5 あらビックリ
「「え?」」
私を分解しようと近づいて来ていた二人が同時に驚きの声をあげた。
「今なんか聞こえなかった?」
「聞こえた気がするな」
顔を見合わせている二人は私に迫っていた足を止めたのを見て少し切迫感が緩み安心して力を抜いた。
「いや、気のせいか」
「そうね」
二人の言葉に再び焦ると私はまた必死に叫ぶ。
「イヤ!」
首をぶんぶん横に振り拒否を示す為に両手を突き出す。
「やっぱり話した!!」
「嘘だろ……まさか……」
え? っと今度は私が驚いた。
「待って信じらんない! ゴーレムが話すなんて、アンタ天才なの?」
ズージが大はしゃぎで私の方を見て三本指の手を握る。
「いや天才なのはワシだろ!」
そう言いながらナータンも私のもう片方の手を握る。二人してまるで私を褒め称えるようなキラキラした目で見つめてくる。私は理由もわからず、でも分解は回避されたであろう事が何となくわかり心の中でホッとした。
心のなか……? そう言えばナータンはゴーレムに入れられた魂には記憶が無いって言ってたけど私には前世があった記憶がある。自分の意思も示せる様になってきている。あれぇ?
はしゃぐ二人に可動域の狭い腕をカクカクと揺らされながら頭の中は疑問で一杯だった。
「ちょっとアンタ。コレってレアゴーレムよね、新発明じゃない?」
「勿論だ!」
「じゃあコレを大量生産して大金持ちになれるじゃないの! もっとレアゴーレムを作りましょう!」
「えっ?!」
「え?」
今度はさっきとは少しニュアンスの違う二人の声。お互いに首を傾げて見つめ合っている。
「大量生産とか無理だぞ。どうしてこうなったかわからんからの」
「なんで自分が作った物の作り方がわからないのよ」
「偶然の産物だからに決まっているだろ」
「馬鹿じゃない!」
ズージは叫びと共に掴んでいた私の手をぶん投げるように離した。
「なんだと! そもそもお前は何もしてないくせに!」
「馬鹿だ馬鹿だと思っていたけど本当にアンタって!」
まぁこの先はいつも通りの展開だ。喧嘩を始めた二人を余所に私は暇なので壁を掘り始めた。どう転んでも鉱物を集めておいて損は無いはずだ。この二人はいつも喧嘩をするけれど一定の時間が過ぎれば叫び疲れてナータンは仕事を始めズージは食事を取りに行くのだから。
今回もいつも通りの流れになるかと思っていたのだが、何故か叫び疲れた二人は黙ったと思ったら一緒に穴ぐらを出て行った。一緒に出て行った事にも驚いたが私が一輪車に一個ずつ積んでいた鉱物を二人で押しながら出て行った事にもかなり驚いた。
ズージ働けるんだ。
思わず手を止めてその光景を見送った後、私はまた壁を掘り進めた。三本指だけど壁を掘る分には不自由は無い。取れた鉱物を拾い集めるのには関節の可動域の狭い体ではコツがいるが時間をかければ出来ない事も無いので誰もいない穴ぐらの中で黙々と作業を続けていた。
ゴンゴンと穴ぐらに響く一定のリズム。気分は前世で見たであろう武術の突きをしている感じで心の中で「セイッ! セイッ!」と達人気分を味わっている。ある程度足元に鉱物がたまると後ろへ雑にコロコロ除けてまた突きを続ける。
単純作業は元々嫌いではなく今はゴーレムである疲れを知らない体。基本的に声は出せないけれど何故か勢いで声になった「イヤ」という言葉は出せるようだと気づくと前世で好きだった歌『世界は我のものさ』を「イヤ」だけで熱唱しながら気分良く浮かれていた。浮かれ過ぎていたのかも知れない。いや浮かれ過ぎていたのだろう。
「♪イヤ、イヤイヤイヤ、イヤイヤ……」
「ゴーレムが……歌っているのか……」
聞き覚えの無い低い声が聞こえ驚いて突きと歌を止めた。無いはずの心臓がギュッと引き絞られる感覚がする。関節の可動域が狭いせいで首だけで振り返るなど出来るはずもなく、ギギギッとぎこちなく体全体で振り返る。
「!! イヤ!!」
基本的に言葉は話せないので「イヤ」以外の悲鳴を上げることは出来ない。そんな私の目に映る声の主は顔全体がふさふさの毛むくじゃらで鼻と口が人のそれより突き出している。どう見ても獣の顔でなんなら全身オオカミの様な姿。身成は人間のように服を着て靴を履いているが少し前かがみでガタイは良さそう。
こちらを見ている目には驚きと困惑が浮かんでいるように見え感情を持っているらしい事がわかる。オマケに二足歩行らしく人間のように佇みじっとこちらを見ている。この世界は獣人とかいる感じなのだろうか?
