自信、それは自分を輝かせる魔法
キリのいいところまで書こうと思って書いてたら文字数が多くなりました。
やってしまった、頭を抱えながらベッドに潜る。あの後エドモンド様を見送ったはいいが、悲しそうにこちらを見つめる顔が、瞳が忘れられない。彼はどうしてこんなに優しいのだろう。1人の婚約者として、女性として、そして私をちゃんと「アリシア」として尊重してくれる。
「次お茶会をする時はアリシアの好きなことを教えて欲しいな。僕達は婚約を結んだばかりだし、お互いを知らなすぎる。だからこれから知っていけたら嬉しいと思うのだけど……嫌かな?」
彼の気遣いだと気づいた時、気を遣わせてしまったことに申し訳ないなって思ったし、そこまで気を遣わせないといけないくらいわかりやすい表情をしている私が惨めに見えた。きっとこういう考えをしているから彼を追い詰めてしまうのだろうか。
そういえばよくお父様に「自信を持ちなさい」って言われていたっけ。自信がないからこそ、他人の視線や意見に依存してしまうのだと。自信を身につけ、自身がわかるようになれば、他人に振り回されることは無いのだと。
そうならないように今から自信を身につけることはできるだろうか。彼の隣に立って堂々と振る舞うことができたら、私はもっと今以上に輝いているのではないか。それこそ婚約破棄されても堂々としていられるのでは?よく考えてみれば、妃教育に携わる教師の方も堂々としていたし、とても美しかった。それは自分の知識や経験が自信として備わっているからこそ、美しいのかもしれない。
自信をつけるために自分を磨こう。他人に振り回されない私になるんだ。
ベッドから降りて、王室から頂いた妃教育に必要な教本たちを本棚から取り出す。全て机に並べ、どれから学ぶか優先順位をつけることにした。
古典は得意だし好きだから妃教育が始まる前に予習を兼ねて先にしておこう。
政治は難しいから毎日1ページずつ読んで分からないところと疑問に思ったところをノートに書いて妃教育に備えておこう。
数学は苦手だけど、経済学のことを考えると今のうちに学んでおかないと経済学でつまづいてしまいそうだからお父様の時間が空いている時に少しずつ教えてもらおう。
社交はお母様に教えてもらおう。お母様は社交界に慣れているから色々なお話が聞けるはず。ダンスは……変なクセがついたらいけないから教わるまでは何もしないで、先に音楽を優先にしよう。ピアノを習ってはいるけど、練習曲をメインとしてるから小夜曲や夜想曲を学んだ方がいいのかな?
色々考えすぎて頭が痛くなってきた、一度休憩しよう。考えすぎて頭痛くなるのはよくないもんね。
「お嬢様、紅茶をどうぞ」
声が聞こえてハッと顔を上げたら、机に並べていた教本たちは本棚に収まっていた、私の目の前には紅茶があった。
「エマ」
「そろそろ休憩した方がよろしいかと、教本は片付けておきました」
「ありがとう、ちょうどお茶が欲しいと思っていたの。いただくわ」
カモミールの香りがする紅茶を一口含む。少し考えすぎていたからか、紅茶が喉を通ると張り詰めていた気持ちが落ち着いてくる。
彼女は本当にすごいと思う。私専属のメイドだからというのもあるけど、私がこうして欲しいなっていうのを瞬時に判断して行動をしてる。私が幼い時から傍にいてくれたもんね、私のことをちゃんと把握してるんだろうなぁ。
そういえば、エマから見た私ってどういう印象なんだろう。少し怖いけど自分を知る機会だと思って聞いてみよう。
「ねえ、エマ」
「いかがなさいましたか?」
「エマからみた私ってどんな人?」
「どんな……とは?」
「例えば明るい人、とかそういう……」
「お嬢様の性格、ということでしょうか?」
「そう、それが聞きたいの」
「そうですね……」
エマはしばらく考える素振りをしたあと、口を開いた。
「お嬢様は良くも悪くもよくお考えになられる方だと思います。分かりやすく言えば想像力がある、でしょう?」
「想像力?あまりそうとは思わなかったわ……例えば?」
「本日のお茶会が良い例ですね。エドモンド様の質問に答えることができなかったと思われます」
「……そう、ね。答えれなかったわ」
「お嬢様は言葉の意味をたくさんの意味で捉えてしまうのだと思います。だからエドモンド様の質問をどちらの意味で答えたらよいか分からず返答することができなかったのかなと私は思っています」
「エマの言う通り、色々考えてしまってエドモンド様の質問には答えれなかったわ。でもたくさんの意味で捉えるって言うのは?」
「少しお待ちください。例えを考えます」
そう言うとエマはうーんと声を出し考えている。申し訳ないなぁと思いながらも私は紅茶を飲む。しばらくするとエマが手を叩きこちらに視線を向けた。
「閃きました。例えばお嬢様が招かれたとして、案内された席の目の前にお菓子があるとします」
「ええ」
「主催の方は少し準備に戸惑っており、遅れてくるものとします。そのため「お菓子を食べてゆっくりお待ちください」と言われたら大体の人は主催の方がいらっしゃるまでお菓子を食べながら待ちますよね?」
「そうね」
「でもお嬢様の場合『目の前にあるお菓子全て食べていいのか』とか『主催の方の分のお菓子を残しておいた方がいいのか』と相手のことを考えるんですよ。違いますか?」
「その通りだけど……だって主催の方がいらした時にお菓子がなくなったら『長い時間待たせてしまった』って思わせてしまうじゃない」
「そこです」
「えっ」
どういうこと?エマの指摘に意味がわからず戸惑っていると彼女は言葉を続けた。
「よいですかお嬢様。この例えではあくまでこちらは『ゲストの立場』なんです。つまりお菓子は『ゲストの方を退屈させないようにするおもてなし』なのですよ」
「それは分かるけど……」
「でもお嬢様は主催の事を考えるではありませんか。それこそ今の発言のように」
「うっ……」
言い返したいけど正論なので言葉がでない。エマはふっと微笑みながら言う。
「ですがそれがお嬢様の美点だと私は思っています。相手の立場になって物事を考える人はそうそういませんから」
「……そう?」
「はい、あとはそうですね。失礼を承知で言いますと旦那様が仰っていらっしゃる通り自信がないのだと思います」
「うっ……」
「自信が無いからこそ、他人を助けて自分は価値がある人なんだと思わせたいのかな、とも思います。ですがこれが悪いというわけではなく、お嬢様は本当に周りをよく見ていらっしゃいますので常に一歩引いた感じになってしまうのだと思います」
「……なるほど」
「今のお嬢様ももちろん素敵ですが……」
エマはそう言うと紅茶をティーカップに注ぐ。注がれていく琥珀色の液体を見つめたあと、私は彼女に顔を向けた。カモミールの香りが辺りに広がる。
「お嬢様がご自分のことを好きに……それこそご自分に自信を持てるようになったら今以上に素敵になるのではないかなと私は思います」
そう微笑む彼女の瞳は、慈愛に満ちていた。
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