6 思わず同意
掴まれた手は微動だにせず、少し引っ張り上げられた形になっていたので身動きできない状態になってしまっていたがオオカミ男の発言に完全に同意する。
その思いが溢れてしまいコクコクと頷いているとオオカミ男は私が手を振り払おうと藻掻いている様に感じたのか「あぁすまん」と言って手を離してくれた。
何となくそこまで悪い奴じゃないのかなと思い始めていると穴ぐらにナータンとズージの話し声が響いて来た。
「食事が済んだらもう一度交渉に行ってみる」
「そうねぇ、最悪はあのゴーレムを見せて……あら」
くねくねと曲がりくねった穴ぐらは入口から奥までは見通せず、さっきオオカミ男が立っていた場所に今度はナータンとズージがいてコチラを見て動きを止めた。
「よう」
オオカミ男は訳知り顔でニヤリとナータン達を見て声をかけたように思えるが表情は良く分からない。実際はオオカミ男の口の端が少し捲れ牙が見えたので怒っているのかと思ったがその口調から笑ったのかなと推測したのだ。
「なんでお前がここに……」
ナータンは気まずげにオオカミ男を見て近づいて来た。ズージも警戒しながら後ろを歩いていたが近くまで来るとさり気ない感じで私の方へ回り込みオオカミ男から引き離す為に私の腕を引いた。
「こいつはレアゴーレムか?」
「なんの事だ? どう見てもただのゴーレムだろ」
「ただのゴーレムは「イヤ」と言わないし歌わない」
「「歌うのか?!」」
私の歌の事は初耳だった二人がかなりビックリしている事にオオカミ男もビックリしていた。知らなかったのかと尋ねるオオカミ男にナータンは頷いてズージは嬉しそうに私に歌ってと言ってきた。
仕方ないなぁと私はテレながらも悪い気はせず、さっきオオカミ男のせいで中断してしまった『世界は我のもの』のサビの部分を熱唱し始めた。勿論「イヤ」だけで。
「♪イヤイーヤイヤイヤイヤ、イヤイヤイヤイヤヤ、イヤイヤイヤヤ〜」
「えぇー、なんか上手くない?」
ズージが感心しながら手拍子をしてくれる。大変気分が良い。
「確かに上手いって……止め止め。もういい!」
二番に突入しようとしてナータンに止められた。ガッカリだよ。
何故か私だけ働かせている横で三人は話しを始めた。少しでも収入を多く得る為には仕方がないし別に疲れは感じないので腕を動かしつつ私も話しを聞いていた。
「ゴーレムを作っていたとは……まぁそれは良いとして、コレの改造の為に追加で魔石が必要だったってことか?」
「そうだ、魔石以外にも鉄と銅、金も少しいるし……」
「細かい話はいい。そうか、ゴーレムの素材はこの鉱山で揃うんだな」
この鉱山は採掘できる鉱物の種類が豊富でその手の素材には困らないらしく、魔法陣を書くために必要な薬草類も何とか調達出来るらしい。が、勿論そこには対価が必要である。
「ワシほどの魔術師であればこんなフザケた場所でもゴーレム如きは簡単に作れる」
「ただ単にお前程度の魔術師なら大したことは出来ないだろうと魔封じを掛けられなかっただけだろ」
胸を張るナータンのプライドをサクッと突き崩すオオカミ男って怖い。やっぱり思考も獣じみているのかな。本来凶暴な罪人が送られる場所なんだから魔術が使える人には魔封じを掛けられているはずだったが小物過ぎるナータンはそれを免れていたらしい。
オオカミ男の言葉にナータンは思ったより傷ついている感じで固まっている。本当に自分を過大評価しているんだ。ゴーレムのこのポンコツな出来ばえを自覚していなかったんだね。
「さて、ここから本題だ。お前はコレと同じゴーレムをまた作れるか? 勿論ブラッシュアップは指示させてもらう」
オオカミ男の言葉に我に返った傷つき俯いていたナータンが顔をあげる。
「同じ物など出来るわけがないだろう。このゴーレムナンバー5は偶然の産物だ。五度目にしてやっと完成したのだという事がわからぬ愚か者め。レアゴーレムを早々簡単に……これだから素人は……」
