記録
紺髪の青年が建物の角に消えるのを見送り、再び屋根上から借宿の窓へと飛び移った宵闇は、まっ直線にさっき友人が座っていたベッドへと近づいて、端に放り出されていた厚布製の小袋へと手を伸ばす。
中を開けて探ると、底から黒くて小さい箱が出てきた。収まっていたのは小型の投影水晶。
ベッドに腰掛け、暫しじっとそれを見つめる。
回すと浮いたが、何の表示も声での記録もない。
(ラグの誕生日と……連番って、ギルドで使ってる指名番だよな)
水晶の側面を触って文字を入れられる状態に操作し、出てきた半透明の水色の板に指を滑らせる。
”0423152“
入れ終わってからきっかりニ秒。立った状態で浮いていた八面体が強く光って横倒しになった。
浮かび上がったのはラグの筆跡で書かれたメモの画像。
『0904、黒巻きの件を伝えておこうと王佐の所へ行く。偶然リーク殿下も用があったらしく、宵闇に関係があると言う事でその話に同席した――』
記録とも日記とも見れる形のそれを読み終えた青年は、黙って水晶を止めると、それを握ったままはーっと長い息を吐いた。
「マジかよ。これ」
『王佐からの又聞きだから鵜呑みにだけはすんな』
ラグの言葉が蘇る。
アスベルの事だから都合の良いようにねじ曲げて説明するぐらいは当然やるだろうし、だからこそリークもラグも言わなかったのは納得できる。
しかし少なくとも一つ、正しいと言う嫌な確信があった。
前の事件の時に願った
『水の無い場所を!』
己の持つフラグメントは、やはり壁ではなく場所を創るものだったのだと。
もし十六夜とか言う先代が、それを自在に使えたとしたら。
もっと創造できる『場』が広かったのならば。
(何つー事願いやがった!!)
怒りと、吐き気に襲われた。
仮に『関係者からの記憶の消去』だけを願ったなら、今その遺物を宵闇が持っている事の説明がつかない。
自分の中の何処にあるかも解らないそれを抉り出したくなる衝動に駆られる。
防御壁を作る力、だなんてとんでもない。もっと性質の悪いものだ。
(何も知りませんって顔して、翼島の犬に成り下がって)
「そう、思うよな」
眼を隠すように、水晶を握っていない方の手を額に当てて呟く。
黒翼狩りが十六夜の件と無関係とは思えなかった。
あれが遺物の事を隠蔽する目的で発布されたとして、逃れた生き残りが十六夜のやった事を知ったなら恨むだろう。
自分が本当に次の幻将のはずだったなら、同族を売ったと思われるのも無理はない。
(だから、朔姉はあれほど)
考えかけて首を振った。
(俺が同族売ったかもしれねえってだけで、あんなのになるか?)
穏やかだった従姉がああなってまで宵闇を恨み、十六夜になり代わろうとし、門に執着したのにはまだ何かあるように思えた。
『取り戻すわ。
あんたが無関係に殺した人達を!!』
憎悪と悲壮の入り交じった、泣きそうだった少女の顔。
(あれは……)
どちらにせよ、この記録だけだと動機の一部程度しか朔の行動に関する様な手掛かりは読み取れなかった。
(門の事教えたのは誰か、そもそも門ってのが何なのかまだよく分かんねーもんな。
これからどうやって探すか……)
ラグがさっき三つ目の選択肢をわざわざ出したのは、前にリークを焚き付けたからか、黒翼島跡で何か話したか、どちらにせよフェリオンが三年前の件に噛んでる可能性が高いからだと思う。
(だったらやっぱ、とりあえずあいつに訊いてみるのが一番だよな)




