4 進化したい
私は今日も不便な三本指で壁を掘り進めていた。関節の可動域の狭い腕を必死に勢いをつけて叩きつけると、ナータンが僅かに砕けた鉱物を選り分け一輪車に載せヨロヨロ押していく。
だけど本当に不便でもどかしいので私は日々何とか身振り手振りで指を増やせと伝えているがこれまたナータンは勘が悪く通じない。
その日も私が必死にナータンに、右手で左手先を叩いて示し、その後ナータン自身の手を示して同じにしてくれと伝えていた。
「何を遊んでいるんじゃゴーレムナンバー5。早く掘れ!」
全く通じない! キーッ!
いい加減私もイライラして足を踏み鳴らしていたら急にズージが口を挟んできた。
「そいつ何か言いたいんじゃない?」
「はぁ? ゴーレムがか? 馬鹿馬鹿しい。そんなわけあるか、ゴーレムは自分の意思を持たないもんなんじゃ。これだから素人は……」
そこからナータンはクドクドとズージにゴーレムの詳細を話し始めた。
ゴーレムというのはそもそも昔は魔術で作り出した土塊人形を魔術を使って操って動かすのが一般的な使い方だったらしい。
だけど研究が進み今では複雑な魔法陣が必要だが、大気に浮遊している死んだ人間の魂ではないかと言われているモノを定着させて、ゴーレムに魔石を装備してそこへ魔力を注入することにより自立して離れた場所でも命令した行動が出来るようになったという。まぁ前世でいう充電式になったってことだな。
「死んだ人間の魂はなかなか捕まらんがゴーレムに定着した時点で生きていた時の記憶は失われとるし知能も低い。じゃからゴーレムは命じられた単純作業を実行する事はできても自ら何かを考えることは無いんじゃ」
「でもそいつ命じられていない行動を取ってるじゃない」
ズージの言葉にナータンが私を改めてじっと見る。私はこの機会を逃すまいと先程の動きを繰り返した。
この手をこんな風にしてよ!
心の叫びはナータンではなくズージに届いた。
「そいつ、手を人間みたいにしろって言ってんじゃない? 私もずっと三本指じゃ不便だろうなって思ってたんだよね」
「なっ!? 思っていたなら早く教えんか!」
「うっさいわね。ゴーレムの改造は魔力が沢山必要だから面倒なんだってアンタが言ってたからじゃない」
私の気持ちを代弁してくれたズージはまさに面倒くさそうに顔をしかめる。ナータンはそれ以上何も言えなくなっていたがおもむろに私の右手を掴むと指をじっと見る。クレーンゲームのように腕の先端は半球型で、そこに等間隔で指が三本ついていて、一本につき関節は一箇所だけなので物を掴む動きもやたらとやりにくい。
「うぅむ、この三本指の間に後二本差し込めばいいか……」
良い訳あるか!
「馬鹿だねさっきの話し聞いてないの? 人の手みたいにしろって言ってんの」
ズージとは本当に以心伝心ね、もっと言ってやってよ!
