12.茶畑の呪術師(12) 二か月前の真実
「なんだとっ!? でたらめを言うなぁあああああああああああああああ!」
大噴火している始末。それはあまりにも怒り過ぎて、周りにいる警官も「まぁまぁ、落ち着いて聞いていきましょう」と宥める位にまで。
ふぅーふぅーとまるで今にも噛みつこうとしているような表情を我慢している蕪木さん。
失言を説明しておこう。
「貴方、被害者の中にあったものを何て言いましたっけ?」
何も言わない蕪木さんに対し、アレンが先に口にする。
「確かパプリカか、ミニトマトと言いましたよね……? 確かにミニトマトなら氷の仮面の口元の部分に入れるならピッタリですが」
俺は「そう」と、彼女の発言を拾い上げた。
「ミニトマトとハッキリ言ったよな? トマトの大きさについては誰も言及していなかったのにそう言い切った……だから怪しいと思ったんだよ」
リヴィアは腕を振り上げて、俺を応援していた。
「そうだそうだー! アレンに殺人容疑なんて掛けるから、うっかり口を滑らしたんだ! これは天罰だねっ!」
「適当なことをほざくなぁあああああああああああ!」
まだまだ叫ぶ奴。奴は目を紅く光らせるような、そんなまがまがしい覇気を持ってるように例えられる程の迫力があった。
下手したら、俺達は握りつぶされるかもしれない。
そんな威圧感はあるけれども。俺は負ける訳にはいかない。
どんな反論が来ようとも。
「しかも奴を殺す理由なんてねぇだろっ! 何でんなことしなきゃいけないんだよっ!」
わざわざ真相を掘り返そうとするとは。まぁ、良い。元々話すつもりではあったから。
「二か月前の真相……福三さんの殺害事件について相談される訳にはいかなかったから……それでの口封じ……じゃないか? 二か月前の動機については分からないけど!」
「二か月前の事件も分かっただと!?」
俺は大きく頷いて、戦ってみせる。
「二か月前に起こした殺人……何でお茶塗れだったのか……その理由をもしかしたら、被害者の富貴さんは勘づいていたのかもしれないな」
「何だと!? あの間抜けが……!? 気が付いていただと!?」
刑事もこの真相については聞きたがっていたようで。
「お茶塗れにしないといけなかった真実が分かった……と?」
「ええ。理由は簡単です。リヴィア達とお風呂の話をして分かりました。犯人は被害者を風呂に入っていたと勘違いさせたかったんです」
「風呂……? えっ?」
「お茶の風呂です……」
「ちょっと待て。意味が分からんのだが」
だったら分かりやすい説明をしてみせよう。
「刑事さん。殺害された人がびしょ濡れのお湯だらけの溺死だったら、何処で殺されたと思います?」
「そ、そりゃあ、風呂で沈められたと思うだろう。肺に吸い込んだ水でも解析はするだろうが」
「ええ。じゃあ、お茶塗れの場合で。もし近い場所でお茶をお風呂にしていたとしたら……?」
「被害者は茶の風呂に入れられていたと勘違い……!? そうすれば、茶の風呂を用意できた富貴さんが疑われるが……いや、待て。それは分かるが。お茶の風呂なんて何処でそんなのやってるんだ!? 銭湯じゃあるまいし!」
何も銭湯だけではない。
「二か月前、富貴さんは網にお茶を入れて風呂に入れようとしてたんですよ。お茶風呂を作ろうとして。そのために刈谷さんのところにお茶を要求したんじゃないでしょうか」
「あの量……確かに!」
すぐに刑事から反論が。
「で、でもあの時お茶風呂なんてやってた情報なんて……」
「ええ。実は富貴さんはその必要だった網が壊れて使えないのを知ってしまったんです。ゴミに出されてたそうです。だからやらずにそのままになってしまった。でも、犯人としては困ったでしょうね。入っていないと知った時には、もう殺害してしまっていたのですから。だから、お茶塗れの謎の遺体としてお茶畑に放置せざるを得なかったってところですかね?」
「しかし……どうやって、お茶塗れにしたんだ……?」
その問いにも簡単に答えられる。
「簡単ですよ。落とし穴です。害獣駆除に落とし穴を用意していたんだよな? なっ、アレン?」
「確かにその方法がありますね。驚いて……這い上がれない福三さんは……疲れ果てて溺れて死ぬしかないと……」
そう言うこと、だ。
それならば、自分で沈めたという証拠は残りにくい。被害者がたまたま自分から入っているのだから。アリバイだって作りやすい。
後で引き上げてお茶畑に出しておけば、OKだ。お茶畑に放置したのは、体についている土を誤魔化すためだろう。
「……反論はありますか?」
蕪木さんがこれをしたのではないか、と主張している。
しかしながら、彼はわなわな拳を振るえて。
「んな訳あるかぁああああああああああああああああああああああああ! 証拠がなきゃ、ただのでまかせ嘘っぱちなんだ! 僕がアイツを殺したという証拠が何処に、あるんだよっ!?」
そんなの、と思った。
リヴィアも何となくわかっているようで。彼女が先に口を出した。
「二か月前の事件はともかく……今回は手口さえ分かっちゃえば、家の中のバケツを見て指紋が付いているのを確認するのもありじゃない? ずっと私達を見張ってたんだから、たぶん隠す暇とかなかったでしょうし!」
得意げに言うリヴィアの横に出て、ふっと笑いながら。アレンも口にする。
「後は氷の仮面となると、型もあるでしょうし……まだ家にあったりするんじゃないかしら? それに毒も……きっと農薬でしょうけど……。入れる容器もなかったから、この家にあったものを使ったかもしれないし……後、そうそう」
二人が息を合わせて。
「「今回の犯行に使った茶葉が出てくれば!」」
二人は顔を見合わせて笑っていた。「真似すんな」と言い合いをするかと思ったが。なんだかんだ二人、いいコンビしているのではないかとふと心の中でそう思ってしまった。
蕪木はズボンのポケットを見て、しまったとでも言うように後ずさりを始めて。
「ちょっと拝見しますよ」
「やめろ! 違う! やめろ、見るな! やめろ、やめろ、やめろぉおおおおおおおおおおおおおお!」
大男が後ろに逃げようとした途端だ。
その姿が消えた。かと思いきや、落とし穴に。
「うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
結果、助けられた後にポケットから少量の濡れた茶葉が。今回の見立てに使ったものを捨てきれていなかったらしい。
あまりのショックに意気消沈か。救出されて、そのまま項垂れている蕪木さん。
アレンは彼に問い掛けた。
「しかし、何で友達の親や友達を手に掛けるような真似をしたんですか? この二か月間会っていた貴方は、普通に誠実な方で……犯罪なんかするような人とは思っていなかったのですが……何が貴方を連続殺人に突き動かしたんですか?」




