3 とりあえず
土塊の体になってから数日が過ぎた頃やっと色々な事がわかりだした。
現状、私はゴーレムとなりナータンに仕える身らしい。ナータンは見た目かなり老けているがまだ六十代位で魔術師、絶賛強制労働中。ケチな小悪党だったが間抜けで仲間内で売られて罪をなすりつけられ鉱山へ追放労役を課せられたらしい。
ここでは罪に応じて決められた金額、所謂罰金を稼がなければいけないが、労役の年月は問わず早く稼げば早く解放されるという仕組みのようだ。なので軽犯罪から重犯罪まで結構色々な者が共に働いている。
ナータンには長年連れ添った細君ズージがいる。ズージと共に追放されてきたのだが、このズージが働かない。ナータンとは二十年の付き合いらしいが昔はそこそこ別嬪だったのに荒んだ罪人生活のせいかよる年波のせいかその面影はなく、ダラダラと働いている振りをして全ての労働をナータンに任せている。
「お前も少しは掘れよ」
「五月蝿いわね! 誰のせいでこんな所に飛ばされたと思ってんのよ!」
「元々お前が持ってきた話だったろ!」
「アンタがさっさと逃げないからでしょ!」
「お前が欲張って住処に戻るから捕まったんだろ!」
「何いってんの! 無一文で逃げれるわけないでしょ!」
取り敢えず午前中はこのやり取りから始まる。こんな流れで二人の状況が日に日にわかって来ると私の存在理由もわかりだした。
働かないズージの分の労働力を補う為に魔術師のナータンがどうにか素材を集めゴーレムを作り出したのだ。
働いている間に暇にあかして語られたナータンによると、この鉱山はかなり広く場所によって様々な物が掘り出されるようだ。
すり鉢状に深く掘られた大穴が幾つかあり、その壁面には無数に横穴が掘られている。それぞれに罪人が住み着いていて穴の移動は勝手に出来ない。横穴が罪人の個室で職場になっているらしい。
大穴ごとに採掘される資源はだいたい決まっているようで、今いる大穴の北側では主に鉄、南側では主に銅が出るらしい。時々ラッキーガチャで高価な鉱物が出る事があるらしいが確率は低いようだ。
ここで鉱物を掘り起こしそれを換金して課せられた罰金を払うのだから勿論みんなはより価値のある銅が出る南側へ行きたがる。だけど場所には限りがある為そこに争いが生まれる。
罪を犯して流されて来た者たちの集まりなんだから全員が罪人だ。しかも罪を償わせる為なんだから凶悪なほど長く過酷な目にあうよう取り計らわれている。鉄は鉱山の中で一番換金率が低い。この穴へ入れられている時点でかなりのワルだと証明されている。
ナータンは軽犯罪と重犯罪の境目でギリギリアウトの重犯罪組だったらしい。殺しを行った訳では無いがあくどい窃盗だったらしく財産を失った人達が悲観し死人が出る可能性があったかららしい。
「ゴーレムナンバー5早くその辺りを掘り進め!」
ナータンと並んで私は命じられるままに硬い土壁を掘るべく拳を振るった。ゴーレムとして作り出された私に命令に逆らう事など出来やしない。
毎朝ナータンが私の額に手を添えて魔力を込めると一日が始まる。私は何故自分がここに居るのかわからない。気がつけばゴーレムとしてここにいて、ぼんやりと言われるままに働いていたが数日たった今では少し違和感が芽生えた。
恐らく私は転生者、そしてここは異世界だろう。異世界というのは私がかつて生きていた世界とは常識が全く異なる世界って事だ。前の私は女性でゆるくそれなりの生活だったと思う。
前世の事は曖昧で細かい事は思い出せないけれど、ライトなオタクだった記憶のお陰でそこまで混乱すること無く行動出来ている自分を褒めておこうと思う。
そして何のチートも無くここで穴を掘っている訳だが案外不便は感じない。
