第2話 花の家
第一章 1時間だけ、おばあちゃんと暮らすことになりました。
みほは新調したばかりのヒールにかかとを痛めながら、住宅街を歩いていた。
少し抜けると、どこか懐かしさのある静かな街並みに変わる。
Googleマップはいつも途中で案内をやめてしまう。
(地図、苦手なんだよね)
そう思いながら歩いていると、ふわりと花の香りがした。
顔を上げると、色とりどりの花が並ぶ家がある。
――ここだ。
そう思う前に、心が少しだけ弾んでいた。
インターフォンを押すと、穏やかそうなおばあちゃんが出てきた。
「初めまして。山部から担当が変わりまして、中村みほと申します」
「どうぞ」
そう言って、庭へと通される。
そのとき、ヒールのかかとがわずかに花を踏んだ。
「あっ……すみません」
すぐに謝る。
でもおばあちゃんは、怒らなかった。
ただ、少し笑っただけだった。
「せっかく綺麗に咲いてるのに……」
みほはそう言いながら、庭を見渡す。
「この花、ネモフィラですよね。ブルーが素敵ですね」
「こっちはチューリップですね。色がいろいろあって綺麗なんですよね」
気づけば、花の話ばかりしていた。
「母が、お花が好きだったんです」
その言葉に、おばあちゃんは静かにうなずいた。
「そう」
それだけだった。
でも、その“聞き方”は、今までの誰とも違っていた。
みほは少しだけ、息をついた。




