7.茶畑の呪術師(7) 疑いの眼は止まらない
アレンはいきなりの言葉の大きさに驚きを隠せずに目をぱちくりさせたまま。
「な、何故……わたしが犯人になるんですか? おっしゃっている意味が、よく分からないのですが……」
「分かった。ちゃんと話したら、自首してくれるんだろうな」
「そもそもやっていませんって!」
俺からも推理について聞かせてもらおう。犯人を決めるには早計過ぎやしないかと。
「何でそう思ったんですか?」
俺の一言で一旦蕪木さんが冷静さを取り戻していた。ただ押し切るのではなく、理論でアレンを追い詰めようとしていた。
「何でって……そりゃあ、富貴が最期に食べたパプリカは何か違うか……ミニトマトは奴が嫌いだったから……だ」
「嫌いだから……?」
「嫌いだから当然、男の前では食べない。しかし、だ。しかし、奴は女の前ならいい格好をして食べる訳だ。当然、惚れてるアレンの出すものなら、なんだって食べるだろうな」
だとしても、だ。俺は俺で理論で受け止めねばなるまい。
「被害者に無理矢理食べさせる方法もあると思いますけど……」
「探偵さん……じゃあ、この手はどう説明するつもりだ?」
すぐに彼が手のひらを出してみせるも、何も見えない。そして「刈谷さんも出して見てくれ」と。しぶしぶ従った彼の手に何もないのだ。
リヴィアも困惑するばかり。その顔から疑問符が浮かんでいるよう。
「何もないけど……綺麗だなってこと位?」
蕪木さんはそこに頷いた。
「それだよそれそれ。無理矢理苦手なものを口の中に入れてたんなら、間違いなく噛まれるはずだろ? 抵抗の痕があるはずだ。それなのに、ここにいる人達全員そんなものはなかった」
その理論と共に遺体の状況を思い出す。確かに殴られた痕だとか、麻酔を嗅がされた時の臭いだとかは特になかった。
それでも、だ。アレンの眼が言っている。わたしはやっていないと。
リヴィアも口にする。
「アレンが殺人を起こす訳ないって……! どうしようもないダメシスターではあるけど、正義感は強い人なんだから……」
「それって貶すついでに褒めてるの? 褒めるついでに貶してるの?」
リヴィアの真剣な眼に関しても、だ。嘘や適当を言っているように見えない。
それに、だ。彼女の仕事に対する熱意や苦労を信じたい。俺に過去の事情を話してくれた彼女。俺のことを特別な存在として見てくれている彼女を信頼したい。
「だからって、アレンが犯人だという主張はおかしいと思います。被害者がつい食べてしまった理由として、おやつの中身を偽装されていた可能性だってありますし」
「偽装って」
「中にあんこが入っていると思ったら、トマトが入っていた……みたいな。それなら嫌いでも食べてしまうことはありますし」
今はただ彼女が犯人だと決めつけられて。彼女が嫌な思いをしないようにするのが目的だったのだけれども。
それを妨害するかのように刈谷さんが喋り出す。
「ふん、だとしても、だ。怪しいことに変わりはあるまい。素性も知らない女がいきなりメイドっていうのはおかしい話だ」
刈谷さんの態度にアレンの顔から汗が垂れていく。
「えっ、ずっとそう思われてたんです?」
「ああ……あの人が気にするなと言っていたからだが……亡くなったのなら話は別だ」
蕪木さんの次は刈谷さんがアレンを疑うゾーンに入ったらしい。
「どうにもこうにも隠し事をしているようにしか思えないんだが?」
その通りだ。潜入捜査をしている最中で自分が捜査官だと言ったら、犯人に警戒されてしまう。逃亡や襲撃の危険性を考えて、口にはしなかったのだろう。特に異世界からやってきたなどとは口が裂けても言えなかったのだろう。
「いや、その……本当にただのシスターなんですよ?」
「本当か? 本当は元当主の隠し子じゃないのか? その遺産を奪うために富貴様を殺したんじゃないのか?」
「そんなこと、ありませんよ」
「銀髪も本当の色を隠すためじゃないのか……!? 当主の亡き後、すぐに来たのも最初からそれが目的で」
焦るアレンを守るように立ってみせる。これ以上は睨ませてたまるものか、と。
「それにしては遅すぎませんか? 遺産が欲しいのにわざわざ何故この家にメイドとして働いて目立つような真似をしてから、今日殺人を犯したのか」
「何かおかしいか?」
「やるんなら、当主が亡くなったすぐ後じゃないですか? そうじゃないと、持っているお金を全て浪費に使われてしまうかもしれない。特に遺産が曖昧になっている状態だったら、勝手に富貴さんに使われて……気付いた時には残っていない、なんてこともあり得えますし」
そう言いきったとこで蕪木さんの主張は変わる。
「ああだこうだ言いたいのは分かるが、その前にちゃんと素性を話してくれって話だ。アレン、君は一体何者なんだ? 話してくれれば、疑わずに済むかもしれないんだ」
先程まで散々アレンが犯人だと主張していたのに。素性を話せば、信じるか。何となく嫌な予感がする。このまま答えていいはずがない、と。
「わ、わたしはただの迷いシスターであって……身分証なら持ってます!」
「身分証で誤魔化せるつもりか……!? 君から出る不思議なオーラは隠せていないんだ!」
「オーラって、そんなもの」
「いつも酔っぱらってはすぐに素面に戻るのだって変だし……」
「そういう性質でして……」
実際は回復魔法的なものを使っているのだろう。だからこそ、嘘をついている感じがアレンの顔から態度から出てしまうのだ。
ますます疑惑は深まっていく。
「一体、君は誰なんだっ!」
何だか彼女達が異世界から来ていることも勘づいて話しているような内容。ふと俺の耳元でリヴィアが呟いた。
「ここは本当のことを話した方がいいのかしら」
俺は首を小さく振っていく。
「ダメだ。リヴィアの魔法についてバレたら、お茶だらけの密室について色々言われることになる」
「で、でも水は出せるけど、大量のお茶なんて出せないよ?」
「そう信じてもらえるかなんて分からない。人によって、信じるか信じないかだってまちまちなんだ」
「うう……! じゃあ、どうすればいいのよ」
簡単だ。正体がバレる前に事件を暴く。現実的に別の人物でも犯行が可能だったことを証明し、密室も現実的なトリックで作れると言えれば。
「俺が被害者に毒を持った方法と密室の作り方を説明すればいいだけだ! 簡単な話だろ!」
「信濃……!」
リヴィアの言葉を反芻するように、アレンも俺の名を口にした。
「信濃さん……!」
できることはやる。調べて調べて、調べ尽くしてやる。警察が来たら、その答えを犯人の前で叩きだす。俺ができることは、それだけなのだから。




