099 模擬戦(1)
「確かに攻め手とは言ったがなぁ」
「あら、あたしが入ったのは不満?」
翌日早朝
街の中心である行政区の端、師団用屋外修練場に呼び出された宵闇とラグを待っていたのは、フェリオンを含む昨日の五人と緑髪の少女だった。
四角い広場を囲むように造られた階段状の場所に腰かけているラグは、何故か横に座る少女にげんなりしながら前の光景に目を向けている。
「動きを見るぐらいなら、何人か同時でも構わないだろう?」と言う雇い主を相手に、赤毛の女性とおさげの少女と影武者役になるらしい青年が挑んでいた。
三人とも本物の獲物を使っている。
フェリオンだけはどうやら刃を潰した模造剣らしい。
金属同士がぶつかる澄んだ音が修練場に響いていた。
ルイーズの長剣とニクスの双剣が隙を埋める様に斬りかかり、さらに後方からメルの従える追尾火球が襲う。
「三人とも結構やるよな。
メルはちょっと近距離苦手そーだが」
修練場のあちこちに線を張っていた宵闇が階段を下りて来た。
片手を眉の上に当てて面白そうに立ち合いの様子を眺める。
「昨日の感じじゃ、あの女は表に出ねえだろ。
ま、確かに隠れるだけが能って訳じゃなさそうだ」
紺髪の青年の言葉を横で聞いていたリデルが頬を膨らませた。
「昨日の昼の事根に持ってるの?
あたしたちの事あんまり見くびられても困るわ。
ランドル隊って、気楽そうに見られがちだけど、徹底的な実力主義よ。
ここにいるメンバーは、その中でも腕が立つ方。
隊長相手だと皆あの通りだけどね」
「ふーん」
聞いているのかいないのか気の抜けた相槌をうつ友人の眼が、やや険しくなっている事に宵闇は気づく。
紫の瞳は、易々と部下の攻撃をいなし続ける青年を真っ直ぐに睨んでいた。
(こりゃ、フェリオンに大分ムカついてるな……)
理由はなんとなく想像がついたが、今は黙っておくことにした。
そのまま三人とも黙って眺めること数分、一際大きな金属音が連続で響く。
前衛ニ人の武器を弾き飛ばしたフェリオンがメルの首に模造剣を押し当てていた。
一歩下がった少女が青年にお辞儀をし、他のニ人もそれぞれ頭を下げて中心の四角い空間から出た。
「ケリついたわね」
リデルが笑みを浮かべて石段から腰を浮かせた。
「次お前?」
「ええ。さっきのより面白いの見せてあげる」
両手首にはめた金と銀の腕輪をカチンと鳴らして肩越しに宵闇とラグに笑いかけ、小走りに修練場の中心へと向かっていった。
「あのリデルっての、お前に気があるんじゃねえか?」
宵闇のからかい半分の言葉にラグは苦い顔をした。
「そうだとしてもお断りだ。
オレがあーゆー馴れ馴れしいタイプ好きじゃねえって知ってるだろうが」
「ああ、年上の静かなのが好きなんだよな」
例えば、アスベルの副官はラグの好みど真ん中らしい。獣人島の事件以降姿を見ない彼女を密かに心配しているのを宵闇は知っていた。
リデルは確かに『年上』にも『静か』にも当てはまらないが……
「でもよ、好みなんてのは案外その時によって変わったりするかもしれねぇぞ?」
「宵闇……」
何気無く言った黒髪の青年に、ラグがジト目を向けた。
「ん?」
「それ言うって事は、だ。
お前、好み変わるような彼女でもできたのか?」
「は?」
正確にはそう言う対象としては意識していないつもりだし、ましてや彼女などとは口が裂けても言えないが、頭をよぎった姿に思わず動揺してしまった。
紺髪の青年は、その動揺をイエスと受け取ったらしい。
「そーかそーか、いつも『いい人』止まりの宵闇君がまーさか、いつの間になぁ。
今度ゆっくり話し合おうぜ」
「いやラグ、それは誤」
「ちょっとあなたたち!見る気あるの!?」
弁解しようとした宵闇の言葉は、修練場の中心から飛んできた高い声に遮られてしまった。
明らかに憤慨した様子の少女にラグが片手を上げて返す。
「当然あるさ。始めてくれよ」
チラリと意地の悪い笑いを含んだ紫を向けられ、宵闇もそれ以上何か言うのを諦めた。
(どう誤魔化したもんか。
少なくとも、あんな怖くて過激な破壊魔に惚れた覚え無ぇなぁ……
でも何か放っとけねーっつーか、無茶させたくねーっつーか……)
数秒考えてみても明確な答えが出なかった。
取り合えずの結論で、「ただの仕事仲間だ。それ以上でも以下でもない」と無理矢理頭の中を切り替える。
雑念を追い払うように頭を少し振って、ラグの横に座った。




