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おばあちゃんと暮らすことになりました。  作者: 風みどり


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第6話 小さな芽

第一章 1時間だけ、おばあちゃんと暮らすことになりました。

急に、うめさんのことを思い出した。


お風呂には入っていなかった。


髪も整えていなかった。


でも、会いたかった。


花のおばあちゃんに。


みほは部屋着のまま、うめさんの家へ向かった。


いつものようにインターフォンを押す。


ピンポーン。


でも、返事はなかった。


庭を見る。


そこには、綺麗な花が咲いていた。


その姿に、少しだけ心が癒された。


でも同時に、胸の奥が空っぽになる。


私は、何をしているんだろう。


仕事もできなくなって。


何もできなくなって。


ただ、ここに来ている。


そう思った瞬間、帰ろうとした。


その時だった。


「みほさん?」


振り返ると、向かい側にうめさんが立っていた。


「あらー!どうしたの?今日はお休みかしら?」


いつもの優しい笑顔。


「どうぞ。上がっていって」


その言葉に、みほの胸が少しだけ緩んだ。


うめさんは、温かいお茶と買ってきたばかりのシュークリームを出してくれた。


机の上には、色とりどりの花が飾られていた。


湯気がゆっくり立ち上る。


部屋には花の香りが広がっていた。


聞こえるのは、時計の音だけ。


静かな時間だった。


「召し上がれ」


うめさんは、それだけ言って優しく微笑んだ。


みほはシュークリームを一口食べた。


甘くて、優しい味がした。


その瞬間、涙がこぼれた。


うめさんは何も聞かず、ティッシュを持ってきてくれた。


「……私、仕事たぶん辞めるんです」


みほは震える声で言った。


「もう、無理なんです」


うめさんは静かに聞いていた。


「でも……うめさんにだけは最後に会いたくて」


「本当は、仕事以外で会うのは禁止なんです」


「違反になってしまうかもしれないのに……気づいたら、ここに来ていました」


しばらく沈黙が流れた。


うめさんは、ゆっくり口を開いた。


「誰が最後だと言ったの?」


みほは顔を上げた。


「あなたは仕事を辞めるの」


「これからは、あなたの人生よ」


みほの目から、また涙が溢れた。


「でも……決まりなんです」


「違約違反になっちゃうんです」


すると、うめさんは少し笑った。


「違約違反と言われたら、私も同罪ね」


「もしそんなことを言われるなら、私、保険を解約するわ」


「この年になって、そんな決まりやしがらみに縛られたくないのよ」


うめさんは庭の花を見た。


「私はね、あなたと花の話をしたいの」


「お菓子の話もしたい」


「これは私の人生よ」


その言葉を聞いて、みほの心が少し軽くなった。


初めて、自分を選んでくれる人がいる気がした。


「うめさん……これから、どうしたらいいんでしょう」


「仕事を辞めて、また仕事を探します」


「でも家賃も値上がりするし……引っ越さないと」


うめさんは少し考えてから言った。


「それなら……うちに引っ越してきたら?」


みほは驚いて顔を上げた。


「嬉しいです……」


「でも、私……犬を飼っているんです」


「あら!」


うめさんの顔が明るくなった。


「かわいい家族が、もう一人増えるのね」


「嬉しいわ」


「昔ね、息子が犬を拾ってきて飼っていたのよ」


「その時の犬小屋、まだあるの。綺麗にしないとね」


みほは少し笑った。


「犬は……チワワなんです」


「あら、それは失礼」


うめさんは笑った。


「チワワちゃんは外では飼えないわね」


二人で笑った。


みほが心から笑ったのは、久しぶりだった。


庭には花が咲いていた。

みほは思った。

自分の心にも、まだ小さな芽が残っているのかもしれない。


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