まずはお友達から!
結果を言えば説得は大成功だった。
俺が9歳とは思えない弁舌をした事に大人達は驚いていたが、こういう時に楽な一言がある。
「あの女の子に一目惚れしたんだ」
こう言っておけば大人達は甘くなる。そしてデメリットをひとつずつ反論していけば、残るメリットは絶大だ。
残る問題点としては彼らに村を乗っ取られる可能性だが、多少会話した感じだと彼らは大雑把というかざっくばらんというか、乗っ取りなんか面倒なことを嫌うタイプだと思う。
文化の違いか何かは俺が緩衝材として動けば何とかなるだろう……多分。
そういう面倒さえ除けば最高の戦力が村人として残ってくれる上に異文化交流もできる。というかこの村、開拓して拡げていかなければならないのに若手が足りないんだよな。
そういう意味で彼らは欲しい、是が非にも。
「ということで村の受け入れ体制は整いましたが、皆さんの答えは如何に?」
「無論、断る理由はない! よろしく頼むぞ坊主!」
こうして我らの村に新たな村民が入ったのだった。
……ええ、他の諸々では怒られましたよ。
流石に能力については黒田さんが黙っていてくれたけど、危険なことをしたのには変わらないからね。
二日間飯抜きくらいは受け入れよう。水だけはください。
◇
鬼人族の親子を受け入れてから一週間が過ぎた。
あれから空き家になってた家の掃除や畑の整備を手伝ったり、互いの軋轢等々を受け持っていたらあっという間だったな。
思っていた通り金剛山殿達はざっくりとした性格というか、大抵のことは笑って許してくれる御仁達で。この村のルールを説明すると大抵のことは受け入れてくれた。
……ただまぁ、酒に関しては相当うるさかった。
酒を作る為だけに広い田園を欲しがった程だ。流石にそこは開墾してくれという話になったので、今は稲を分けてくれる人がいないか交渉中である。
……ま、そういうのはいいんだ。重要なことじゃない。
今大事なのはそう、この状況である。
「……どうしたんだい山茶花ちゃん。俺に何か用?」
「いーえ、何もありません♪」
何もありません、ねぇ。
何もない割にはなんで俺に着いて回るんだろうか。
週3回の寺子屋には彼女も参加するようになったが、その後の時間は自由なはずだ。
なのになんで俺が神社で特訓している様子をジッと眺めているんだ?
しかもニッコニコなんだけど。
逆に怖いよ。
「……ねぇ、素人ががむしゃらに竹刀振ってるとこ見てて見てて楽しいもんなの?」
「楽しいですよ? 私達を怖がらないで傍に置いてくれる人間族なんて今まで会ったことなかったので」
あー……。そういう感じか。
これ話の流れで身の上話とか聞いた方がいい感じ?
どうなの幸太郎さん。……ダメだ、前世は童貞だったわ。
肝心なところで役に立たない前世だこと。
……ま、9歳にパーフェクトコミュニケーションを求めるなという話なので、俺は俺のやりたいようにやろう。
「竹刀、振ってみるか?」
俺は無料ガチャで更にダブってしまった竹刀を取り出し、山茶花ちゃんを誘う。
流石に三本有っても一人じゃ扱えないわ。口に咥えるワケにはいかないし。
「まぁ、いいのですか? 私は父のように強くありませんけれど……」
「いやまぁこれ強くなる為の特訓だし。ただめっちゃ疲れるけれど、それで良ければ」
山茶花ちゃんは訝しげな顔で竹刀を受け取ると、試しにブンブンと振ってみる。すげぇ、俺が全力で振るよりも速いし力強いよ。種族差ってこういうことかと実感する。
「……あ、ああ~。確かにちょっと……いや凄く疲れますねこれ」
片手で軽々扱っていたくせに、今は竹刀を取り落としそうなくらいに疲弊している様子。腕とかプルプル震えてるし。
「そうなんだよ。この竹刀めちゃくちゃ疲れるし筋肉痛も酷いんだけどさ、その分早く成長してるみたいなんだよね」
未だに能力の詳細が分からないこの竹刀だけど、どうやら呪いの装備ということは無さそうだ。だって二週間前に比べて俺はかなり鍛えられているというか、うっすら力こぶができそうになっているのだから。
しかも二本装備しているので効果も二倍! 疲労も二倍!
