8 あるある
衝撃を受けたままひと晩過ごし朝が来た。ナータンが起きるなり私に近付くといつものルーティン通り額に手を伸ばし魔力を込めようとすると穴ぐらの外へ繋がる方から男の声が聞こえた。
「おい! ジジイいるか!」
ウフルじゃない男の低い声が段々と近付いてくるとナータンは慌てて私を壁のへこみへ押し込んだ。そこは狭く浅い横穴で、採掘している時にお試しで掘り進んだが鉱物がさほど出ずに断念した幾つかの一つで、私が一人で入って隠れるには十分な広さだ。
「誰だ! 勝手に入って来るな」
ナータンは私を押し込んだ後声のする方へ歩いて行ったようだが、不法侵入者は直ぐそこまで来ていたのか二人の話し声はまる聞こえだ。
「おいおいジジイ、最近ウルフとツルんでるって聞いたぜ。なにか企んでんだろ? オレにも噛ませろよ」
おっと、ガラの悪い輩って何処にでもいる感じ? ナータンは絡まれてるみたいだけど大丈夫なのかな?
「五月蝿い、別にツルんでるなどないわ。ウチの婆さんが具合いが悪いから薬を融通してもらうだけだ」
おぉ、ナータンにしては珍しくまともな返しだ。きっと前もって用意しておいた答えなんだね。
「薬?! なるほどなぁ、確かに薬なら高くつく。ジジイが必死に働くのも無理ないか」
「わかったらとっとと出て行け!」
縄張りを荒らす不法侵入者を追い払う為にナータンは声を荒げるが所詮はか弱い爺さまなのか男は出て行く様子が無いようだ。
「そんなにムキになるなよ、今日はそれだけの用で来たんじゃねぇ。お前が魔術師だって聞いたんだが本当か? ハッ、どうせ嘘だろ?」
小馬鹿にする様に男は鼻で笑いながらいう。
「何を言う! ワシは偉大なる魔術師ナータン様だぞ」
あぁ、なんだかアカン方へ向かっている予感がする。ライトなオタク的にはプンプン匂ってますよ。
男は「へぇそうか」と言った後ナータンに話を続けた。
「だったらよ、その偉大なる魔術で一つ仕事を請け負って欲しいんだがどうだ? 報酬も勿論払うぜ、金でな」
「金で?」
だから、駄目だって。金が必要な時に金をチラつかせる怪し気な話を持ち掛けられるなんて甲子園の応援旗並みのフラグだって、とは思うが私がここから出てナータンを直接止める事は出来ない。出て行けばこんな輩は間違いなく速攻で私を有効利用するべくお持ち帰りされるに決まっているからだ。前世でもお持ち帰りなんてされなかったのに今世でそれを実行される訳にはいかない。
「幾らだ?」
ナータン! 先に金じゃなくて仕事の内容を聞かなきゃでしょ!
「十万だ」
「十万? ファビオに見つかればヤバい話か」
「本来ここじゃ使えないはずの魔術を使うってなればヤバいに決まってるだろ」
なるほど、金額でヤバさを測ってたのか。やるじゃんナータン。それでファビオって誰?
