甘すぎるものは好きではない
やっとカタリナ嬢が出せました
「エドモンド様ぁ、こちらにいらしたんですね」
砂糖をどろっどろに煮詰めたような甘い声に視線を向けると、艶やかな黒髪をまとめた令嬢がこちらを……正確には隣にいるエドモンド様を見つめていた。ぱっちりとした黒い瞳はこちらを見ようともしない。エドモンド様は私の手を握ると、目の前にいる彼女に声をかけた。
「どうしたんだユーグリット嬢」
「やだぁエドモンド様、私のことはカタリナとお呼びくださいと言ったではありませんか」
なぜだろう、彼女の声を聞いているとすごく腹ただしい気持ちになる。婚約者の私を無視して彼に話しかけるのもそうだけど、まずは挨拶をするべきでは?エドモンド様もそれを察しているのか彼女を咎めた。
「ユーグリット嬢、私の元に来るのは構わないが先に挨拶をするべきでは?」
「あら、申し訳ございません。なにせ庶民上がりですのでまだ礼儀作法は知らなくて……」
うわすごい嫌味ったらしいなこの子!庶民上がりだから今までの態度を許してくださいってこと?いやいやさすがに許されるわけないでしょ。というか庶民上がりならなおさら礼儀作法はきっちり学ばないといけないとこれからまずいのでは?エドモンド様の様子を見てみると彼も返答に困っている。そうよね、ここで礼儀作法をきちんと学ぼうと言えたらいいけど、彼女の場合それを逆手に取って言い訳してきそうだもん。今こうして少し話をしているけど彼女はやりそう。ひどい偏見だと思うけど女の勘って当たるんだぞ。
「そういうのなら、今以上に礼儀作法を学ばないといけないんじゃないか?貴族社会は君が思っている以上に怖いところだよ」
あれ?エドモンド様ってこんなにズケズケ言うんだ。お優しい方だから結構オブラートに言われると思っていたから意外。それに思ったより冷たい声で私も思わず息を呑む。カタリナ嬢も驚いているのか黒い瞳を大きく開かせ、呆然とした顔で彼を見ている。エドモンド様の対応は怖かったけど、彼が言ってることは正論だから私は敢えて黙っておく。それに私が今このタイミングで話したらこじれそうだしね。
「で、でしたらエドモンド様直々に教えてくれませんか?」
あからさますぎて失笑してしまいそう。思わず顔を伏せると、察したエドモンド様が繋いでいた手を解き、私の肩を抱き寄せた。ちょっと待ってこれは聞いてない。驚きが勝ってしまい思わず固まる。彼は自身の胸に私の顔を埋めるように抱き寄せ、言った。
「それは私がやることではない。君の世話係に頼んでみたらどうだ?」
「え、ですが……」
「それに私は今アリシアと貴重な時間を過ごしていてね、邪魔をされたくないんだ」
そう言われて思わず顔が赤くなる。エドモンド様って結構直接的な物言いをされるんですね。彼女がどんな顔をしているか分からないが、多分すごい悔しそうな顔をしてるんじゃないかな。なすすべがないってこういうことを言うんだなぁって感じ。
「……申し訳ありませんでした。失礼します」
少し強めに地面を蹴る音が響く。足音が遠ざかっていくのを確認し、私は顔を上げた。
「あの、エドモンド様……」
「どうしたんだいアリシア」
先程まで彼の声色が冷たかったのに、私に対して一気に柔らかくなる彼の意外な一面に思わず目を瞬かせた。聞きたいことがあるのに、なにか話そうとすれば呼吸が上手くいかず視界が揺らぐ。焦る彼の顔を最後に、私の意識は途絶えた。
「……」
ゆっくり意識が浮上して目が覚める。見慣れた風景に安堵しつつも、私は先程までの光景が夢だと確信した。エドモンド様もあんな声を出すんだ……というのが初めに思った感想。忘れないようにノートに思い出せる範囲のことを記入していると私は違和感を覚えた。
「あれ……?エドモンド様、今日見た夢では彼女に対して私って言っていたような……」
込み上げてきた不安を胸にノートを見返す。何度も見返して疑問が確信に変わった。エドモンド様は彼女に対して他人行儀を貫いている。確かエドモンド様は親しい人と話す時やプライベートな時は一人称を僕と言っていたはず。私とのお茶会では僕と話していたもの。婚約破棄される時は夜会だから私と言うのもわかる。でもあそこまで誰かに対して他人行儀なのは夢を含め今まで見た中で初めてかもしれない。
ではなぜ彼女に対して他人行儀をするのか?そう考えても答えは出るはずもなく。もしかしたら彼女以外の生徒にも他人行儀を貫いているのかもしれない。私達3人以外に誰も周りにいなかったしさすがに考えすぎかな。これはもう少し夢を見ないと分からないから頭の片隅に入れておくだけにしておこう。
ノートを机の引き出しにしまい、私は今日から始まる妃教育の準備を始めた。
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