098 顔合わせ
リデルのおかげで多少なりとも場が和み、食事が終わったところで翌日からの仕事を確認する。
奥の小さなテーブルに移動して、広げた地図を見ながらラグが説明する。
「日中は宵闇が側で警護。
オレはあんたがよく出入りする家とか店とか、小隊の詰所とか議会場とか、そーゆー所の見廻り兼、何かあった時のサポート。
夜は寝るとこに合わせてニ人とも近くで見張り。
ああ、家の周りは宵闇が線でトラップ敷いてるから、できればそこで休んでもらいたいな」
「わかった。
おれは明日からの一週間、できる限り仕事減らしてあるんだ。
ここの皆にはその穴を埋める為のメンバーと、周辺で動いてもらうメンバーとに別れてもらってる。
周辺メンツはこの四人。」
フェリオンが自分の横に並ぶ四人の方を向く。
背が高く細身黒髪の男・コール。
それより少し背の低い、髪と瞳がフェリオンと同じの青年・ニクス。
ラグと背丈が変わらない、女性にしては大柄で傭兵然とした赤毛のルイーズ。
逆に小柄で茶金髪を二本のおさげにした、ワンピース姿でただの町娘にしか見えないメル。
「じゃー実際に俺達とまともに組むのは、あんたら四人ってことか」
「そうよ」
宵闇の言葉をルイーズが短く肯定する。
「えっと、一応僕はリーダーの影武者って言うか、囮の役目も持ってます。
だからリーダーとは別に行動する予定です」
ニクスが小声で説明し、横のコールが引き継いだ。
「で、俺はニクスに引っ付く係。
知ってるだろうが、リーダーが身を守るだけなら俺達もあんたらもいらねーんだ。けど囮がいた方が捕まえやすいだろ?」
「それやるとどっちが襲われるか解んなくねーか?」
手間が増えると渋い顔を浮かべた宵闇に、フェリオンが首を振った。
「あっちを分散させれば、引っ掛かってくれる数も増えるかもしれない。
ニクスとコールはおれの仲間内でも防御に秀でた2人だから、そう簡単にやられないしさ」
そして、とおさげの少女を見る。
「メルはちょっと変わった術士でさ。攻撃役にも治癒役にも連絡役にもなる」
少女は恥ずかしそうにぺこりと頭を下げた。
「二つ提案」
黙って説明を聞いていたラグが軽く手を上げて口を開いた。
「何?」
「悪いけどオレら、あんたらがどれくらいできんのか知らねえからさ。見せてもらいてぇんだわ」
その言葉を聞いてコールの眉間に皺が寄る。
「それは俺達を馬鹿にしてんのか?」
「違う違う」
不快感を露に睨み付ける男を見上げて紺髪の青年は手を横に振った。
「何ができるか全然知らねえのに、いきなりちゃんと協力できるかって話だ。
あんたらも、オレらのことはあんまり信用できねえって感じだし。
お互い過大評価も過小評価もしねえ為に、最低限仕事で使うかなって程度は手の内見せ合おうぜ」
「手合わせしようってことかな?」
「良いんじゃないかしら。隊長の話を疑う訳じゃないけど、それを言うだけに見合う能力が彼らにあるのか見ておきたいもの」
フェリオンの言葉にルイーズが頷いた。
口調こそ穏やかだが彼女の茶色の瞳がギラついている。ラグの言に腹を立てているのか、単に好戦的なのか宵闇には分からないが。
「そうですねぇ。何かある前に見せて戴けるのはありがたいお話ですし」
メルも同意する。
「うーん……やってもいいけどさ」
茶髪の幻将は天井を見ながら暫く唸り、苦笑した。
「ある程度本気出して闘り合おうってことだろ?体力も消耗するだろうし。
お互い怪我はさせないって約束できるかな?」
紺髪の青年は即頷く。
「大丈夫だ。
一線越えちまったら仕事が滞って最悪おじゃんになるのはオレだってわかってるさ。
何だったらオレらとあんたらと、同じ所属同士でやりゃ加減もするだろ」
フェリオンは自分の部下達の顔を見る。
「僕はいいですよ。
それが終わってからでも囮役の準備はできますし」
ニクスの横でコールも頷いて賛成した。
これを提案してみる事は予め合意していたので、宵闇も目線で同意を示す。
決定権を持つ青年はしばらく迷ってから頷いた。
「わかった。
それも必要かもしれないね……明日にでもできるよう場所を手配しよう」
「もう一つは人数か?ラグ」
「当たり。お前もやっぱ思ったか」
宵闇は首を縦に振る。
「ダミー作戦は、まあいいかもしれねえけど、この面子をさらにニつに分けるって事になるだろ?
囮兼足止めでニクスとコールの旦那。
補佐兼連絡役でメル。
ルイーズがどっちに入るのかは聞いてねぇけど、フェリオンを数に入れたって、術の的にされたらすぐには動けねえ。
向こうが何人来るかわかんねーが、近くで即動けるヤツを追加した方が確実だと思うぜ」
腕組みして他のテーブルを見ながら言う青年の言葉に、真っ先にメルが返した。
「隊長から聞いている話だと、ラグさんがそれに向いていそうな気がするのですが?
見回りだけならニクスさん達にしてもらったり、わたしでも出来る事ですし、あまり大人数だと警戒されます」
どうやらこの少女は参謀も兼ねているらしい。彼女が指摘した通り、ラグは攻撃役にはうってつけだが、指された本人が首を振る。
「見回りってのは罠や仕込み毒の対策込みだ。
こーゆーのはその道でやって来た人間が当たらねえと犠牲が増えるぜ?
まぁ、雇い主がいいなら従うけどよ」
「どうする?」と込められた紫の視線に、少女は暫し考え込んだ。
数秒後に向けられた窺うような眼を察してフェリオンが頷く。
「宵闇とラグはそうした道のプロだよ。慣れてるだろうし頼んだ方がいい」
「さっき任せるって言ったしね」と宵闇に笑みを向ける
「でも、こっちに人数増やすと仕事が滞るかもしれないから、呼ぶのは一人が限界だ。
メルはその範囲で最良を考えてくれるといい」
「じゃあ……」
咳払いを一つしてメルは離れた席を見る。
「人数追加を考えて組み直します。
後悔しないで下さいね?」
クスッと笑ったおさげ少女の言葉の後半は、ラグに向けられたものだった。