毎日やっているから随分と慣れたものの、未だに筋肉痛になるので油断ならないんだなこれが。
それからは二人で無言のまましばらく竹刀を振り続けていた。
俺は基本の素振りに飽きたら前世で見た事あるような無いような謎の剣術の形稽古。と言ってもどれだけ長く振るい続けられるかを思案しながらやっているだけなので、流れが途絶えないように動き回っているだけとも言える。
山茶花ちゃんはそんな俺を横目に見ながら、父親の金棒術らしきものを見様見真似で練習しているようだ。
そんなに動いて明日の筋肉痛は酷そうだけど大丈夫かね?
見た目だけなら今のまま華奢な鬼っ娘でいてくれると俺が助かるんだけど。
「牧瀬……さんは。お友達とか、いないんですか?」
俺が休憩の為にそこらの岩に座り込んだタイミングで山茶花ちゃんがそう問うてきた。
うん、まぁ寺子屋で他の子供達と話している姿は見ててもその後に遊んでいる姿は見ないもんな。そりゃ不審に思うか。
「んー、俺の友達って意味ではいないかなぁ? 兄ちゃんや妹のユメの方が人気だから、わざわざ俺と遊ぼうって子はいないかも」
兄は贔屓目抜きで見てもイケメンで遊び上手。妹は末っ子特有の甘えん坊で愛嬌の塊。間に挟まれた俺はそんな二人に挟まれて、どっちつかずとなっている。
だから爺ちゃんの畑仕事には毎回俺が呼ばれるし、家事の手伝いも俺。村の頼まれ事も俺。まぁ雑事担当みたいな扱いだ。
お陰で大人達からのウケはいいんだけどな。この前の一件だって『幸也がそういうなら……』みたいな一面もあったし。
「……ででで、では! わ、私が牧瀬さんの!」
「幸也って呼び捨てでいーよ。同世代からさん付けされるの慣れないし」
「わ、わかりま、したわっ! ……スゥー……ハァー……」
この子、大丈夫だろうか。めっちゃテンパってるけど。
お互い子供なんだからそんな緊張しなくてもいいのに。俺は子供メンタルのまま前世をインストールしただけなので実質子供だからセーフ。
……あ、でもそうか。隠れ住んでいたのなら同世代の友達とか居なかっただろうし、ぼっちを拗らせている可能性はあるのか。
うーん、そうすると俺が先回り先回りでこの子の求める答えを出していかなきゃダメなのか?
引っ込み思案の考えることはまぁ、なんとなく分かるというか共感を覚える所は無きにしも非ずなので。幸太郎さんは趣味のいいゲームしてるね。よくもまぁ18歳からそんなにやり込んでるもんだよ。
「ねぇ山茶花ちゃん」
「はっ、はひっ!!」
「俺と友達になってよ」
多分正解はこれ。ずっと俺に付きまとっていたのも、怖がらずに接してくれる子供が他にいないのだろう。
いきなり異種族の子供が輪に馴染めるワケないもんなぁ。そこのアフターケアも俺がやらねばなるまいか、そうか。
まぁこんな可愛い子とお近付きになれるならむしろご褒美だよね。
「えっ……と、その……。まき……幸也、さ。……幸也、は。怖く、ないの、ですか……? ほらそのっ、角、とか……! チカラも、人間族より、強い……ですし……」
やっぱりそういうの気になるよねー。
やっぱり可愛いなこの子、甘やかそうかな。甘やかしていいかな。甘やかそう。
「ヘーキヘーキ。むしろそういうところ可愛くっていいと思う」
「かっっっ、かわっっっっ!?」
「そう、可愛い。山茶花ちゃん美人だし、大っきくなったらモテると思うよ。もっと自信持ちなよ」
そういや異種族って同族見付けないと結婚とかできないのかな?
そういうのはセンシティブな問題だから聞いて回るのもどうなのかね。
俺の夢は多種族との酒池肉林だけども、人間族と結婚できたりするんだろうか。いつか調べてみないとなぁ。
「えっと、その……。でで、では……。お友達か、ら! よよよ、よろしく、お願い……します!」
白い肌を真っ赤にしながら、山茶花ちゃんが頭を下げる。
うんうん、可愛いねぇ可愛いねぇ。頭ヨシヨシしてあげようねぇ。
「はっ、はぅわ……」
こうして俺に可愛いお友達ができた。
彩りって大事だよね。こういう子といたら俺もモチベを強く持てる気がするぜ!
なお、俺が『お友達から』の意味に気付くのはもっと先のことである。
連続投稿はここまでです。
後は不定期投稿となります。




