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銀月の魔女は闇と歩く  作者: 桜色藤
2章 太陽の都
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40話 侍女三人娘

遅れました!!

楽しみにしてくださっていた方、ごめんなさい。

詳しい理由は活動報告で。


 ランディス、シルヴィス主従が去った後も、セリスは無名の間にいた

ジークもそれを咎めることはせず、むしろ当然のこととして受け入れる


 思い思いに時間を潰し、時折、思い出したように言葉を交わす

そうしているうちに、ソファでうとうとと微睡(まどろ)んでいたセリスを起こしたのは、ノックの音だった

ジークが気付いて立ち上がり、扉へと向かう音がする

 瞳を開いたが、ここからでは入口の様子を見ることはできない

 セリスが身を起こすと、その上から外套が滑り落ちた

その衣擦れの音に気付いてか、ジークが姿を現す


「起きたか

 今、侍従が来て、夕食の時間だと言われたんだが・・・どうする?」

「ん・・・許されるなら、部屋で食べたい

 今日はもう、疲れちゃった」


 それを聞いて、ジークは扉の外へ告げる

返事とともに、誰かが去っていくのがわかった


「月影の間にも侍女が来ているだろうし、一度戻ったほうがいいだろう

 立てるか?」

「へーき」


 まだ寝ぼけた頭でふらふらと立ち上がるセリスを、ジークはじっと見つめる

それから、さっとかがみ込んだ


「きゃぁ!!」


 素早く抱えあげられて、セリスは可愛らしい悲鳴を上げる


「まだ夢の中にいるような状態で、真っすぐ歩けるわけないだろう

 抱えて行ったほうがまだましだ」

「おかげで眼が覚めたわよ!!

 だから降ろして!!」


 バタバタと暴れるセリスに、ジークは一言


「そんなに暴れると、落ちる」


 同時に少しだけ腕の力を緩める


「ふわっ」


 宣言通りに落ちそうになり、セリスは咄嗟にジークにしがみついた

くつくつと上から降ってくる笑い声を睨みつける


「冗談だ、俺がセリスに対してそんな事をする訳ないだろう」


 それを信じているからこそ、咄嗟のことに驚いてしまったのだとは言えず、セリスは抗議の意を込めて彼を軽く叩いた







*******************************


 月影の間に急遽配属された侍女、マリーエ、ミシェリア、カティアの三人はいま、目を丸くして硬直していた

 彼女達はこの部屋の客人であり今日から使える主でもある人物が、この国を救った英雄の連れであることも、その人物が年若い少女であることも、城内を飛び交う噂によって知っていた

 今日登城したばかりという事で、残念ながら人柄まではわからなかったが、その肩書きだけで精神的重圧(プレッシャー)は十分だった

 彼女達は緊張しながら指示された場所、つまり月影の間を訪れたが、客人の姿は無い

見慣れぬ調度を落ち着き無く観察しているなか、やっと現れた主は、なんと抱き上げられ、運ばれていた

 それも、膝と背中に腕を回される、いわゆるお姫様抱っこ

しかも、それをしているのが美麗な青年とくればもう、ただただ驚き、見惚れるしかない


 一方セリスはそんな視線を気にせず、冷たい声をジークに浴びせる


「ほら、驚かれているじゃない

 もう着いたのだから、さっさと下ろしてよ」

「わかった、わかった、そう怒るな

 じゃあ、俺は戻るが、何かあったら呼べよ」

「・・・・・・」


 ツンとそっぽを向いたまま、返事をしないセリスに苦笑すると、ジークは手を伸ばした

ワシャワシャとセリスの髪を掻き回し、目を見開いた彼女の抗議が届く前に退散した














*******************************



「まったく・・・・・」


 憤然としつつジークを見送り、乱れた髪を直したセリスは、クルリと振り返るとにこり、と笑った

真正面からその笑みを見てしまった侍女3人は頬に血を昇らせながらも、我を取り戻した


「はじめまして、セリスといいます

 これからしばらくの間、よろしくお願いしますね」


 そういって深々と頭を下げるセリスに、侍女3人は慌てた


「お願いですから、顔を上げてください!!」


 必死の懇願に仕方なく顔を上げたセリスに、3人はホッと息を吐いた

大切な客人というだけでなく、極上の美少女に頭を下げられるというのはなかなか居たたまれないものだと彼女たちは知った


 気を取り直して、彼女たちもそれぞれ名乗る


「本日よりセリス様付きの侍女となりました、マリーエと申します」

「ミシェリアと申します」

「カティアと申します」


 3人の名を順に口の中で呟き、セリスは困った顔をした


「あの、もしかして、今皆さんが名乗った名って、正式名ですか?」

「はい、侍女は例外を除いて、正式名を名乗ることを義務付けられています」



 正式名とは、生まれた時に親につけられた名

 真名の次に力ある名


 名には力があり、詠唱魔道(スペル・ルーン)の中にはそれを利用して、相手を意のままにする術もあるという

それを防ぐためか、位が高くなるほど正式名が増えるという慣習がある

ただし、その大半は隠し名として秘され、限られたものにしか知らされないが

また、一部とはいえ正式名を名乗ることは、相手への無害や友好を示すという


 正式名と位の関係としては一般的な平民であれば名前と姓名の2つ、裕福な者ならば3つ 

貴族であれば、さらに家名や爵位が加わるので4つ

王族ならば爵位の代わりに継承権などがはいるので4つか5つ。ただし、国名を家名として名乗ることが多いので、間違えることはない

 



 それはともかく、セリスにとっては正式名を名乗られても、少々困ってしまう


「あの、愛称を教えてもらえませんか?

 私の一族の、特に魔法士は掟により、正式名を呼ぶことを禁じられているんです」


 本当に申し訳なさそうなセリスに、3人の表情も和らぐ


「構いませんよ

 掟では仕方がないですし、侍女同士では愛称で呼び合うことのほうが普通ですから

 私のことは、マリーとお呼びください」

「私はミシェルと」

「カティとお呼びくださいな」


 快く受け入れてくれたことに、セリスの顔も明るくなる


「ありがとうございます!

 私のことも、セリスと呼んでくれませんか?それに、敬語もいらないですよ」

「それはできません、むしろ、セリス様こそ、私共に敬語は不要ですよ

 セリス様は殿下の客人なのですから」


 一番年長らしい、マリーの言葉に、セリスは表情を曇らせる


「凄いのも、偉いのも、ジークであって私じゃありません

なのに、こんな美しい部屋で、人に(かしず)かれて・・・・・正直、勘違いしてしまいそうで、怖いんです

 私は・・・・・(おご)りたくない」


 だから、お願い、と見上げられ、マリーはうっと言葉に詰まる

さらにうるうるとした瞳に凝視され、思わずジリッと後ずさる

進退極まったマリーを救ったのは、カティの楽観的な言葉だった


「じゃあ、お互い敬語はナシってことでどうですか?様付けと最低限の丁寧語、公式な場での敬語は譲れませんけれど

 その位なら、セリス様のわがままってことで許されると思いますよ?」

「同感」

「本当?」


 ミシェルも短く賛成の意を告げる

 パァッと顔を輝かせるセリス

その表情に、マリーも白旗を上げた


「仕方ないわね

 でも、それなら遠慮なくやらせてもらうわよ、セリス様

 まずは・・・・・・湯浴みね」

「え??」





 しばらくして、セリスの悲鳴が響いたという


 読んでくださってありがとうございます。

 誤字、脱字、文法や語彙の誤り、ストーリーの矛盾、見つけたらお知らせください。

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