結末は変わらないのかもしれない
またギリギリになってしまった
「背筋を伸ばしなさい。……そう、その調子です。次は背筋に意識をいきすぎてリズムにのれていませんよ」
「は、はいっ」
妃教育初日、覚えることがたくさんありすぎて頭が爆発してしまいそう。午前中は座学を、午後はピアノとダンスをメインとした実技というスケジュール。今やってるダンスのレッスンを終えたら、今日の妃教育は終わり……ではなく、この後に礼儀作法がある。スケジュールが埋まってて本当に大変。歴代の王妃様はみんなこれを学んできたのね……。
先生が分かりやすく教えてくれるから今はなんとかついていけてるけど、これ以上科目が増えたら知恵熱出してしまいそう。屋敷に帰ったらしっかり復習しないと。古典文学が楽しみ〜って言ってた数日前の私にそんな余裕はないわよ!って言ってやりたいくらい。
「ダンスのレッスンはここまで、次は礼儀作法に移りましょう」
「はい、ありがとうございました」
「筋はとても良いので、まずは基本をしっかり抑えましょう。明後日に復習を兼ねてもう一度はじめから教えますので練習を怠らないように」
「はい」
「それでは、しばらくの間休憩とします。準備が整い次第、城のメイドが声を掛けますのでそれまで復習などしていてください」
先生はそう言うと部屋を後にする。パタンと扉が閉まる音がしたあと、張り詰めていた空気が緩くなる。それを確認したあと、私は静かに息を吐いた。緊張した……一日でも早くこの空気に慣れないと。
次のレッスンまで時間はあるからこの空き時間で今日の復習をできる範囲でしておきたいな。部屋の片隅に置いていた教本を持って廊下に出るとたまたま前を通りがかったエドモンド様と目が合った。
「やあ、アリシア」
「ごきげんよう、エドモンド様」
「ごきげんよう、今は休憩中かい?」
「ええ、次のレッスンまで時間がありますので、今のうちにできる範囲で復習をしておこうと思いまして」
「勤勉家だな……と言いたいところだが、実は僕も同じでね。良かったら一緒にしないか?」
「あら……よろしいのですか?」
「ああ、学んでいる範囲は妃教育と同じと聞いているからね。それに分からない問題が出た時に一緒に考えるのはお互いのためになるだろう?」
「確かに、でしたら私ちょうど数学で分からない問題がありまして……良かったら教えていただけませんか?」
「数学は僕の得意分野だ。任せてくれ」
まさかエドモンド様と一緒に復習をすることになるとは。数学が得意って聞いてすごくありがたい。やっぱり頭の中がごちゃごちゃしちゃうんだよね数学。数式とかどうして最終的にこうなったのかとか気になり出すとさらに頭が混乱しちゃう。数式に数字を当てはめて計算したら大丈夫って得意な人は言うらしいけど私はどうも納得がいかないのよね。
「書庫に行って復習をしようか、あそこにはわかりやすい本もいくつかあるし」
「そうですね、あの、もしよろしければエドモンド様のおすすめの本などはありますか?」
「ああ、その時にいくつか教えるよ。おっと、数学の本でいいのかな?」
立ち止まったあとこちらに顔を向けわざとらしく言う姿に、思わず笑みがこぼれる。
「ふふ、もちろん数学ですよ。古典文学が好きだということ、覚えてくださってたのですね」
「それはもちろん……これから共に長い時間を過ごす婚約者候補である君の好みをある程度は把握していた方が良いだろう?」
そう笑うエドモンド様はとても眩しくて、なんて返そうか悩んだ。婚約破棄されるから私としては深入りしない方がいいのかなって思ってたけど、彼は深入りしようとするタイプらしい。
「……でしたら、今度おすすめの本をいくつか紹介しますね」
「ああ、ありがとう。楽しみにしているよ」
話していると書庫に着いたらしい。エドモンド様は扉を開けると私をエスコートする。中に入るとたくさんの本が目に映る。そういえば似たような光景をどこかで見たような……そう考えていると、以前見た夢の内容を思い出す。図書館で2人きり、勉強していたあの夢だ。え、もしかして夢の内容が今現実に反映されたってこと?
でもあの時と部屋の様子が違う。それに夢の中のエドモンド様は図書館って言っていたしここは書庫だ。そうだとしてもあまりにも似すぎている。わからない、わからなすぎて脳が思考を拒否する。
無理やり頭を働かせて考える。未来は変わらない。ならば今まで見た夢はどんな形であれ実際に起こるのかもしれない。そう考えた途端、私の体が一気に冷たくなっていく。怖い、怖い怖い怖い!私の周りが、世界がぐにゃりと歪んでいく。呼吸がうまくできているのかも分からない。歪む世界から逃げたくて、私は思わず目を瞑った。
「アリシア?」
不意に呼びかけられた声で、現実に戻される。目を開けばこちらを覗き込む紫の瞳と目が合う。びっくりした私は肩を跳ねさせ後ずさった。
「大丈夫かい?急に立ち止まるから何かあったのかと……」
「……申し訳ありません。たくさんの本に見蕩れてしまい、意識が逸れてしまいました」
「ははっ、アリシアらしいな。席はこっちだ」
きっと妃教育で緊張し疲れていると思ったのか、無理がありすぎるごまかしをエドモンド様は受け入れた。彼は私の手を握り奥へと案内する。私はその背中をぼうっと見つめることしかできなかった。
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