14.ダイヤを砕く大泥棒(1) 異界の怪盗
最近はずっと失恋旅行のような気もしていたが。本日、俺は別の用事で電車に揺られている。
旅先で出会ったリヴィアとアレン。二人の捜査官より協力依頼があったのだ。
詳しい話は電車を降りた後でとのこと。
今日は土日でかなり混雑しているからと駅の混雑を掻き分け、何とか地下街で集合することはできたのだが。
二人は前とは違う服装で俺を出迎えてくれた。
リヴィアの方は少し年上のお姉さんを想起させる柔らかなグリーンの服にオレンジのスカートで。小さな蒼い鞄を腰にぶら下げて、「おはよ!」と。
アレンの方はシスターな感じはなく。少々大人っぽい紫が主体のコーデだ。別に肌が露出している訳ではないのだが。何だか色気を感じてしまう。
そんな二人は服装のことで張り合っていた。
「反応は私の方がいいんじゃないかしら?」
「そうですかね? どう見てもわたしの方にうっとりしていたように見えるんですが」
「よく見ないとアレンだって分からなかったからじゃないのかしら? 信濃は覚えてないんじゃ」
「そんなことはないですよ。ねっ、覚えていますよね? 信濃さん?」
ここは「ああ……」と肯定で答えないとシスターからパンチが飛んできそうな気がする。シスターであるアレンがそんなことをするはずがない、なんて理論は通用しない。
何たって、彼女は何でもするからだ。ここまで考えてハッとした。
「仕事中でもお酒飲んでたのに。今日は酔っぱらってないんだな……」
「わたしのことをどんな人だと思ってるんです? 今日はとっても重要な依頼のお話をさせてもらいたかったんですよ」
彼女は眉を下げて、自分は真剣ですと伝えてくる。以前の潜入捜査も大事なものだったとは思うけれども。
リヴィアが会話の中に顔を突っ込んだ。
「重要な依頼は私から説明させてよ!」
「いいですけど、ちんぷんかんぷんな説明にならないように、ね。なんたって、わたし達が追う異世界犯罪の重要な手掛かりになるかもしれないんですから」
そう言われて、ごくりと唾を飲んだ。確かリヴィアが来た目的の根源になるものであろう。
災害を起こす人間がいる。
茶畑の呪術師に関しては生身の現地人が起こしたものであって、異世界人は関わってなかったのだが。
まだ俺が知らない事件では、大きな魔法が関わっているのだろうか。
その場合、俺達は無事に帰ることができるのか、と。気付けば、手に汗を掻いていて。ぐっしょり濡れたその拳から雫を落とさないよう、ぐっと握りしめたところで。
「もう! 大丈夫だって! 信濃。今回私達が依頼したいのは、異世界の怪盗なの」
リヴィアが告げた、その言葉に対して混乱しそうになる。怪盗とは、と。
「今時、そういうのいるの?」
「こっちの世界ではまだなのかも……。でも異界では、怪盗だし。最近まで、別の場所で色々暴れてたっていう噂が」
「これのことですね」
リヴィアの説明をアレンがスマートフォンでサポートする。異世界人とは言っていたが、意外に慣れている。すぐにネット記事を出してくれていた。
見せられたのは中国語で、俺にとってはちんぷんかんぷんなものではあったのだが。
「こ、これが……?」
「中国ですね。最近までは中国で資産家からお金を略奪するという、ネズミ小僧的な犯罪を起こしていたそうです」
と言っても、それがどう異世界の怪盗と繋がるのかは分からない。ボケっとしてると、リヴィアからツッコミが入った。
「ほらほら、パンクしてない! 中国って場所でネズミ小僧を働くと同時に何か、そっ。予告状っていうのも出してて。それが私達のところで出没していた怪盗と特徴が一致してて。最近私達の世界で犯罪の報告が上がっていないってところから……確信したわ。怪盗クーアイは私達と似た原理でこちらの世界へ飛んで、窃盗を繰り返してるってね」
怪盗クーアイ。その存在に関しては理解ができた。しかし、だ。それが分かったとしても、だ。
俺には何もできないはずだ。なんたって。
「中国で暴れてるってことは……どうやって、捕まえるんだよ……? 流石に今から中国へ行こうってパスポートも持ってないのに無理だぞ……?」
アレンはペットボトルのお茶を飲んで、ホッと一息ついてから。
「そこは安心してくださいな。今回呼んだのは、その犯行が静岡にて行われるという情報を掴んだからです。まぁ、正確にはお友達が情報を流してくれた、そうですよね? リヴィアちゃん?」
そう言われてリヴィアはまるで自分が手掛かりを見つけたと言わんばかりにえへんと。
「そうなの! ほらほら、ぶどうちゃんっていたでしょ?」
確かに探偵志望の女の子がいた。喫茶店で起きた事件で探偵をやっていた女の子だったか。
あの子からは確かSNSにて、色々メッセージは来ていたが。SNSを持たないリヴィアに対する疑問が生まれていた。
「連絡先知ってたのか?」
「うん。何かこの前の服の中にアドレスみたいなのが入ってて……ちょっと確かめてみたら、ぶどうちゃんが!」
「……それ、詐欺の手口の可能性もあるんだけどな。捜査官が詐欺られるなよ……?」
リヴィア、うっかり詐欺に騙されないかと心配になる。この世界のことを知らないから、猶更だ。
「で、で。連絡の方を取ってたら、予告状の話があるんだけど一緒に来ないかっていうお誘いがあって!」
「それで了承したって訳か」
リヴィアなら近くのホテルに泊まっているし、すぐに来れると判断したのだろう。それに女性同士なら相談しやすいし。
「で、本題の怪盗の予告状。この謎が分からなくって。実際に現場を見ないとってことで呼んだんだけど」
「予告状の謎……か」
犯行時刻や場所については暗号等はなく。
宝石店から現地直送の野菜売り場まで入っているショッピングセンターに本日の午後六時頃参上するとのこと。
本題の暗号について、リヴィアの口から聞かされることとなった。
「ええと、標的が暗号になってたらしいのよ。確か……『海に浮かぶダイヤモンドダストが光る時、清純が闇に変わりし秘宝を頂戴する』だって。電話で聞いたけど、一言一句間違っていないはずよ! 信濃? どう、解ける? 私としては、そのダイヤモンドダストが見れるような窓があるところだと思うんだけど」
最初に、だ。一応、確認しとかないといけないことがある。
とんでもなく大事な話だから、だ。
「あのさ……リヴィア?」
「何?」
「本当に静岡で合ってる? 北海道……いや、盛岡って言われたのを間違えた訳じゃないよな?」
「何でそこまでアンタも馬鹿にするのよ! そこまでポンコツな訳ないでしょ!」
そうは言うものの、だ……。
「季節はともかく……静岡でダイヤモンドダストなんて見れないんだぞ?」
「えっ、そうなの?」




