6.茶畑の呪術師(6) 事件発生
俺が手を取って確認する前に蕪木さんが「何やってんだよ」と揺さぶり起こそうとしている。しかし、それを止めるべくリヴィアが叫んでいた。
「触らないで! 下手に動かすと死んじゃうかもだから!」
「えっ……」
リヴィアが素早く対処して、触っていく。俺は警察と救急車に連絡しかなかったのだが。
「まだ助かる……? 喉に何か詰まっているだけ……?」
何やら色々と推理している。そしてリヴィアとシスター・アレンで顔を見合わせ。応急処置を試みていた。
まずはリヴィアの水による異物除去。
たぶんこの水魔法自体が騒ぎにならないように、背中を軽く押して食べたものを吐き出させるも赤い何かの破片が出るだけだ。トマトかパプリカ、か。
それからシスター・アレンが何か祈るようなポーズをするが。富貴さんは全く動く様子もない。
それからリヴィアが脈を取り、震えるような声を出した。
「……蘇生できなかった……か」
俺が通報を終えたところで、シスター・アレンもがっくしと肩を落としていた。
「救えませんでしたか」
一人置いて行かれているのは蕪木さんのようで。
「お、おい……蘇生できないって……死んでるってことかよ!?」
「ええ、脈もなく。心臓の音も聞こえない。まだ死後硬直は始まってないから、殺されたのはついさっきって感じかな」
「な、何で死んでるんだよ……」
俺が口にする。
「毒物ですかね」
「えっ?」
「見たところ、殴られた痕や刺された痕、絞められた形跡は特になく、苦しんだ感じがあるってことで」
「それでも窒息があると思うが」
「リヴィアが喉から飛ばしたものが赤いものの破片……何か詰まっていたとしたら、もっと大きいもののはず。そうじゃないとしたら、その赤いものに毒物が付いていた可能性が高い……かと」
後は被害者の口から妙な臭いがすることもあり、毒で断定して間違いないだろう。
ただ臭いとしてはもう一つ。部屋の床や机全体にお茶らしきものがぶちまけられている状態だ。富貴さんの遺体に囚われていて、そちらにすぐ目がいかなかった。
リヴィアが「自殺なら……こんなにお茶がいっぱい撒かれているなんてことはないよね……?」と呟いたのを皮切りに議論が深まっていく。
シスター・アレンが考察を進めていた。
「お茶を事件現場で溢したってことは単に被害者が暴れただけっていうのは、ないですね。となると……」
「あの時と同じだ……遺体が濡れている訳ではないが……」
「どうかしましたか? 富貴さん?」
「思い出してみろ! アイツの親父だって、お茶塗れになっていて死んでたんだ……」
その言葉で緊張が走る。数か月前に起きた当主の殺人。あの時もお茶に塗れた殺人で。今回もまたお茶塗れ。
となると前の事件と関係した連続殺人の可能性が高い。
リヴィアは推理を進めていた。
「となると、このお茶っていうのは何かの犯行声明? 茶畑の呪術師かなんかがいて……そのメッセージってこと……? 何かお茶を通して伝えたいことでもあるってこと?」
俺は茶について考えてみるも、何も思い付きはしなかった。匂いも特に変わった茶のものではなく、水に近い。
それに部屋が少々暑いからか少し渇いてきている気もする。
一通り部屋の状況を見た後でシスター・アレンが指示を始めていた。
「では……一旦、皆さんには集まってもらいましょう。もちろん、刈谷さんも来てもらってください。一つの部屋に集まって、警察が来るまで待ちましょう」
「お、おい……どういうことだよ。もしかして疑われてるのかよ」
リヴィアなら「そうだ」と言いそうだが。先にシスター・アレンが口にする。
「そんなこと、ありません。まだ近くに犯人が潜んでいる可能性もあるので、固まってもらうって形ですね。蕪木さん、神様は頼りにならないのでか弱いわたし達を守ってください」
「お……おお……しかし、刈谷がいないってことは……逃げたんじゃ……」
一回皆でまとまって、庭から探しに出ることとなるのだが。リヴィアがアレンにひそひそな話を始めていた。
「疑ってないってどういうこと……? この人が集まった状況で外部犯の仕業だって考えてるの?」
「リヴィアちゃん。ちゃんと考えてみてください。強盗なら盗まれたものがあってもいいはずですし。わざわざ部屋を密室にしておく必要がありません。しかも毒殺なんて方法で襲うなんていうのも変ですね。ちゃんと殺人を確認しておかないと、誰が毒を入れたのかなんて証言される可能性もあります」
「……じゃあ、何で外部犯だなんて」
「皆さんを油断させるためですよ。その方がぽろっと口から……」
話をしているうちに蕪木さんが刈谷さんを見つけたようで。事情を話していく。持っていた植木ばさみが落としたことからするに起きた状況について、語らずも衝撃は受けていたようで。
「そ……そうか」
「だからみんなで集まってくれとさ……身の安全のためにも」
皆で固まって警察を待つことになるが。ここの山まで来るのに少々時間は掛かることは覚悟しておかなくては、だろう。
それと二人のことについても。
「そう言えば、私達ってどうするの? 警察の事情聴取とか受けれるの?」
「あら、日本人として暮らせるような身分証を作ってもらいませんでしたか?」
「あっ、忘れてた……」
それだったら、警察から逃げる必要なかったのでは、と今更ながらぼやきたくなった。
ただ今考えるのは事件のこと。
殺人事件の犯人はこの中にいるはず、なのだ。
密室にするということは、密室の目撃者がいることが分かっているから。そのことを確実に知っているのは俺とリヴィアとアレン。そして刈谷さんと蕪木さん。いや、もう一人いるとしたら富貴さんの弟だ。
こっそり忍び込んだ形跡はないから、最後の一人に関しては考えなくてもよいのだけれども。
今だとまだ犯人を絞り込む方法が思い当たらない。
もっと情報を得ないとダメだ。事情を聞き込むしかないと思ったところで蕪木さんがアレンを見やっていた。視線にいちはやく気付いた彼女が応答する。
「どうしました?」
「いや……アレン……お前がやったことじゃないのか? 今ならまだ間に合うんだ……警察が来たところですぐに自首してくれないか……」
「神のおおせのまま……えっ? わたし? 犯人? えっ!?」