私というゴーレムの存在は他の人間には秘密だったはず。この鉱山の穴ぐらは基本的に個人で管理するという慣習があったはずで、まさか見知らぬ誰かが入って来るなんて予想外に他ならず無いはずの心臓がバクバクとして息苦しさを覚える。
あ、あの、違うんです。私は一見ゴーレムに見えるでしょうけど本当は人間なんです。
なんて出来もしない通じるわけも無い言い訳が頭の中を過るが、ともかく身振りだけでもまぁまぁと言う感じで驚いている侵入者を宥めようとしてふと気がつく。
そうだ、こいつ不法な侵入者ではないか。私がへりくだる必要は無くない?
そう思い気持ちが丸めていた背をすっくと伸ばした。実際には丸まっていなかっただろうけど。
ちょっとあなた、不法侵入よ。
繰り返すが言葉は基本話せない。右手の三本指のうちの一本を立てて侵入者を指さす。
「何だコイツ? 歌っていた上に何か言おうとしてるのか」
ほぼオオカミ男は三メートル程離れた場所から私を見ているがこちらへ近付いてくる気は無いように見える(希望的観測)。
いいから、出て行きなさいよ。
私が何か伝えようとしていると分かっているようだったので今度は腕を前後に揺らし出て行けと示してみた。ズージ並みの理解力があれば通じるはずだ。
「なんだ、生意気に俺を追い出そうとしてるのか?」
おぉ、コイツ出来るオオカミ男じゃないか。
私は話が通じて気を良くするとウンウンと頷きもう一度腕を前後に揺らした。これで出て行ってくれれば不法侵入の事は不問にしてやろうと思っているとオオカミながらフッと人を、いや、ゴーレムを小馬鹿にしたように笑った気がした。
「俺をこのまま追い出していいのか? 歌うゴーレムなんてレアな物をあのナータンが隠し持ってたと言いふらすかもしれないぞ」
「イヤーッ!!」
私が驚いて叫ぶとオオカミ男はニヤッとしながらゆっくりと足を進めて近づいて来た。
ヤバいヤバい、私襲われちゃうの?! 貞操の危機……あ、違った。私ゴーレムだった。
思わず身の危険を感じ可動域の狭い腕で自分を守るように体を抱きしめようとして届かない事に冷静になって現状に気がついた。オオカミとはいえ男がニヤついて近づけば前世の習慣でちょっとビビってしまった。なにせか弱い乙女だったからね。
私の前世などお構いなくオオカミ男はそのまま側まで来ると直前で足を止め、首を傾げつつ私の観察を始めた。
「どう見ても普通のゴーレムにしか見えんな。いや普通のより手抜きか? おい、腕を上げてみろ」
何故か急に命令してきて思わず右手を上げてしまった。肩は水平までも上がらず三本指も私の視線辺りで止まった。
「それで目一杯か? 欠陥品だな」
なんだと!
馬鹿にされてムッとした私はそのまま腕を無礼なオオカミ男に突き出して肩を押してやろうと足を踏み出した。が、サクッとなんでも無い風に三本指を掴まれそのままじっと観察を続けられた。
「関節一つって何だこの指、しかも三本って、手を抜き過ぎだろ」
それな。
読んで頂いてありがとうございます。
次話も読んでみようかなと思ってしまった方はブクマ、イイね、評価を宜しくお願い致します。
かなりヤル気に繋がります。創作中の心の安寧でもあります。




