魔物初襲来は一角狼から!
初ガチャを回してから一週間が経った。
アレから毎日筋肉痛に苛まれながらも、毎日無料ガチャを回して竹刀でのひとり稽古を続けている。
ちなみに出た物は竹刀二本、電卓(ソーラー充電式)一台、能力ガチャメダル一枚、ビニール傘一本、鉤縄(15m)一本、手持ち花火(ライター付き)一セットである。
闇鍋過ぎて商品の傾向がまったく分からん……。日用品にしては竹刀とメダルがノイズだし、電卓とビニール傘とかこの世界ではオーパーツだろみたいな物も出るらしい。
能力ガチャメダルはとても有り難いのだけど、これおそらくVRだよな。ガチャ回すのに五枚必要なんだけど、当たる?
あと発見した事といえば、一度カプセルから出した品物は実物そのまま置いておくことになるかと思っていたのだが、実はまたカプセルへと戻せた。
手に持って念じればポンっと軽い音と共にカプセル化してくれたよ。これで隠しやすくなる。
今までは納屋の隅っこに布を被せて見付からないように祈る日々だったので、これでようやく場所を変えられるようになる。
まぁ我が家に自室なんてものはないので、傍に生えてる桜の木の根元に穴を掘って埋めるだけなんだけど。
いい感じに細長い石を刺したら動物の墓のようになってしまったから、早めに違う方法を探さないとなぁ。
そんな事を考えながらも、今日もまた人目を忍んで稽古の時間だ。村はずれにある丘の上の神社は普段人が来ないし、誰かが来てもすぐに分かるから最近は稽古場として使わせてもらってる。
寂れた神社で一人特訓なんて、時代劇っぽくていいじゃない。できれば魔法も覚えてみたいのだけど、そちらを学ぶ方法はこの村にはないからなぁ。
とにかく今できるのはこの竹刀を振るうことだけ。昨日ふざけて竹刀を二本持って振っていたら疲労感も二倍に増えたので、きっと効率も二倍だろうというふざけた理論を試していた、そんな時だ。
「……ん?」
遠く、村の北門の向こう。広い平野の先で動く影が見えた。
「んんんー?」
よくよく目を凝らしてみると、先頭には数人の人間らしき影。そしてそれを追うように黒々とした波がこの村に向けて進んできている。
「……って、あれダルフの群れじゃん! やっば……!」
ダークホーンウルフ。通称ダルフ。
一角の生えた黒狼の魔物だ。奴らは群れで行動し、獲物を昼夜問わず追い回して狩る習性があると吟遊詩人から聞いた。
「警鐘は……まだ誰も気付いてないのかっ! くそっ……!」
こんな小さい村だ、門や柵があるといっても大した障害にはならない。魔物が本気になったらいつ破壊されてもおかしくない程度のものだ。
だからこの村では魔物が近付くと警鐘を鳴らし、戦えない村人は全員村長の家へと避難するようにと教えられている。
本来は高台に見張り役が居るはずなんだが……今は警邏中なのか畑で談笑している姿が見える。タイミングが悪い!
「しゃあねぇな……!」
俺は竹刀をカプセルに戻して袖へと突っ込み、大急ぎで一番近い警鐘台へと向かう。
石段を一足飛びで蹴飛ばして、砂利道を駆け抜け、梯子をダッシュで駆け上がる。なんだか前よりもめちゃくちゃ速く動けている気がするが、今はそんな場合じゃない!
