13.茶畑の呪術師(13) 恋煩いは巡る
蕪木さんは怒りを顔に宿したまま、動機の言葉を語り始めていた。
「……そんな買い被りはやめてくれ……。これが自分なんだ……抑えられなかったんだよ。アイツらが自殺に追い込んだ女の復讐をするのに……な」
それで思い出したことが一つ。俺は確認の意味で聞かせてもらうことにした。
「前に辞められたっていうメイドのことか……自殺って……?」
「辞めたってことにはなってるが……アイツらのパワハラやセクハラが原因で辞めて……鬱になっちまってたんだよ……気付いたら、アイツは屋上から飛んでた……死んでたんだよ」
「もしかして、そのメイドって恋人だったんですか? 蕪木さんの」
「そういうことだ……だから二人のことが許せなかった。いつか殺したいと思ってた。だから今日、好都合だったんだよ。真実の口封じもできるし、アイツも殺せる。そう思ったんだが、失敗だったな……」
アレンは首を小さく横に振って、「嘘ですよ……」と。
「貴方はずっと迷っていたのですね」
「おいおい、庇うなよ。お前の方は何故かパワハラとか、セクハラとかなかったがきっと気に入られてたんだろうな。そういうところが、気に食わなくってアレンを犯人に仕立て上げようとしてたんだからな……」
「そんなこと……そんなことって……」
彼女は大きな溜息を吐いて。蕪木さんはただボヤくように。
「まぁ、後は占いで出たんだよ。神様がそうやれって言ってたんだよ。アンタは信心深いから分かるだろ?」
それが彼女の何かのスイッチを押したのか。突如として目の色が変わったのだ。
「神様はわたしにとって、大切な人です。大切でかけがえのない友人です。神様がそもそも、そんなこと言うはずがありません!」
「えっ?」
「貴方は勝手な偶像を生み出しただけなのです。そもそも神様は大切な人ですが、自分の運命を委ねてしまう存在ではないんですよ。言われたからと言ったら、止めるのが友人じゃないんでしょうか? 危ないことを言っていたら、それは間違っているよと告げるのが友達なんじゃないでしょうか? それを一緒になって、指示されただの言って、人生を棒に振るだなんて滑稽極まりありません!」
何だか彼女の過去を垣間見た気がした。アレンがどんな想いでシスターとして過ごしていたのか。どんな想いで神様を友人と思っていたのか。
だから彼女の怒る気持ちがよく分かった。
「やっぱ、アレンはただのおとぼけシスターなんかじゃなかったんだな」
リヴィアにとってはライバルみたいな存在なのに、何故か少し自慢げになって。
「そうね。やる時はしっかりやってくれる。同期としてまぁまぁ誇らしいわね」
二人がなんだかんだ仲良くやってくれていることは嬉しかった。
アレンの説教を聞いた彼は項垂れて、警察に連れられていく。
茶畑を支配していた狂気の存在、茶畑の呪術師の起こした事件はこうして、解決していったのだ。
見送った俺達はもうここにいる必要もない。
お茶畑に関しては少々見回り、かなりの気分転換もできた。
同じ日に何度も事件に出くわして、肩が凝ったものの。一緒に回ってくれる存在もいて。何だかフラれたことなんかもどうでもよくなってしまった。
ただ問題はもう一つ生まれていく。
気付いたというか、現実に直視しないといけないと思わされたのは汽車の中だった。夕闇薫る外の景色を眺めて何も知らないと言いたい感じで乗り切ろうとしていたのだが。
「で、そういえば私を選ぶのよね」
「何故です? わたしが一番になるのですから……そこを勘違いすることはなく」
「ちょっと待ってよ。最初に好きってなったのはこの私よ? 何で横取りしようとしてるの!?」
「好きってなったからって、お相手がそれを受け入れてくれるとは限りませんよ? 何でも尽くしてくれる系の女の人が好きならば、わたしをお選びくださいね」
「いや、ハキハキ系、頑張り系女子とかいいわよね!? そこんとこどうなの!? 信濃!?」
「まさか、まだ恋はしたくないとかって感じですか……? だとしてもおそばにいたいのです。そこを何とか」
勝手に話が進んでいく。
恋をしたいか、したくないか。いや、そんなこと考える必要はない。
したいよ。恋はしたい。女の子と一緒に色々見回って、青春を充実させたい。この若い時、女の子とお喋りしたり、好きな人と一緒に過ごしたり。この寂しいと言っている心をどうにかしてやりたい。
しかし、だ。
この二人の中のどちらかを選ばないといけないというのが、残酷だ。
どちらかを嫌ったことで互いはどうなるかを考えると、胃がキリキリし始める。だからと言って、どちらもなんて答えに関しては失礼過ぎるのだ。
俺が悩み抜いている合間にリヴィアもアレンも結論を出していく。
「結局は信濃は探偵よ。捜査で活躍できる方が強いってことじゃないの?」
「確かにそれはそうですね。しかし、ポンコツ捜査官と名高い貴方がそれに当てはまるのでしょうか? 今回はお風呂入ってただけじゃないですか?」
「こっちはそれで信濃にヒントをあげたのよ。探偵助手としては、なかなかの出来じゃないかしら? しっかりサービスしてあげた上でヒントまで!」
「まだ彼は未成年ですよ? みだらなサービスだとか……風紀が乱れてしまいますわ」
「ほろ酔いシスターに言われたくないわ! ってか、今もその片手に持ってるお酒の瓶を降ろしなさいよ! 何、お土産にお酒を貰ってきてるの!?」
「それは刈谷さんが持って行っていいぞ、どうせ飲む人もいないからってことで貰ってきたのです。迷える子羊を助けるのはシスターの役目です」
「お酒のことは迷える子羊って言わないわよ!?」
なんだかんだ言いながら、結局今回の事件はアレンの方が有利過ぎるとのことで、次の事件でどう活躍できるのかで決めてほしいとのこと。
彼女達は一緒のホテルに泊まって、異世界から来た悪人の捜査を行うとのことで別れていく。
リヴィア。
元気だけどおっちょこちょい過ぎるけれども。自分にできる限りなことをする、ひたむきな努力家の一面を持つのも見えている。
アレン。
シスターとして働く捜査官。大人っぽい魅力もあり、色々知識もかね揃えていると思われる。普段はふざけているけれども、意外と真面目な点も。
選べない。二人が魅力すぎて、そう簡単においそれと決められない。
「うわぁああああああ……」
恋煩いをどうにかするための旅行で。
とんでもない恋煩いが始まってしまうとは……!
俺が不意に出してしまった、微かな声も駅の中の喧噪に掻き消されていった。




