幼心に残るのは
こういう経験、あると思うんですよね
え、待って、私自覚する前は何を考えていたの?思い出そうとすればするほど、頭の中がごちゃごちゃになってしまい、軽いパニックに陥る。気づいてはいけないものに気づいてしまったような感覚。警告を鳴らしているのにそれでも脳は健気に記憶を必死に呼び起こす。様々な記憶が思い浮かぶが何を考えていたかは分からない。
いいや、違う。何も考えてなかったのだ。
導き出した結論を拒むかのように呼吸が浅くなる。ちがう、空気が体に入っていないのか、頭がふわふわしはじめた。
ちがう、ちがうちがうちがう!考えていないわけじゃない!忘れているだけ!だって私は、私は……私は……、今頑張っているもの!少しずつ変わっているはず……。
口からヒューヒューと音がする。苦しい、苦しくて仕方がない。そう思っているともうひとつの考えが頭をよぎる。
何が違うの?あの日の失敗を境に他人の顔色ばかり伺って生きて、自分の意見もまともに言えないくせに。ひたすら本の世界に逃げて、考えることを放棄した結果よ。分かっているくせに現実逃避をするのね。逃げることだけは得意よね。誰かに憧れを抱くくせに動こうとはしない。最近やっと動くようになったけど、これが正解かどうか悩んで結局動くことに不安を抱いているから結局中途半端。これがあなたが今まで撒いた結果よ。
よかったじゃない、きれいな花が咲いて。
近くで大きな音がした。どうやら馬車を停め、扉を開けたらしい。
「お嬢様!?」
御者のじいやが私を呼んでいる。大丈夫と言いたいのに顔が、口が、体全てが動かない。じいやの顔も見れない。彼は今どんな顔をしているのだろうか。
心配かけてごめんなさい。
そう思った瞬間、視界が黒に染まった。
「ごめんなさい……ごめんなさい……」
ああ、これは私だ。その場で涙を流す少女を見て、私はぼんやりと思った。かわいらしい水色のワンピースの裾を強く掴んで、大粒の涙を流している。涙を拭おうと手を伸ばせば、すり抜けてしまう。
「アリシア、ちゃんとカーテシーができていたじゃないか」
「気にしなくていいのよ、あなたはがんばったのだから」
両親が涙を拭い慰めているけど、その声は届かない。
これは私のトラウマだ、泣いている少女と両親を見つめながらその場に座り込む。確かこの日は王家主催のガーデンパーティーで、両親と一緒に参加した私は他の家の子どもたちと遊んでいたんだよなぁ。思い返しているといつの間にか3人の姿は消え、あの日の光景が辺りに広がる。
きれいなバラが咲き乱れる、よく晴れた日のこと。当時デビュタントを迎えることができない私は、同い年の子どもたちと庭で親の様子を見ながら、あちこち歩き回り楽しんでいた。
「アリシア」
「おかあさま!」
「今からご挨拶に行くからこちらへいらっしゃい」
「はーい!」
そうお母様に言われ、手を繋いでお父様の元に向かったのを覚えている。お父様は男の人と話していて、こちらに気づくと嬉しそうな顔をして手招きしていた。
「イザベル、アリシア!ああ、リッケル公爵。こちらが私の妻と娘です」
「初めましてリッケル公爵。リアム・シルフィーの妻、イザベル・シルフィーと申します。さあアリシア、挨拶ができるかしら?」
「こ、こんにちは!アリシア・シルフィーです」
ああ、そっか。ここでがんばって覚えたカーテシーを披露したんだっけ。できた!って思って顔を上げたら、目の前に私と同い年か年上くらいの男の子がいて──
「なんだお前、下手くそなカーテシーだな!」
大声で叫ばれたんだっけ。びっくりして固まってたらくすくすと笑い声が聞こえてきたんだよね。
「……に、あれ?」
「やだ……な……い……」
「あり……い……ね……」
内容までは覚えてないけど、それがとっても辛くて。そこから先は覚えてない。私のカーテシー、ダメだったんだ。教えてもらった通り一生懸命やったけど下手くそなんだって思ったらそれで頭がいっぱいになっちゃった。そこからずっと周りの目が、声が、何もかもが怖くて。お母様の傍から離れなくなって、そして帰る時に泣いちゃったんだよね。
その様子を私は見つめることしかできなかった。
「……ん」
目を覚ませばそこは自分の部屋で、帰ってこれたんだと安堵する。
「……嫌なことを思い出しちゃったな……」
そうつぶやく声は震えていた。
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