まず気分が悪くない。恐らくだけどナータンという魔術師によって作られ命令を聞いているという時点で役割を達成出来ているせいだと思う。この体はお腹も減らず寒さも暑さも感じず恐怖感もなく満たされている。睡眠も不要で二十四時間休み無く働く事も可能だ。
ただしそこには魔力が必要である。
私には見えないし確認する事も出来ないがどうも額あたりに魔石が埋め込まれているらしい。ナータンは朝起きると私の額に触れ「むむむっ」と唸って魔力を注入する。魔力が切れると私は動く事が出来ないらしい。ナータンはかなり魔力が少ない方らしくよくズージにも文句を言われているが、頑張って私を動かす為に魔力を注入する姿は私にとっては少し微笑ましい。お陰で動く事が出来るのだからね。
「もっと腰を入れて掘れ!」
壁を拳で殴って穴を掘っている私に苛立たしそうにナータンが言う。そして手本を見せる為に「こうだ、こう」と隣でツルハシを振るう。
いや、私は素手だし。まぁゴーレムだから土塊の手なんだけど。
心の中でそう思うが言葉には出来ない。話す機能が無いらしいのだ。それにナータンは魔術師としてあまり優秀では無いらしく私の体はかなり欠陥が多い。
関節の可動域が狭くそのせいで力強く壁を掘る事は出来ない。移動もぎこちなくゆっくりとしか無理。まぁあまり移動する事は無いので私はあまり不便を感じないがそれはナータンに負担がかかっている。
僅かながらも掘る作業は出来るので多少の成果は上がっているが掘り起こした石や不純物が混ざったままの鉱石を運び出すのはナータンだけの仕事だ。ズージは重い物なんて絶対に運ばない。
お爺ちゃんが鉱石を運搬用一輪車に乗せヨタヨタと穴ぐらから運び出す姿は哀愁を漂わせている。しかしそれも私には手伝えない。私の存在は他の囚人達には秘密だからだ。
この鉱山で弱者であるナータン達は北側の鉄エリアでしか採掘出来ない。しかも北側の中ですら弱者、底辺中の底辺という存在。そんなナータンがゴーレムを作って楽してるなんて見つかったら直ぐに私を取り上げられるに決まっている。取り上げた奴らの為に私に魔力を注入させられる未来は想像にかたくない。
鉱山の運営側に見つかってもそれは同じ様なものだ。罪を償う為に流されてきているのに楽をするなと取り上げられるだろう。
ナータンは仕方無く私を穴ぐらの奥だけで働かせているのだ。大体の罪人はここでは単独行動なのでなんとか私を秘密に出来る。
成果を横取りされたくないから一つの穴ぐらに大体一人で穴をほるのが普通。チラホラと数人のグループで作業している所もあるらしいが大概取り分で揉めだし良くて喧嘩別れ、または行方不明、最悪死人が出るらしい。
そんなこんなで秘密の存在である私だが日々少しずつ変化を遂げている。
最初はぼんやりしていた思考も何故か段々とハッキリして来て、それに寄って自分の体の不便さを解消したいと思い出した。
ナータンとズージがここで罰金を払い終えない限り私もここから出られない。つまりこの老夫婦と一蓮托生ってことだ。だったら少しでも早く労役が終えられるよう協力を惜しんではいられないだろう。
私は自分の両手をじっと見た。何がどうなっているのかわからないが何故か指が三本しか無い。前世の私の記憶にあるひと昔前のポンコツロボットのような、クレーンゲームのアームのような形はここの作業に適していない。
上手く掘れないうえに鉱物を拾うのも一個ずつだ。どうせならドリルのように尖らせておけばよかったのにとさえ思ったがやはりここは何かと便利な使い勝手の良い五本指にしてもらうべきだろう。
だけど私は話が出来ない。さてどうしたものか。
読んで頂いてありがとうございます。
次話も読んでみようかなと思ってしまった方はブクマ、イイね、評価を宜しくお願い致します。
かなりヤル気に繋がります。創作中の心の安寧でもあります。




