そして三年の月日が流れた その1
山茶花と婚約してから三年の月日が流れた。
その間、村に変わったことは起きていない。
比較的のほほんとした村人、変わらぬ山々、あまり襲ってこなくなった魔物達。
15歳となって村を出ていく者もいれば、居心地が良くてそのまま住み着いた冒険者もいる。ただそれでも鬼人族の親子が住み着いた時よりも騒ぎになることはなく、ほのぼのとした暮らしが続いていた。
大きく変わったのは多分、俺と山茶花くらいのものだろう。
「山茶花、そっち行ったぞ!」
「はい!」
俺達は今、村の外へと出てダークホーンウルフ……通称ダルフの群れと戦っている。
村からそれなりに近い場所に巣を作ったので安全の為に、というお題目だが、実際は修行の一環として金剛山師匠に「今のお前らならやれる。傍で見ててやるから二人で狩ってみろ」と言われた為だ。
修行を開始してから早三年、これが初の実践となる俺は前日から張り切っていたのだが……。
「はぁぁぁっ!」
山茶花が金棒を振るう。ダルフが叩き潰される。
「とりゃぁぁぁ!」
山茶花が懐に飛び込んできたダルフの首根っこを掴んで地面へと叩き付ける。ダルフが絶命する。
「やぁぁぁぁ!」
山茶花がダルフ数匹に噛み付かれる。が、彼女の放つ闘気によって牙は衣すら傷付けられず、そのまま力任せの攻撃でダルフは死んだ。
「うーん……」
これ、俺いる?
いやさ、俺だってダルフを倒してはいるんだ。
この前無料ガチャで引いた『刃こぼれしない長剣』の使い心地は悪くないし、師匠の下で培った多種多様な戦術はガチャによって武器が増えていく俺に相性が良く、剣に槍に弓にと持ち替えて戦う『器用貧乏スタイル』は人間族としてこれといった種族特性のない俺にも強みを与えてくれた。
でも……でもさぁ……。
【正に『もう全部あいつ一人でいいんじゃないかな』状態ですね】
『浮窓の写本』に宿る精霊、フリクトが語る通り。
そもそも鬼人族は素のスペックが人間族と比べても遥かに高い戦闘民族らしいのだが、山茶花はその中でも才能を持って生まれた二人から両者の特色を受け継いだサラブレッド。
父親の金棒術と母親の魔術を使いこなす山茶花は、師匠曰く『親の贔屓目抜きでも既にBランク冒険者レベル』だそうで。
ごくごく普通の親から生まれた次男坊である俺とは比べ物にならないほど強いのである。
おかしいね、俺は女神様からの寵愛(?)を受けた未来のハーレムキングなるぞ。
それが女の子の陰に隠れながらチマチマと余り物と戦うオマケでしかないとは……。
情けなくて悲しくなってくる。
【マスターだってかなりお強いのでは? ダークホーンウルフは群れだとCランク相当の魔獣です。大多数が山茶花嬢の方へと流れていったにしても、複数匹を同時に相手取れるだけで腕前は相当かと】
慰めてくれてありがとう。
でもこれは事前に情報収集をした上で準備した備蓄を使い、なんとかしているだけなんだ。
師匠を相手に稽古しているよりも楽とはいえ、弾数を吐いてるだけだから自分が強くなったという感じはあまりしない。
【後ろです】
「ほい、ファイアーボール!」
探索能力を併合したフリクトの声掛けに合わせ、俺は振り向きながら事前に用意していた英単語帳から一枚を抜き取って突き付ける。
ページが燃え尽きるのと同時に放たれた火球はダルフ一匹をその中に包み込み、丸焦げにして消えた。
うーん、やっぱりこの英単語魔術帳、便利だな。
この英単語帳には1ページ毎に『一筆魔術』の魔方陣を描いており、こうして抜き取って魔術名を唱えるだけで簡単に魔術が放てるようになっているのだ。
この一筆魔術、魔力を込めて文字を書けば込めた魔力相応の効果が発動すると聞いて、まず最初に思い付いた悪知恵がこれだった。
炎陣花師匠は魔力で空中に文字を書き、その場で起動するという戦い方をしていたが、多分この魔術の真骨頂は“書き置き”ができるという点にある。
魔力を込めた魔方陣を予め書いておけば、後は必要な時に起動する分の魔力を込めるだけで魔術が撃てる。しかもこれは術者本人でなくても使える。
これはヤバい。俺ならいくらでも悪知恵が湧いてくる。
強い術ほど込める魔力や文量も増えるが、それを戦闘前に準備できるというだけでもうお釣りが出るレベル。
汎用性の塊みたいな魔術だが、かなり適性が限られているらしく使い手が少ないらしい。
まぁそうでないと色々崩壊するよな。俺なら全ページに爆裂魔術を込めた『魔本爆弾』とか作って何もかも消し飛ばすとかやるもん。
まだ作成途中なので今日は持ってきていないけど。
「これで、ラスト!」
最後の一匹の首を落とし、深く息を吐いて剣を鞘へと納める。
一応“探索”能力を使って残党がいないのを確認しつつ、俺よりも大層活躍していた山茶花へと歩み寄ってその頭を撫でてやる。
「よくやったな山茶花、偉いぞ〜」
「えへへ~♡ もっと撫でて♡」
戦闘中は鬼神の如き強さを見せていた山茶花も、俺と二人きりの時は年相応に甘えるようになった。
この三年間ずっと一緒に居たからなぁ。懐いてくれたようでお兄さん嬉しいよ。一応山茶花の方が年上らしいけど。
精神年齢ならまだ俺の方が上なのでセーフ。
「よぉくやったなお前ら。流石は俺達の弟子だ」
少し離れたところで見守ってくれていた師匠達もやってきて、代わる代わる俺と山茶花の頭を撫でてくれた。
二人共筋肉質ってのもあるんだけど、どっちも身長が2m近いから丸っきり子供扱いされるんだよな。
俺だってこの三年で身長も伸びたってのに。
「それで師匠、ダルフの巣ってのは?」
「おう、こっちだ。着いてこい」
ダルフが群れを成していた森の広場から少し草を分け入ったところに、ソイツはあった。
それは黒々としたスモッグのようなモノを閉じ込めた結晶体。心做しか周囲の空気も重たく、澱んでいるように思えてくる。
「コイツが魔物を作り出す原因、穢れの塊、澱んだ魔力の集積地。冒険者達はコイツを『穢れ石』と呼んでいる」
金剛山師匠の言う魔物の発生源。それがこの、地面から生えたキノコのような結晶体らしい。
サイズは大したことはない極一般的なキノコというか、周囲に同種らしきキノコが生えていることからコイツはキノコが変異したモノなのかもと予測できる。
試しに剣先で突ついてみたが石を突いたような感触が返ってきた。やっぱり硬質化してるよな。
「それじゃ、コイツを壊せば終わりですかね」
結晶体だろうとスレッジハンマーならイケるだろうと武器を入れ替え、思いっきり振りかぶる。が、
「いんや、これは壊しちゃならねぇ」
予想外の言葉に力が抜けた。
えぇ……ダメなの?
今後もサラッとこの時代に無いような物も出てきますが、説明もないような物は全て無料ガチャから出たものだと思ってください。




