41話 確信犯
結局、強制的に服を脱がされたセリス
しかも、その後も抵抗むなしく全身の隅々まで洗われ、着せ替え人形扱いされて、精も魂も尽きていた
月影の間のソファの上でグッタリとするセリスと対照的に、侍女三人は実に満足そうに笑みを交わしていた
「やっぱり元が良いから、ちょっと磨いただけで見違えるわねえ。」
「うんうん。でも、もうちょっといじりたかったなぁ。髪とか服とか化粧とか」
「三日後に期待。」
三人が何か言っているのが聞こえたが、聞き耳を立てる気力が無いセリスはただただ聞き流す
聞き流しているのに、疲労が蓄積されていくのは気のせいじゃないと思う
そうして、どれくらいの時間がたったのか
ジークの来訪が告げられた
夕食が運ばれてきたので共に食べないかという誘いを、セリスは承諾した
「通してください~」
もはや顔を上げる気力も無く言ったセリスの元に、ジークは案内される
「・・・・・さっぱりしたようだな」
「酷い目にあったわ」
あえてセリスの様子には触れずにコメントしたジークに、呻くように答えを返す
セリスはその立場ゆえに他人に着替えを手伝ってもらうことも、湯殿に人がついて来ることも、今まで無い訳ではなかったが、質素な独り暮らしが長かった身。
全ては遥か遠い時の流れに呑み込まれ、そういうことが『あった』と記憶するのみで、経験などとうの昔に忘れ去ってしまっていた
おかげでどうしていればいいかわからず、無駄に体力を使ってしまったのだ
一通り言葉を交わしてようやく顔を上げたセリスは、ジークの後ろに見知らぬ姿を見つけた
年の頃はセリスより1,2歳上か。少年と青年の境目辺りだ
侍従らしく動きやすいが見苦しくない服装はまだ馴染んでおらず、なんとも初々しい
新緑の髪と褐色の肌が、真っ直ぐに元気良く伸びる若木を思わせた
じっとセリスに凝視されたその少年は、顔を赤くした
「ジ、ジーク様つきになりました、ルシオンと申します
これからよろしくお願いしますっ」
ガチガチに固まりながら、そう言って勢いよく頭を下げる少年に、セリスはコロコロと笑い声を上げた
「はじめまして、セリスと言います。ルシオンという名は略式みたいですね
では、ルシオンさん、こちらこそよろしくお願いします」
にっこりと極上の笑みを浮かべたセリスを見て、再びルシオン少年は硬直した
それを見逃さず、セリスは続ける
「ジーク付きという事は、これから顔を合わせる機会は多いでしょうし、堅苦しいのは苦手なので、どうか気楽にしてください
私のほうが(外見は)年下のようですから、敬語も要りませんよ」
「え・・・・あの・・・・・」
しどろもどろに反論しようとするルシオンだったがセリスの純粋(に見せかけた)瞳に何も言えなくなる
ただでさえセリスは風呂上り。上気した頬とキラキラ輝く瞳、しっとりと艶を増した黒髪。
一心に見上げてくる美少女に抗えるはずも無く、何とか搾り出した言葉は
「自分もルシオンでいいです・・・・」
というものだった
セリスが純情な少年一人を陥落させているのを見ていたものの反応は様々だった
こういうやり取りはもう慣れっこなジークは苦々しいというより「またやっているのか・・・・」という呆れを含んだ目線
侍女三人は目を輝かせ、微笑ましい、というには問題のある光景を見守っていた
しかし、ふとマリーエが我に返る
「私たちも同じように落とされた・・・・・?」
呟いた瞬間に悪寒に襲われ、彼女は慌てて頭からその考えを追い出した
「じゃあ、紹介しますね、私付きの、マリーさん、カティさん、ミシェルさんです
ジークも、ちゃんと顔と名前を覚えてよ?」
「ああ、大丈夫だ」
セリスの最後の言葉はほとんど冗談だが、ほんの少し本気も入っている
以前とある街に立ち寄ったとき、ある女性に声をかけられた。そのときセリスが誰かと尋ねると「知らん」という答えが返ってきたのだ
その後巻き込まれた事件でその女性がジークのつかの間の恋人だったことを知るのだが、正直セリスはそのことを知って呆れてしまった
しかも、そういうことは一度や二度ではなかったりする
なので強めに念を押したセリスだったが、1つ、勘違いをしている
ジークは恋人たちのことを忘れたのではなく、最初から記憶する気がなかっただけなのだ
怒られるのは目に見えているので、ジークは決して訂正する気はないが
「そう言えば、三日後の話は聞いたか?」
食事が終わり、出された酒を楽しみながらジークはセリスに話しかけた
こちらは弱めの果実酒を楽しんでいたセリスは、カティ達が何か話していたなと思い出す
だが、全く聞いていなかったため、素直に首を横に振った
「式典のためにアスト、いやアストファルが帰国する。そのための夜会を、三日後に開くそうだ。
ランディスによると、そこで俺達を客分として紹介するつもりらしい。」
「へぇ、アストファルって言うと第二王子だっけ。
それってやっぱり、私も出席しないといけない?」
「まぁ、当然だろうな」
「う~ん、めんどくさいんだけどなぁ。あんまり公の場に出たくないし・・・」
「こればっかりは諦めるしかないだろうな」
王家主催の夜会の招待に何も感慨を抱かず、淡々と、むしろくだけた様子で交わされる会話に周りにいた人間は礼儀正しく聞こえないフリをした
「あ、でも服装どうしよう。正装じゃないといけないでしょうけれど、さすがにドレスは持って来ていないし」
「そう言えば、俺のは適当に用意すると言われたが、セリスについては聞いていないな。
君たちは何か聞いているか?」
話を振られたカティアが慌てて答える
「今から用意するとさすがに間に合わないので、セリスに似合いそうなものをいくつか見繕うと言われました。あ、セリスは色とか、何か希望はある?」
何の気なしにカティアから出た質問に、セリスは考え込んだ
考え込み、考え込み・・・・・・・ついには腕まで組んで思い悩んでしまう
「せ、セリス?」
しばらく待ってもピクリとも動かず、思考に沈んでしまった彼女に恐る恐る声をかけるとハッと顔を上げた
「あ、ごめんなさい・・・希望は特に無いわ
ん、でも・・・・・そうね、白と黒のドレスを一着ずつ、入れておいてくれる?」
「わかったわ。ほかに無い?」
「ええ。ああ、そうだ。三人とも、今日はもう下がってくれて良いわよ。
色々慣れていなくて、疲れたでしょ。ご苦労様。明日もよろしくね。」
何も言えず、彼女達は頷くしかなかった
感想を書いてさった方、お気に入り登録してくださった方、そしてこの作品を読んでくださる方、本当に感謝します。
実は、銀月を書き始めてもうすぐ1年が経ちます。
1年で投稿数48話。多いんだか少ないんだか・・・。
お気に入り登録してくださる方もたくさんいて、ほんと嬉しいです。
これからも、拙作を見放さず、お付き合いください。
誤字、脱字、文法上の誤りなど、ご指摘くださると嬉しいです。




