波紋は広がりつながる
教室に着き、指定された席に座る。廊下近くだからか、近くを歩く生徒の足音や会話が耳に届く。教室を見渡せば、先に来ていた生徒たちが楽しそうに談笑していた。無理に会話に交わろうとは思わない。
こういう時はもちろん、本を読むに限る!
あらかじめかばんの中に入れていた本を取り出す。それは令嬢たちの間で流行になっている恋愛小説だ。パン屋の娘と王子の身分差の恋物語。風景描写をはじめ、食事の表現や登場人物たちの心の機微が丁寧かつ美しく、胸を打たれるらしい。
どんな話かしら、楽しみだなぁ。
表紙を捲ろうとした瞬間、肩を優しく叩かれる。一体誰だろうと思い振り返れば、ツリ目のキレイな顔立ちの少女がこちらを――正確には私が手にしている本を見つめていた。彼女は何度か視線を動かし、考える素振りをしたあと、小さな声で言った。
「……あなたもそのお話好きなの?」
やはり本のことで話したかったらしい。手元にある本を持ち上げ、私は言う。
「実はまだ読んだことがなくて……これから読む予定なんです」
「あ……そうなのね。もしかして今から読もうとしていたのかしら?もしそうだったなら邪魔してごめんなさい」
「お気になさらず、このお話が好きなのですか?」
「え、ええ、すごく……詳しいことを話してしまうと読む時の楽しさが半減してしまうから言えないけど、とても素敵なお話よ」
「今流行っていますものね、このお話。描写などが丁寧で美しいと聞いてこの間やっと届いたんです」
「そう!そうなの!」
少し興奮した様子で彼女が言う。その姿にアリシアはどこかシンパシーを感じていた。
「そう、とっても美しいの!こちらの作者さんは以前から表現がとってもきれいで読んでいて情景が浮かぶのが特徴的で……特に食事シーン!お腹に何も無い状態で読むと、絶対お腹が空いてしまうくらいには分かりやすく読みやすいんです!」
「分かります。美味しい描写は何かお腹に入れてないと辛いですよね。以前読んだ『コンフィズリー』はお菓子の表現が素晴らしすぎて、あのあと主人公が食べていたビスケットをシェフに焼いてもらったんです」
「私と同じことをしている人がいるなんて思わなかった……あのビスケットは食べたくなりますよね」
互いの顔を見つめる。二人は思っていた。仲良くなれそうだと。
「私たち、気が合いそうですね」
「ええ、本当に」
「今更ですが私はアリシア・シルフィーと申します。お名前をお伺いしても?」
「本のお話に夢中で名乗ってなかったですね。メリュー・シレアと申します。そのアリシア嬢、初対面で言うことではないと思っているのですけれど、その……」
顔をほのかに赤らめ、彼女は言った。
「お話を読み終えたらでいいのですけれど、あなたの感想が聞きたいので良かったらまたお話しませんか?」
「ええ、ぜひ。よろしければ明日お互いにおすすめの本を紹介しませんか?」
「素敵……!アリシア嬢はどの分野をよくお読みになられますか?私は恋愛小説を主に読んでます」
「私は古典文学を主に読んでますね。たまにこうして流行りの本などを読むくらいです」
「古典文学……!実は読んでみたいのですが文体が固くてなかなか読みづらくて……」
「確かに読みづらいですよね、こう、言い回しがくどいというか……」
「そうなんです。言い回しがくどくて何を伝えないの?って深く考えてしまうんです……」
彼女と盛り上がっているとガタッと大きな音が聞こえた。思っていた以上に大きな音だったのでクラスにいる生徒の視線が扉に向かう。一体誰が、そう思いつつ教室の入口に顔を向けると、そこに立っている少女と目が合った。
「……え?」
心臓が跳ねる。なぜならそこにいたのは夢に出てくる彼女だったからだ。もしかして同じクラス?まさかこんなところで会うとは思わずひゅっと息を飲む。彼女はすぐに視線を逸らすと、自身の席に向かう。彼女が歩き出したのを確認すると、生徒たちは談笑に戻る。
彼女が前を通り過ぎる。甘ったるい香りが鼻についた。
――ああ、あの時の香りだ。
私は彼女が先ほどまでいた場所を見つめることしかできなかった。
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