愛情表現は人それぞれ
不器用な優しさって、伝わった時心温かくなりますよね。
うぅ、聞きそびれたのは仕方ない……。帰りに会えたら絶対名前を聞こう。貴重な、貴重な!古典文学を語り合える人なんだから絶対に逃がさないよ!あの様子だとたくさんの物語を知ってそうだし、なにより語り足りないもの!彼のことを惜しみつつも私はお父様の元に向かう。
「待たせたねアリシア」
ソファーでくつろいでいたお父様は、私を見かけると優しく手招きした。隣に座ると宝石商のオーナーであろう男性が、ローテーブルに小さな箱を置く。どんな宝石なんだろう、少しわくわくしながら箱が開くのを待つ。カタ、と音が鳴り蓋が開いた。
「わぁ……!」
中に入っていたのは、海のように深い青色をした宝石だった。よく見るとただの青だけではなく、中に金色の細い線が照明の明かりを受け、星の形を静かに浮かびだしている。その姿はまるで海の水面に映る夜空の月のようで、ぼうっと見蕩れていると背後で嬉しそうに笑うお父様の声がした。
「気に入ったようでなにより」
「こんな素敵な宝石、見たことありませんわお父様」
「そうだろう、この宝石はとても貴重だからね」
「えっ」
「『ノーチェ・エクラ』という宝石でね。ここから北にある雪国でしか採れない貴重なものなんだ」
「……」
宝石が貴重なものとは分かってますけど、かなり価値が高い物を私に贈ろうとしたんですかお父様!?え、お母様じゃなくて?私じゃなくてお母様に贈った方が良いのでは?
「貴重なものとは分かりました。ですがどうしてこれを私に……?」
「それはエドモンド殿下と婚約が決まっただろう?」
「え、ええ……」
「いわばお守りだよ。妃教育をはじめ王宮でなにか辛いことがあったとしても、婚約者の親とはいえ私やイザベルは口を挟めるわけではないからね。それにほらアリシアも好きだろう?『アリオス・アヴニール』」
「……つまり無事にお父様たちの元に帰れるようにお守りとしてこれを渡すと?」
「そういうことだね」
「というより私、お家に帰ること前提なんですね」
「……」
あ、目を逸らされた。
それにしても『アリオス・アヴニール』の話を用いてこの宝石をお守りにするとは……文学好きな私へのサプライズだというのが分かって嬉しい反面、あまりにも高価すぎる宝石に複雑な気持ち。どうしよう……。
「お父様、お気持ちはありがたいのですが……」
「この宝石だと高価すぎて不安、といったところかな?」
「……」
さすがお父様と言うべきか、私の言いたいことを分かってらっしゃる!どう断ろうか考えてると、頭に温もりがやってくる。優しく撫でながらお父様は笑いながら話し始めた。
「実はな、アリシア」
「はい」
「本当は婚約のお誘いを一度断る予定だったんだ」
「えっ」
「かわいい一人娘を王宮に嫁がせるなんてと初めは思ったし、うちは権力争いには興味がなくてね。イザベルと話し合ってアリシアが嫌だったら断ろうと考えていたのさ、だが……」
「だが……?」
「エドモンド殿下があまりにもまっすぐお前を見つめるものだから、認めざるを得なくてね」
「……エドモンド様が?」
「ああ、だから辛くなったら帰ってきておいで。その時はちゃんと断るから」
お父様が権力争いに興味がないのは意外だった。あと私のことをずっと考えていることも、少しこそばゆくてお父様の顔が見れない。そんな私をお見通しなのか、お父様は私の頭を撫で続けた。
確かに、今の私だとエドモンド様の隣にふさわしいかと言われたらそうではない。でもやってみないと分からないし、無理だと思ったらちゃんと帰る場所があるから、頑張れることは頑張って見ようと思う。
──未来が決まっているからって怯えたまま過ごすのは嫌だもの。私は私自身で自分の未来を掴むって決めたんだから!
「……ありがとうございますお父様。ですが……」
「ん?」
「こんな高価な物はいただけません!」
「あらら、アリシアは流されなかったか」
上手くいくと思ったんだけどな〜と呑気に笑うお父様に私は頭を抱える。
「アリシア」
「……なんでしょうお父様」
「王宮は今以上に周りの目がある。だがそれに負けないよう、自分を持ち続けなさい」
「! はい……!」
もしかしてお父様はこの話をしたくて私を連れ出したのかな、なんて思ったり。少し遠回りなお父様の愛情に、胸の中が温かくなった気がした。お父様は微笑むとずっと様子を伺っていたオーナーにこう告げた。
「これをブローチにしてもらいたい。ああ、加工の際に出た欠片も指輪にできるならしてほしい」
…………ん?なんで買う流れになってるのかな?
「あの、お父様……?今の流れでは買わないのでは……?」
「それはそれとして、これは私からのプレゼントだ」
「……んんん?話が違いませんか?気に入った宝石があったら別のものにすると……?」
「実際、この宝石を気に入っているだろう?じゃないとあんな反応はしないさ」
「うっ……」
図星なので何も言えない。実際値段を気にしなくていいなら、心を奪われている。お父様もそれを分かってるから買うんだろうな。
「私からの婚約祝いだ。式典や夜会の時にアクセサリーとしてつけなさい」
「……はい」
父親には、親には叶わないんだなぁ。そう思いながら私は蓋が閉まるのを見届けた。
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