「魔物だー! 北門側に魔物の群れが来たぞー!! あと誰かが追われてる!!」
ガンガンガンと鐘を打ち鳴らし、あらん限りの大声で叫ぶ。
村の皆が本当のことだと受け入れるか子供の悪戯と思うかは賭けではあったが、他の警鐘台に登ったご近所の田中さんが同じように警鐘を叩き出したので、どうやら信じて動いてくれる気になったらしい。
これで戦える大人は北門へ、非力な者は村長宅へと移動してくれるだろう。
「おめぇもはよ降りて村長さ家に逃げろ!」
「わーってるよ!」
下を通った佐藤さんに言われて、最後に三回鐘を叩いてから梯子を降りる。
今の俺は無力な子供でしかない。魔物相手に無双するような、そんな夢物語みたいなチカラはないんだ。
……しかし、あの追われていた人達はきっと見捨てられるだろう。魔物に追い立てられて向かった先に村があり、助かったと一瞬でも希望を抱いたりしただろうか。
こんな小さな村では柵の隙間から槍を突くのが精一杯の防衛であり、決して門を開けることはないというのに。
唯一村に入ることができるとしたら、北門傍に設置された櫓から柵向こうにロープを垂らして……。
「……~~~~~ッッ!」
これはよくないことだと分かっている。
大人達の邪魔をすることになるし、村全体を危険に晒すかもしれない。……でも。
「厄介だな前世の俺って奴は!!」
先頭を走っていた馬に乗っていた女の子。その必死の表情が頭から離れてくれなくて。
望んでもないのに死の淵に立たされた境遇が、どうしても過去を思い出させて。
気付いたら俺は、村長宅へと向かわず櫓へ向けて駆け出していた。
◇
「黒田さん邪魔するよ!」
「あっ、おめぇは牧瀬のトコの坊主! 何しにこんなとこ来やがった!?」
「頼む黒田さん、あの追われている人達を助けたいんだ見逃して!」
櫓へと登り、弓を構えて待機していた黒田さんの横へと並ぶ。袖の下から鉤縄のカプセルを取り出して開き、頑丈そうな場所へと爪を引っ掛けてロープを柵の向こう側へと放り投げれば完成だ。
このロープを登れば人なら侵入できる。馬と荷物は捨ててもらうことになるかもしれないが、人命には替えられないだろう。
俺が何をしたいのか分かった黒田さんは一度だけ俺の頭をゲンコツで叩いたが、それも軽いものだ。一応は黙認してくれるらしい。袖の下から鉤縄が出てきたこともスルーしてくれると有り難いんだけど。
「後はこっちに気付いてくれれば……そうだ!」
合図というにはちと乱暴だけど、俺には花火セットがある!
早速開封し、ロケット花火に火をつけて空へ向けて発射。火花が腕に当たるが人命には替えられないとも!
馬が驚いたらヤバいと思って空に向けたんだけど、どうやら彼らは気付いてくれたらしい。まっすぐこちらへ向けて走ってきた。
念の為手持ち花火の一本へと火をつけ、縄を示すように左右に振る。
「こっちだー! ロープあるから! ロープ!!」
これを登れば助かるよ! という意思表示。
人影は近くになるにつれてようやくその姿が分かるようになってきた。
女の子が一人と男女の成人一組。ローブを被っていてきちんとは見えないけど、おそらく親子かな?
旅の途中で襲われたのだろうか。護衛に冒険者を連れていない理由も気になるが、今は。
彼らはまっすぐコチラに向かって走る。
ダルフの群れは少し距離があるから、これなら安全にロープを登れるんじゃないか?
もうすぐ、あと少し……。
女性が女の子を持ち上げる。片手でひょいっと。
どういう意図だ、なんて考える暇もなく。
「小僧オオォォォォーー!! 受け取れェェェェェ!!」
振りかぶって第一球。
ぶん投げてきた。
「「ちょっ、ええええええええええ!!?」」
女の子は驚く。俺も驚く。
ぶん投げられた女の子はそれなりの距離があるにも関わらず、まっすぐ櫓の上……つまり俺へと目掛けて飛んでくるワケで。
「ばっ……! お前これ下手したらどっちか死ぬぞ!?」
受け止め損ねたら女の子が死ぬ。受け止めても打ちどころが悪ければ俺が死ぬ。なんならそのまま櫓から転がり落ちて両方死ぬ。
助かる道は俺が頑張る、それしかない。
「クソッタレェェェェェ!」
勢いが全く衰えることのない豪速球(女の子)。俺はその子を真正面から受け止めるのを諦め、力のベクトルを変える方向で受け止めることにした。
頭上を飛び過ぎようとする女の子のへと抱き着き、俺という重りを付けることで速度を落として下方向へと誘導する!
俺は床に向けて背中から落ちるわけで強かに打ち付けることにはなるが……ええい南無三!
ドゴォ!
「ぼっほぉ!!?」
……いってぇ。変な声出た……。
でも助かった。背中はものすごく痛いがそれだけで済んだ。
女の子も無事らしい。見ず知らずの男に抱き締められて不愉快だろうけど、豪速球を止めたんだからそこは水に流して欲しいんだけどな。
「……キミ、大丈、ぶ……?」
未だに俺に覆い被さったままの華奢な身体を引き剥がし、無事かどうか顔を覗き込む。
飛んでいる時にはよく見えなかったのだが、その顔……というか頭には俺に無いものがついていて。
まぁ、つまりなんだ。
その女の子は“鬼”であった。




