3.茶畑の呪術師(3) メイドで潜入捜査中
俺が少し期待の眼差しを向けているとリヴィアの方から肩に手を置かれることとなった。
「ちょっと待って。この人を本当に信用するつもりなの?」
「えっ?」
「酔った勢いでとんでもないことを言ってるだけとも考えられるでしょ?」
確かに、か。そもそも潜入先でメイドをやるだなんて話もかなり創作に近い話のような気がしてきた。隣に夢物語みたいな存在がいることはさておいて。
顔を真っ赤にした泥酔銀髪シスターを警察に送り届けるべきか、悩んでいたら。
駅の方から一つ、大きな紙袋を持った顎髭が特徴の男が歩いてきた。
「おっ、番ちのシスター、昼間っから酔っぱらって何やってんだ?」
その男の演技ではないだろう、その挨拶に対して俺とリヴィアは目を合わせていた。
「嘘……本当なの?」
俺の方はその男へと駆け寄って、事実を確認してみることにした。
「メイドさんだったんですか……ああ、いや俺達の知り合いでずっと探してたんです」
本当に嘘はないようで、男はハキハキと喋り始めていた。
「そうだな。二か月前からずっと。番の親父に昔助けられたって言っててな。それでやってきたんだよ」
そこに関してリヴィアはツッコミを入れる。
「詐欺とかって思わなかったの?」
「いや、それを受け入れたのは番ちのアイツだしな。綺麗だからホイホイ受け入れやがったよ。まぁ、親父さんは死んじまったから確かめる術はないし、な。親父さんは色々メイドなど呼んでたが、あの時辞めちまったばかりで……アイツもメイドの雇用だとかに関しては全然詳しくなかったからな。凄い助かったって言ってたぜ。まぁ、家事に関しては……」
男はじっと彼女を見つめる。彼女は彼女は胸を隠すような感じで「きゃあ」と。
「いやぁ……蕪木さーん、何言ってるんですか。家事はもうバンバンバンバンやってるじゃないですかぁ」
「ううん、僕の持ってく獲物でやったぁ、最近失敗料理ばっかだったから良かったわー! なんてお酒ぐびぐび飲みながら言ってたのは誰だったっけか?」
「えっ?」
「しかもジビエをバクバク食うって……シスターなんだよな?」
一応隣にいるリヴィアに確認しておく。「肉は食べていいの? シスターって」と。
「ダメに決まってるじゃない! やっぱ、色々隠れてやりたかったからこっちの世界に来ただけね。このダメシスター……!」
「……あはは……」
しかし、だ。一応情報は得られそうな感じはする。俺も話を聞いていこうと交流を図っていく。
「で、蕪木さんって……その番さんとはどんな仲なんでしょうか?」
「ん? ああ、学生の頃の付き合いってだけだな。でも同郷ってことで仲良くなってな。僕は猟師を副業でやってる農家みたいなものだよ」
言われて納得はできた。
「確かに日に焼けて……だいぶ自然の中で歩いているって感じがしますね。体力は凄いあるでしょう……」
「そうなんだよ。まぁ、アイツはお茶農家を継いだって感じかな。親父の福三さんの、な……いや、継ぐってたって……アイツはずっと親の遺産を狙っていたようで……今じゃ、遺産を売っぱらおうとしてるんだよな……」
その隣でシスター・アレンは笑っていた。
「最近はずっとひきこもってちゃけど……わたしのおきゃげで何とか何とか、外に出られるようになったひー……最近は嫌いなブロッコリーも残さず食べれるようになったんだよー!」
何だか子供を相手にするような話だが。ふっと笑って告げる。
「それはアンタの前だけだ。アンタの前だから格好つけて食べてるだけで、この前一緒に食べに行った時……ハンバーグのブロッコリーは残してたがな」
たぶん彼が言っているのはこの県特有の超並ぶ、待ち時間三時間は下らないハンバーグ屋さんのことを話しているのだろう。
「ちょっ、それ私も行きたい。この事件解決したら一緒に行かない!? 待つのは……あれだけど!」
「ああ……ちなみに地元民から聞くにはどうやら県の端や駅の近くは混むけど、中部の駅から少し離れた場所は空いてることが多いそうだぞ」
「へぇ!」
たわいもない話を続ける中、ふとシスター・アレンが男の持つ大きな紙袋が濡れているのに目をやった。
「あれ、何か濡れてる?」
「ああ! いけない! アイス買ってきたんだよっ! 折角、買ってきたのに解けちゃうから……!」
「はっ、それはいけないっ!」
一瞬で彼女は酔いを覚まし、男と共に走り出す。そして向かうは一つの大きなお屋敷の方。
「ほらほら! 行きますよっ! この人達もついてきていいですよね!?」
「ああ! アイスはたくさん買ってきてるから! 急ぐよ!?」
シスター・アレンがお屋敷の中に入っても良いとの許可をくれた。ならば、ありがたく行かせてもらおう。
門をくぐると、そこはかなり和風な庭園が。庭の中に池やら、松やら。橋なんか作られていて、俺達はその上を歩いて行く。つい鯉が顔を出したものだから、手を振りたくなるも我慢。リヴィアは「こんにちはー!」と置いてかれても構わないようで、呑気に挨拶をしていた。
少し進んだところに大きな植木ばさみを持つお爺さんが立っていた。
「……あの人は?」
シスター・アレンが前から解説してくれた。
「刈谷さんって言って、腕のいい庭師みたい。先祖の代からずっと引き継いでいるみたいで……でも絶対怒らせちゃいけないよ。ハサミを持って、延々と追い掛け回されるって話だから……!」
ならばいいかと思っている合間にリヴィアが鯉の頭を撫でようとしているのが見えた。気付けば彼女は前のめりに。
「あわわわわ!」
ちょっと待て。
ちょっと待てと俺は心の中で、声に出して言うももう遅い。
彼女は思い切り池の中へとドボン。鯉が逃げて行って、代わりにリヴィアが池から顔を出す。何をやっているのか。
「大丈夫か!?」
庭師の刈谷さんが最初に怒鳴るような感じで大声を上げて。少しビクッとするも、すぐに俺が前に出て。ずぶぬれになったリヴィアを引き上げる。
それから大謝りだ。
「すみませんすみませんすみませんすみません……! うちのリヴィアがつい調子に乗ってすみません……」
「ったく……早く体を温めて来い……わしから風呂に入れるよう話をしておく」
そこにふっと笑うのはシスター・アレン。すぐ喧嘩になるリヴィア。
「悪かったわね。これは完全に私のミスよ!」
「ううん、運が良かったじゃない」
「何それ、嫌味!? 何それ!?」
「いや、本当の意味で……よ」
「はぁ? どういう意味よ……それ」
「アイスはちゃんと取っておきますから、落ち着いて入って来なさい……あっ、ついでにこの子も一緒にお風呂に入る……!?」
俺は「はぁ!?」と思い切り声を上げてしまって。ついでにリヴィアのいけない姿まで想像してしまった。俺は、悪い子だ。




