7 気に入られた?
ウルフという名のオオカミ男と出会ってから数日が過ぎた。私の指を五本にするという計画が切っ掛けで始まったウルフとの関係だが、何故か彼は三日と空けずにこの穴ぐらへやって来る。
「じゃあお前はこのアルケナ連邦国の事を知らない、で合ってるな?」
合ってるよ。 っていうか、ここはアルケナ連邦国っていうんだ、へぇ~。
「自分が作られたゴーレムに入っているとわかっている?」
わかってる。ナータンとズージも言ってたしね。
「ではここが労役の為の鉱山だとわかっているのか?」
それもわかってる。ナータンが捕まって楽する為に私を作ったんだよね。
私は壁に三本指の拳を叩きつけながらウルフの質問に頷いて答えていた。ウルフはここへ来ては私に色々な質問を投げかけ私の記憶を探っていく。最初はちょっと面倒だなと思っていたけれどある日その経緯で私も自分の変化に気づいた。
ウルフが聞き出そうとしている話しを中心に少しずつ頭の中がハッキリとし、日に日にその範囲が広がりまるで靄が晴れ自分が何者なのかを思い出す作業のようだった。
私って前世は会社員でかなり普通の一般人だった。どういう経緯で人生の最期を向かえたのかは覚えてない。ライトなオタクとしてはチートを振るいたいとか妄想してしまうが今世ゴーレムな人生ではそれは難しそうだ。せめて人として生まれ変わりたかった。お姫様とか貴族とか贅沢は言わないから『人』が良かったなぁ。まぁ、お姫様だったら定番の政略結婚とか断罪とかありそうだからそれだったらゴーレムの方がマシかもしれないけど。ん……政略結婚? 断罪……はて?
質問に答えながら時々何か気になる事があるなと考えているとウルフがふむと考えボソリと言う。
「話す度に知性の向上がみられるな」
えぇー、私って賢くなってるとか言われてるの? やだわ、ちょっと嬉しい。ただ前世を思い出してきただけなんだけど、でも確かにゴーレムになったばかりの時はとりあえずナータンに言われるままに壁殴ってればいいやとぼんやりしてた。
人間みたいに疲れないしお腹空かないし眠くもなかったからただ言われるままに働いてたのよね。指が五本あればなぁと考え出した頃から少しずつ効率とか時間経過とかが意識に入って来て、ま、夜は眠くなくても音を立てちゃいけないからじっとしてるだけなんだけど、朝日が昇ればナータンが私の額に手を添えて魔力を込めてまた働き始めるルーティンだった。
ナータンの言う事を聞いてれば良かった気持ちは今では消えて無くなり、ゴーレムとしての意識が薄まっている気さえする。なにせ前世に人として生きてた記憶持ち。今まではナータンとズージが労役を終わるまでここに居る事が当たり前だったけれどそこに疑問が浮かんでいる。この先どうするかを考えなくちゃ。
「じゃあギルニヤ国を知ってるか?」
知らない。今度は地理ですか。
「マディソン王国は?」
知らない。っていうかこれっていつまでやるんだろ? もう直ぐ日が暮れるよ。
「じゃあエデル国は?」
知ってる知らないと首を縦や横に振っていた私だったけれど、ふと最後の質問のエデル国という言葉になんだか引っかかった。
「うん? どうした?」
ウルフも私がこれまできっぱり答えていたのにピタリと動きを止めたことに気づいた。エデル国……エデル国……
「聞き覚えがあるのか? お前のいた国か?」
う〜ん、どうだろ。なんか気にはなるけど、やっぱわからないや。
私は首を横に振った。
「いい加減真剣に仕事をさせろよ。早く金を貯めたいのにお前が邪魔するな」
