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第四部第十六話:禁忌の誓いと、破られた迷信

第四部第十六話:禁忌の誓いと、破られた迷信


白磁の壁に囲まれた『聖なる塔』の最上階。

重厚な扉と強力な結界によって閉ざされた一室に、本物のリサ王女は幽閉されていた。

「……リサ……っ……リサ……目を覚ませ……!」

ドアの隙間から滑り込んできた影。途切れ途切れのか細い声に、リサははっと目を開けた。

視界に映ったのは、全身傷だらけになり、紫色の毒素と血に塗れながらも、必死に自分へ手を伸ばすアルの姿であった。

「アル殿……っ! なんてひどいお怪我……ッ!」

「……ハハ……なんのこれしき、と言いたいところだが……今の俺には、君を背負ってここから連れ出す体力すら……残ってねぇ……」

膝を折り、荒い息を吐くアルの姿に、リサの瞳から涙が溢れ出した。

「待ってください、今……癒しの術を……ッ!」

リサは必死に両手をアルの胸元にかざし、神聖な治癒の光を注ぎ込もうとした。

しかし、クーリッジによって施された強力な『術封じ』の呪印が発動し、彼女の手のひらからは細く不完全な光しか灯らない。アルの深手に比例すれば、ほんの僅かな痛みを和らげる程度の効果しかなかった。

「ごめんなさい、アル……私のために……っ」

「いいんだ。それより、あの約束を覚えているか?」

アルの掠れた問いかけに、リサの息がピタリと止まった。

もしもリサ王女が生贄になりそうな時はアルが命を断つという約束だ。

「……分かりました。今がその時です」

リサは覚悟を決めたようにそっと静かに目を閉じた。


アルは何も言わず、膝を折ったままリサの華奢な身体を強くその胸へと引き寄せ、抱きしめた。

「ん……ッ……」

熱い息が交差する濃厚で濡れた口付け。

涙で濡れたリサの頬をアルの大きな手が優しく包み込み、そのままそっと彼女の身体を倒し、抱いた。

アルの力強い手つきで衣服がゆっくりと解かれていく。

露わになっていく透き通るような白い肌、引き締まった柔らかな胸の膨らみ、そして恥じらいに赤く染まる首筋。


「……殺してくださるのではなかったの?」

「そんな約束はしていない。生贄になる前に俺のものにするという約束をしただろう?」

そういう意味だったのかとリサは真っ赤に頬を染めた。

「あ……んッ……ぁ……っ」

密室の静寂の中、衣擦れの音と息遣いだけが甘く響き渡る。

声を押し殺してリサはアルに身体を委ねた。

命を繋ぐかのような激しくも優しい肌の重ね合わせ。

忍び寄る破滅の影を忘れるかのような、ひと時の安らぎのあと、二人は折り重なるように意識を失った。


しばらくして――聖なる塔の外部から、数万の天使たちの地鳴りのような羽音と、遠くの騒ぎが響き渡り、外が騒がしくなった。

ドカァンッ!と爆音を立てて部屋の重厚な扉が叩き開かれ、冷酷な眼光を走らせた神官クーリッジが部屋に飛び込んで来た。

乱れた衣を整えつつ、倒れ込むリサをかばうように立ち上がったアルは、肩で息を吐きながら不敵な笑みを浮かべた。

「一足遅かったな。リサは俺のものだ。もはや生贄には使えまい」

アルの言葉と、部屋に漂う甘い香油と肌の匂いから、クーリッジは瞬時に状況を察した。

しかし――彼の口から漏れたのは、動揺ではなく嘲笑であった。

「ふははは、お前は生贄が処女でなければならないという迷信を信じておるのか」

「なに!」

「それに愛するもの同士が結ばれあったとて、なんの支障もないわ」

「なんだって?」

アルは「生贄の条件が崩れなかった」こと以上に、クーリッジが事もなげに放った「愛するもの同士」という言葉に激しい衝撃を受け、目を見開いた。

アルの後ろで、乱れた衣類を必死に押し当てて身を隠していたリサは、アルに縋りつきながら顔を赤らめた。

二人の絆すらも飲み込み、邪悪なる儀式は、いよいよ逃れられぬ最終段階へと突き進もうとしていた。

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