そこからナータンはクドクドとズージにしたのと同じ説明をもっとしつこくオオカミ男に話し始めた。オオカミ男はその説明を全く聞いている素振りも無く勤労ゴーレムである私を見ている。
「自立型ゴーレムは元人間の魂を使っていると言ったか」
ボソッと口にするとこちらへやって来た。結構ナータンの話しを聞いてたんだなぁと思っていると私の直ぐ側まで来て足を止める。
「俺の話は理解できるな」
疑問というより確信している尋ね方にカクっと頷いて答える。
「そうか、お前人間だった時の、ゴーレムになる前の記憶はあるのか?」
歌って、踊れ……はしないけれど、「イヤ」だけは言えるゴーレムだから他のゴーレムと違い記憶があるのかと尋ねられれば……まぁそうなんだけど、それが一体いつの記憶なのかは定かではない。今回が初めての転生? なら記憶は残っていると言えるが、もし万が一何度目かの転生なら何かが失われているということだろう。
私はう〜んという感じでコキッと小首を傾げた。
「それは何に対しての答えだ? 話が理解できないのか?」
首をグリグリぶんぶん横に振る。なにせ「イヤ」以外は話せない。
「話は理解出来てそうだな。ではゴーレムになる前の記憶があるかどうかお前自身には曖昧だという事か?」
オオカミ男は大変理解力が宜しいようで私は嬉しくなってこっくり頷いた。ナータンとは大違いだ。
「ではお前は自分の意思があって記憶の中にあった歌を歌ったということか?」
うんうん、そうです。
「なるほど大変興味深いなぁ、他の記憶もあるのか?」
うん、あるよ。
「うぅむ、どうにかしてそれを聞き出したいものだな」
オオカミ男の質問は「はい」か「いいえ」、つまり頷くか首を振ることで答えられるようなものばかりだ。だから記憶の詳細なんかは伝える事が出来ないもどかしさがある。それでも意思の疎通が出来ることが私には嬉しかった。
「なんだと!? ゴーレムになる前の記憶があるのか?」
私とオオカミ男の会話を聞いたナータンが急に割り込んできたが、話しをよく理解できていないらしく最初にオオカミ男がしたのと同じような質問をしてくる。
も〜面倒いなぁ。
私は再び小首を傾げて曖昧な返事をした。あ、オオカミ男がナータンを馬鹿だなという目つきで見てる。
オオカミ男がさっきの私の答えをナータンに告げてそこから二人で少し言い合いをしてそれが収まるまで暇な私は再び壁を掘り続けた。ナータンと混み合った話をするのは精神的に疲れる。体は疲れないけどね。
ナータンの相手をオオカミ男に全振りしている間に私はそこそこ鉱物を掘り出していた。私の足元に増え続ける鉱物を何故かズージが一輪車に載せていってくれる。ズージやっぱり働けるんだ。
ズージはそうやって鉱物を運んでいる間もオオカミ男とナータンとの会話に耳を傾けていて時々私にも視線を向けて来ていた。
「わかった、では素材は俺が集めておいてやる。お前はその間全力で金を稼いでおけ」
「ぬっ、言われずとも金はなんとかするがゴーレムナンバー5はやらぬぞ」
「フッ……」
ナータンの言葉にオオカミ男は不敵な笑顔っぽい感じを出しながら何も言わずに穴ぐらから去っていった。獣人の表情っていまいち良く分からないが口の端が捲れ上がり牙が少し見えていたから多分そうだろう。
オオカミ男が穴ぐらを去って直ぐにズージがナータンの側へ行く。
「ねぇ、ウルフと組むの?」
「不本意だが結果的にそうなったな。だがこれで素材は手に入ったも同然だ」
どうやらあのオオカミ男はウルフという名前らしい。なんだか安直な名前でちょっと笑える。
読んで頂いてありがとうございます。
次話も読んでみようかなと思ってしまった方はブクマ、イイね、評価を宜しくお願い致します。
かなりヤル気に繋がります。創作中の心の安寧でもあります。