ナータンがまるで私が仕事をサボっているかのように言っているが手は止めてないからこれはウルフに難癖つけたいだけだ。最初ウフルはナータンと同じ鉱山送りにされた罪人なのかと思っていたが私に質問しているついでにナータンやズージと会話している所を盗み聞きしているとどうやら違う事が判明した。
ウルフは鉱山側の人間らしい。詳しくはまだわからないけれど鉱山があるこの土地はとある貴族の持ち物で、周辺にある鉱物を掘り出す大穴は幾つかあり何人かでそれぞれ受け持つ担当官がいてウフルはその担当官の下に付いているようだ。
ナータンは時間を理由にウフルを追っ払っうといつの間にかズージが持ってきた食事をとり始める。彼等が食事をとり始めると私も手を止め今日の仕事は終わりとなる。老夫婦が長時間働くなんて怪しまれるからだ。
「おいゴーレムナンバー5、あまりあのウフルと関わるな」
食事と言っても固そうなパンとカップに入ったスープという質素な物で、直ぐに食べ終わるとナータンが私にまた言ってきた。これはウフルが数日おきにやって来るようになってから毎回言われている言葉だ。
そうは言っても私は現場で仕事をしているので近づいて来るウフルを避けれるわけではないことはわかっているだろう。作業している横に張り付き質問してくるのをまるっきり無視する事は出来ない。質問に答えている経緯で自分の記憶もハッキリして来ていると自覚しだしてからは尚更関わることは止めるべきじゃないだろうと思う。
「今は協力関係になっているんだから無視は無理でしょ」
ズージが小さくため息をつきながら言う。
「だがアイツは呪われ者だぞ。関わると面倒事が起きる」
「素材を頼んでいる時点で関わりは切れないんだから気分良く動いてもらって早く目的を達成した方がいいよ」
ズージの言葉にナータンがムムムと唸る。っていうかちょっと待って! 今、呪いって言わなかった?! なにそれ怖い。
「だが仲間と思われれば呪いに巻き込まれるかも知れんのだぞ」
「えぇ、呪いって伝染るの? そんなの聞いたこと無いけど」
仕事終わりでやれやれと気を抜いていた所に『呪い』なんて言うパワーワードは私にぶっ刺さりもう二人から目が離せない。この穴ぐら生活って娯楽が無いのよね。
「呪いは大きく括れば魔術区分には入っているが別枠だ。そこらの魔術師じゃあ扱えん秘術のようなもんだ。呪術師と呼ばれる一族が細々と伝承していると言われていて未だに謎が多い。病のように伝染るのではないが、巻き込まれる可能性はあるかも知れん。なにせ謎が多いからの」
呪術師とかなんか凄いこと言ってる。私は前世でオカルトとかスピリチュアルな事とかも大好きだったのよ! もっと聞かせて!!
「なにそれ呪いの一族とかあるの?」
「呪いの一族ではなく呪術師だ。まぁその一族自体がどこにいるかも誰も知らんらしいからほぼ伝説のようなものだ」
出た! 伝説!! 都市伝説も大好き!!
「じゃあウルフはその伝説級の呪術師に呪われたって事?」
「さぁな、多分誰かが呪術師に依頼したんだろ」
「何処にいるのか誰も知らないって言ってたじゃない。どうやって依頼するのよ」
「そんなのワシが知るわけ無いだろ。だけど時々あんな姿の呪われた人間ってのが現れるからそう言われている」
ナータンの話はあやふやな所ばかりでよくわからない。都市伝説ならもう少し恐怖感を煽ってくれなきゃワクワクが少ないぞ。
「そうね、あんな獣の姿なんて呪われてるとしか思えないものねぇ」
話に捻りが足りないと思っていたがズージの言葉に衝撃を受けた。
えぇー! この世界って獣人はいないって事!? そりゃエグい呪いだわ!
読んで頂いてありがとうございます。
次話も読んでみようかなと思ってしまった方はブクマ、イイね、評価を宜しくお願い致します。
かなりヤル気に繋がります。創作中の心の安寧でもあります。