「管理官ファビオの部屋の鍵の複製を作って欲しい」
「鍵の複製? 管理小屋は魔術ロックで護られてる。しかもあれは上級魔術で作られ三重構造のトップクラスだ。いくらワシが偉大な魔術師でも道具も助手も無ければ無理な話だ」
ナータンは思っていたよりあっさりと断った。それほど難しい依頼だったのかな。
「いやいや、話を聞いたからには断れるわけねぇだろ」
「ここは元々獄中だ。お互い脛に傷持つ身だ、どんな悪事も誰にも話すわけ無いだろ」
ナータンは言い捨てると外へ向かって歩き出したようだ。どうにかして不法侵入者を私から離す為に誘導し外へ出そうとしているんだろう。
「そうはいかないのがこのドム様の手際の良い所だ。ズージは預かってる」
「なんだと!?」
うわぁ~、悪党定番の人質作戦! やっぱりここにいる奴はみんな罪人なんだ。それよりいつの間にかズージが攫われてたなんて。きっと朝食を取りに行った時だな。
「後は言わなくてもわかるな? 三日だけ待ってやる」
「むむっ、待て! 三日は無理だぞ、それに道具が無い。道具を買う金もない!」
「そこはホレ、ウフルに上手いこと言って頼めば良いだろ。婆さんの為に追加で必要だとか。金ためてたんだからイケるだろ?」
話の流れでそのクソ男の名前がドムということは分かったけれど、どうにも不味い状況になっている。
私はドムの足音が完全に遠ざかった事を確認して横穴から出るとナータンの様子を窺った。きっとこれからどうするか頭をフル回転させて計画を立てているのだろう。私も何か手伝えれば良いんだけど。
「ど、ど、どうすれば良いんだ……どうすれば……」
あぁあぁ、これは見事な右往左往だよ。ナータンは狭い穴ぐらの中を行ったり来たりして文字通り頭を抱えている。声をかけようにも私は「イヤ」しか言えないしナータンの動きを追えるほど機敏に動く事も出来ない。つまり私には何も出来ないようだ。暫くすれば落ち着くかなと願い見守るとするか。
それにしてもかれこれ十分程経ったかな。ナータンはまだ動揺が治まらないが今はガックリ膝をついて壁に頭を付け唸ってる。
本当に頼りないなぁ。
私は仕方無くナータンの側まで行くと肩に手を置いた。
兎に角落ち着け。
「触るな! そもそもお前が指を増やせというからこんな事になったんだぞ!」
それは八つ当たりじゃん。そんな事より時間無いんだからさっさとウルフのとこに行きなよ。
私の心の声はナータンには届かないが両脇を抱え立ち上がらせるとグイグイ押して穴ぐらの外へ向かう様に仕向ける。
「止めろコノヤロ! ワシを押すな! ゴーレムのクセに主人に逆らいやがって!」
はいはい、逆らってませんよ。貴方の為だからってやつだよ。
鼻水と文句を撒き散らしながら弱目の抵抗を見せるナータンだけどここに居てもどうにもならないからどう考えても行くしかないでしょう。ズージの他に秘密を話せる人間はウルフだけだからねと、助けてくれるか分からないけれど兎に角穴ぐらから出した。やれやれ。
ナータンが戻るまで何もする事がない私は空いた時間で自分の事を考えていた。ただの会社員だった自分がどんな経緯でゴーレムになってしまったのかはわからないが、一応ご主人様であるナータンの危機は私の危機でもある。奴がしくじれば最悪あのドムとかいうクソ男に良いように使われるに違いない。そうなればこの鉱山から一生出る事が出来なくなるだろう。JSアタックとか出来ないよ、私。
私は魔力を補充しなければ動く事が出来ないようだから何処へ行くにも魔術師のパートナーは絶対に不可欠のようだけど詳しい事情はわからない。話す事が出来ないので知りたい事を聞けないもどかしさがあるが、ウルフが私を探る為にやり取りしていた事で少しはこの世界の、いや、この鉱山事はわかり始めていた。
ウルフはどうやら管理者ファビオの下についている人間らしく、時々罪人に便宜を図って懐を潤しているらしいがどうにもそんなセコい男には見えない。
まぁ見てくれがオオカミなんだから表情は良く分からないが、私に物を尋ねる立ち居振る舞いが何処か罪人達と違いキビキビしていて、まるで訓練された者のようだ。オオカミ男だけど。
そこまで思ってふと気がつく。私って訓練されてるとかなんでわかったのだろう。わかるという事は知っているという事。いや知らんで。ただ中小企業に勤めていただけですよ。でも知っている。
どうも私には身に覚えのない記憶があるようだ。
読んで頂いてありがとうございます。
次話も読んでみようかなと思ってしまった方はブクマ、イイね、評価を宜しくお願い致します。
かなりヤル気に繋がります。創作中の心の安寧でもあります。




