第7話 モネとおばちゃんと暮らすことになりました。
第二章 これから、おばあちゃんと暮らすことになりました。
仕事を辞めることが決まり、みほは部屋の荷物を少しずつまとめ始めた。
段ボールを広げ、クローゼットを開ける。
服。
本。
食器。
ひとつずつ手に取っては、必要なものだけを箱に入れていく。
ふと、部屋の隅に置かれた花瓶が目に入った。
中には、すっかり枯れてしまった花が残っていた。
みほは花瓶を手に取った。
あの日から、ずっと飾っていた花。
枯れてしまってからも、なかなか捨てることができなかった。
みほは、枯れた花をそっと見つめた。
「……今まで、ありがとう」
小さく呟く。
そして、枯れた花をそっと花瓶から取り出した。
少しだけ寂しかった。
でも、もう十分だった。
みほは花を手放し、空になった花瓶を段ボールにしまった。
そのあと、モネの荷物をまとめ始めた。
ベッド。
お気に入りのおもちゃ。
フード。
「これも持っていかなきゃね」
みほはひとつずつ確認しながら、モネの荷物を箱に詰めていった。
気づけば、自分の荷物よりモネのもののほうが先にまとまっていた。
足元では、モネが不思議そうにみほを見上げている。
「モネも一緒だからね」
そう言うと、モネは小さく尻尾を振った。
荷物をまとめ終えると、部屋は思ったよりがらんとしていた。
みほは、何もなくなった部屋を見渡した。
ここで、何年も暮らしてきた。
楽しかったこともあった。
つらかったこともあった。
でも、今日でここを出る。
「……行こうか」
みほはモネを抱き上げた。
玄関を出て、最後に一度だけ振り返る。
そして、静かにドアを閉めた。
*
うめさんの家に着くと、庭には色とりどりの花が咲いていた。
「おかえりなさい」
玄関先で、うめさんが笑っている。
みほは少し戸惑った。
まだ、ここに住み始めたばかりなのに。
「……ただいま」
そう答えると、うめさんは嬉しそうに笑った。
「モネちゃんも、いらっしゃい」
うめさんがしゃがむと、モネはみほの腕の中から顔を出した。
「まあ、かわいい」
「チワワなんです」
「知ってるわよ。写真、何度も見せてもらったもの」
「……そうでしたね」
みほは少し笑った。
荷物を部屋に運び終える。
自分の荷物より、モネのベッドやおもちゃのほうが目立っている。
「これから、ここで暮らすんだ……」
まだ少し、不思議な感じがした。
そのときだった。
庭の花に、みほの目が止まった。
淡い赤色のスイートピーが、風に揺れている。
みほは、しばらくその花を見つめた。
「かわいい……」
その言葉が、自分の口から出たことに少し驚いた。
久しぶりに、花を見て綺麗だと思えた。
そんな自分に、少し感動した。
真っ黒だった心に、赤いスイートピーの色が、ほんの少しだけ戻った気がした。
庭では、スイートピーが風に揺れていた。
その足元で、モネが小さく尻尾を振った。




