最初の関係は婚約者から!
御告の儀が終わり、村人総出でのお祝いが始まった。
黒田 仗助くんには悪いけど、大半が俺に対して一言物申すみたいな空間になったのは仕方あるまい。村長すらあんなに御告が長いことは初めてだったらしいし。
あ、罵詈雑言とかやっかみ言とかも当然あったよ?
無論兄や妹の取り巻きやファンや信者みたいな子供ばかりだったけど。
彼らの親世代は俺に対して祝いの言葉しか言ってこなかった。
俺は寺子屋では空気だけど、村の手伝いは兄妹の分まで働いているんでね。文句言われたらそりゃ今度から手伝いを渋るとも。
三年で迎えが来るとはいえ、三年間の労働力は惜しいだろう。
まぁ文句を言うのも怖いというのもあるだろうけど。
だってなんか知らんけど俺の隣にはずっと山茶花ちゃんが居るし。誰かしらが近付く度に金剛山氏がこちらを見るから大人達は当然ビビる。そして山茶花ちゃんもまた相手を見るから地味に圧が強い。
一度だけ「どうして隣に?」と聞いたら微笑みしか返ってこなかったので俺は聞くのをやめた。
女心は分からんものね。
はてさて。そんな宴会騒ぎも大人達に酒が回るようになったら俺ら子供は当然放ったらかしになるワケで。
俺はこの佐藤さん家の特製みたらし団子を食えればそれで大満足なワケなんですけどね、それで話が終わるならこうも長々と語っていないワケでして。
「おう幸也、ちとツラァ貸しな」
やはりというか、金剛山氏から呼び出しを受けた。
大体内容は想像がつくけれど、せめて暴力沙汰にはならないといいなぁ。
殴られたら一方的に死んでしまうよ。
◇
「話ってなぁ他でもねぇ。山茶花のことだ」
金剛山夫婦から呼び出され(当たり前のように山茶花ちゃんも着いてきた)、俺はいま満天の星空の下で鬼に囲まれながら川魚の塩焼きを食べている。
たった今取って捌いた焼きたての鮎だ、マズイはずがない。
「俺達にぁあどうにも人の神様の言うお告げ? ってのがイマイチ理解できなかったんだが、聞くところによるとお前さんはこれから沢山の嫁を娶って子供を仰山作るって話になるらしいな?」
あー、やっぱりそれをツッコむよねぇ。
俺は村の外の常識はイマイチ分からんのだけど、ハーレム作りが非常識だということは理解できている。
神様が許可をしたとて、人情が赦すかは別の話だろう。
「そう、ですね……。はい……」
これはもう誤魔化しようもない。
あれだけの加護を貰っておいて天命を無視するなんて小心者の俺にはできないし、そもそも酒池肉林は男児の夢である。
美味い飯を食い美味い酒を呑み、好きな女を侍らせて我が子に囲まれた生活をする。これを望まない者はそうおるまいて。
ただまぁ、それを嫁さんやその家族が許すかは別。
山茶花ちゃんなんてきっと蝶よ花よと育ててきた一人娘であろう。そんな子を俺みたいな人間の傍に置いておきたくない気持ちは何となく分かるってもんだ。
「……あの、金剛山さん。俺は別に山茶花ちゃんに」
「それ以上言うな、黙って最後まで聞け」
「あっはい……」
手を出すつもりはない、と言いたかったんだが、それすらも止められた。
はて、俺はこの場で弁明の余地もなく殺されるのか?
参ったなぁ、鬼人族と戦えるような武力は俺にはないぞ。あっても精々がガチャ産の武器防具くらい。
身体能力向上(小)とか『浮窓の写本』とかじゃ間違いなく勝ち目はないだろう。そもそもどんな能力かテストすらできていない。
逃げ足では……あっ! いつの間にか山茶花ちゃんに袖をギュッと掴まれてる!
詰んだな。
「いいか幸也、俺は決して山茶花に手を出すなとは言わねぇ」
「え……?」
なになに、どゆこと?
「俺達は初めて見た時からお前の事を一目置いてるんだ。毎日嫌な顔せずに仕事をやって、俺達の面倒も見て、勉学も励んで、隠れて修行もしてる。とてもガキとは思えねぇヤツだってな」
そりゃ中身は別世界で20年生きた魂だもの、とは言えない。言ったところで意味はないだろうしな。
というか神社の一人稽古見られてたのか? いや、山茶花ちゃんが話した線もあるか。
「んで、そのスゲェヤツが神様に使命を貰って大層な事を成そうってんだ。そんな男に巡り会えたのも俺達は運命だと思ってる。だから逆に、山茶花の事を嫁に貰ってくれと言いてぇんだよ」
はぁ、山茶花ちゃんを俺の嫁さんに、ですか。
……はぁ。…………はぁ!?