「なに?! それだとかなり改造が必要だからそこそこ魔力が必要だし、手に入りにくい素材も集めなければいかんぞ」
ナータンの顔は魔力の必要量もさることながら素材集めがかなり大変そうな事がわかる苦悩に満ちていた。ズージはやっと話が通じたかとこれ以上は関わる気はないらしく何も言わないままこの場を立ち去っていく。
私は唸りながらメモを取り出し何か書いているナータンを後ろから覗き込んだ。そこには見たこともない文字がズラリと並んでいる。恐らく必要な素材を書き出しているだろう事はわかる。
転生チートで文字は読めるとかよくある話だった気がするけど今回は違うようだ。今日はこのままナータンがメモを書き続けているので作業は中断した。日が沈みかけた頃ズージがナータンの分の食事も持ってくると没頭して何やらブツブツ言っている彼の頭をガシッと掴んで無理矢理正気に戻させ食事をさせた。
なんだかんだ言ってもズージはナータンが無茶し過ぎ無いように管理している。まぁナータンが病気になれば自分も働かなければいけなくなるせいかも知れないけれど。
次の日からナータンは午前中は素材集めの為に何処かへ出かけていた。私は穴ぐらの外へは行けないのでズージが見守る中せっせと働いている。午後には帰ってきたナータンが私が午前中に掘っていた鉱物を一輪車に載せて運んで行くという日々を過ごしていた。
そんなある日、ナータンは頭を掻きむしって唸っている。
「くぅ~どうしてもやらばければ駄目か」
同じ言葉ばかり繰り返すナータンに流石にズージが苛ついてとうとう喧嘩が始まる。まぁいつもの事である。
「五月蝿いね! 何を唸ってんのさ!」
「お前こそ五月蝿いぞ! だいたいお前が余計な事を言い出すからワシがこんな苦労を」
「愚痴はいいいから何が問題か言えっつてんだ!」
「魔石だよ、魔石! 改造にはより高価な魔石がいるんだ!」
ナータンの言葉にズージが呆れて笑う。
「何だいそんなもん、コイツを作った時だって上手く調達してきたじゃないか。同じ手を使えば済む話だろ」
「お前は馬鹿だな、そんな事とっくにやっとる。問題は金だよ!」
ナータンの答えを聞いてズージはあぁと鼻じらむ。
「前は小さい魔石だったからねぇ、鉱物一ヶ月分だっけ?」
「あぁ、今度は金で払えと言われた」
「金ねぇ。いくらだい?」
「他の素材も含めて十二万ゴルだ」
はぁ~とため息をついて額を手で押えるズージを見ていたが、私にはこの世界のお金の価値はわからない。なので自然と前世でのサラリーマン感覚で十二万円と考えると結構奮発した金額だと思った。ナータンとズージは労役中なので生活費の他罰金を支払っている身としてはかなり厳しい金額だろう。
「なんで作るより改造の方が高くつくのよ」
「改造と言ってもただくっつけるだけじゃなく今回のは腕の機構から変えねばならん。オマケに既存の体を残してそこへ新たな部品を繋がるように設計するから魔法陣も複雑化する」
はぁ~と今度は二人でため息をつく。
「改造って思ってたより手間がかかるんだね」
「だから単純化したかったんだがな。人間と同じ手か……何故最初に思いつかんかったかが悔やまれるの。ゴーレムとは基本的に戦闘要員だからな、器用さは考えておらんかったわ」
「最初からねぇ……」
……待って待って、何やら不穏な雰囲気じゃない?
二人の視線を感じて私は後退る。
「最初からのぅ……」
嫌嫌するように首を横に振る私を冷たい視線のままナータンが何やら呟き手に魔力を込めているのがわかる。毎日額に魔力を込めてもらっているのだからそれは慣れた気配だ。
「じっとしていろ、なに直ぐに済む。お前の魂が側にいればまた再びお前をゴーレムへ定着させてやるからの。ゴーレムナンバー6として」
それはもう私じゃない! 某有名ブランドの香水のような響が気に入ってたのよ、このままで良いの!
「落ち着きなよ、アンタが欲しがってた人間の手にしてやるんだからさ」
何故かズージまで怪し気な笑顔で近付いてくる。
どうしてこんな事になった? 私が人間の手が欲しいと欲張ったから? でもそれは作業効率を上げるためで結果的に貴方達の為になる事なのよ!
「さぁ動くなよ。別に痛くないぞ」
痛みを感じないゴーレムだけどそのセリフはただ恐怖感が増すだけだよ! っていうかこのまま分解されるなんて……
「イヤ!!」
私は必死に首を横に振りつつ腕を突き出して分解を拒否した。
読んで頂いてありがとうございます。
次話も読んでみようかなと思ってしまった方はブクマ、イイね、評価を宜しくお願い致します。
かなりヤル気に繋がります。創作中の心の安寧でもあります。