「いやあの、そういうのはまず山茶花ちゃんの意志を確認した方がよいのでは?」
「あら、私が幸也さんの嫁になるのを断るとでも?」
横を見たら覚悟完了の目が俺を見据えていた。
一体何がキミをそこまで……。
「あの御告ってのが言ってんのもありがち間違いじゃねぇんだ。俺達はそれぞれ別の里から出て冒険者になって出会ったんだが、どっちの里も若者が少ねぇのよ。しかももう大半が親戚っつーな」
まぁ同族の個体数が少ないのに同じ里の中で婚姻していればそうもなろう。むしろ全国的に多いとされる人間族はどうしてそんなに繁栄したのか。神様の忖度かしら。
「俺達が出会ったのは偶然。他の種族……特に人間族から鬼人族は怖がられる。だからこの子のお相手は全国を探し回って同族を見付けるしかねぇと思ってたんだ。お前に会うまでは、な」
「俺が物怖じしないから、ですか」
「そんだけじゃねぇ。お前はいい男になる。俺が保証してやる。そして山茶花も満更でもねぇって話だ。なら今すぐにでも捕まえとかなきゃあならねぇってんでな」
確かに俺は山茶花ちゃんの事を可愛いと思っている。
この子と付き合えたり、結婚なんかできたらどれほどよいか、とも。
だけど……。
「山茶花ちゃんはいいのか? 俺は御告通りなら山茶花ちゃん以外にも沢山の嫁さんを貰って、その分だけ子供を授からなきゃならん浮気男なんだけど……」
そう、俺は浮気を宿命づけられた男!
字面も最悪だしやる事も最悪ではある! それが“ハーレム”というヤツだから!
……俺ってば割と最低な男だな?
「……ええ、構いませんとも」
だけど山茶花ちゃんの覚悟は一遍たりとも揺らぐことはないらしい。
「元来鬼人族の娘が嫁入りするということは、旦那様に一生を捧げるということ。生涯を共にすると決めたならば、貴方が何人嫁を娶ろうが、私が貴方の妻である事に何ら揺らぎはございません」
……ああ、なるほど。
種族的に『こうあれかし』というものがあるのか。
つまり鬼人族の娘とは、一度結婚してしまえばいくら夫が冷遇しようとその一生を捧げねばならないと、そういう決まりやら掟やらがあるということか。
あーあーあー、こういう所で令和日本人の倫理観は邪魔だなーまったくよー!
もうこの子を一生大事にしてやろうって気になってるもんよー。逃げ場ねーもん、詰んだよ。
でもまだ俺10歳になったばかりなんだよな。この国で結婚できるのは元服してから、つまり15歳。
令和男児としてはそれでも早い気がするけど、時代がそうさせてるのだから仕方ない。
「……えっと、ではまず“婚約”という形から入るのはどうでしょう。ほら、俺まだ10歳だし、山茶花ちゃんの気が変わることも」
「「「ないな(です)」」」
「まだ結婚できる年齢じゃないので後5年ほどお待ちください!!」
こちとらまだ精通すらしてないんじゃい!
中身は人並みにエロいつもりだけど身体が精神に追いついていないんじゃ! あと倫理観!
「ふん、まぁ山茶花を蔑ろにせん男なのは分かっとるからな。それでいいか」
金剛山氏はようやくひとつ頷くと、焼きたての鮎を一口で串ごと噛み砕いた。いちいちやることが豪快だな。
「……よし、そんじゃあ明日から俺らがお前の稽古の相手になってやろう。炎陣花も魔術を教えるのに異論はないな?」
「無論だ。可愛い娘の夫殿だからな、外でも通じるよう徹底的に鍛えてやろう」
婚約が決まった途端、迎えが来るまでの間の師匠も決まってしまった。
ありがたいけど、めちゃくちゃスパルタな気がするのはどうしてだろう……。
「ほ、ほどほどにお願いします……」
こうして俺は婚約者と師匠を手に入れたのだった。
人間族には人間族が崇める神様がいるように、鬼人族にも崇める神様がいる。
だから人間族固有の『御告の儀』とかは鬼人族にとっては別の種族のお祭りなので重要性がよく分からない。
『俺達もその年に出来た一番上質な酒を供えるし、そういう風習みたいなもんか』という、自分達に分かりやすいような解釈はしている。




