干渉
「リーク様!手をお離し下さいませ!このままでは貴方様まで飲み込まれてしまいます!」
「断る!」
ゆっくりとだが、沼に落ちたように石板に波紋を描いて沈みゆくディーラの腕を、リークは必死で引っ張る。
巻き込まない範囲で空間破砕を使い石板を壊そうとするが、白い欠片を舞わせるだけで効果は得られていなかった。
(どんどん引きずり込まれて行く!
どうすればいい。
どうすれば助けられる!?)
姿を偽っている後ろめたさはあるものの、リークにとってディーラは親しく話ができる唯一の友人であり妹分と言ってもよかった。
それを失うかもしれない恐れを振り切るように手に力を込める。
「お前も諦めるな!しっかり手を握り返せ!絶対に離すんじゃない!!」
『大変そうだね。
少しだけ手を貸すとしようか』
「!!」
突然斜め後ろに現れた気配と、複数人の声が混じった奇妙な発音の言葉にリークの肩が強ばった。
周囲の空気が凍りついたように張りつめる。緊張や圧力とは違う、時間の流れが止まったかの様な異質さを覚えた。
「セリシア殿?」
胸の辺りまで沈んでいたディーラが目を丸くして声の主を見る。
『やあ初めまして。
わたしは『風』彼女の身を借りてここに立っている。
ゆっくり話す時間は無い。翼島の幻将に一つ訊こう』
現れたセリシアらしくないセリシアは、「時間が無い」と言いながらどこか落ち着き払った様子で前にそびえる巨大な赤色の石板を見上げる。
『その娘を助ける為に、己をさらす覚悟はあるかな?』
「?」
「!」
疑問を顔に浮かべるディーラと、目を見開くリーク。
『君にかかっているその術は、君と君の剣の繋がりを少なからず阻害する。彼女を助けるのに邪魔なのだよ』
「…………本当なのか?」
『決断するのは君だ』
青年は俯き、顔を上げてまっすぐ友人を見、斜め後ろを振り向いて答えた。
「それでディーラが助かるなら」
『良い答えだ』
言葉と同時に虚ろだった青紫の瞳に光が宿る。
「では、リーク様の『偽型』を解除します。
ディーラ様。どうかお気を確かにお持ちくださいますよう」
「……っ」
リークの身体が淡く発光し、縮んで少女の姿へ変わるのを、ディーラは唖然として見た。
術解除の負荷で膝をつく少女を見下ろして、再び様子の変わったセリシアが語りかける。
『これで君の剣は効率的に扱える。それから……』
指を弾いた。
『我は風。我が役目において、殲滅の剣の鞘を外す』
「!!」
がくんとリークの左腕が下がる。
「……っ!
貴様何をした!?」
酷く重くなった自分の剣の先で地面を擦りながら抗議の声を上げる少女に、風と名乗る者は笑う。
『封を少し解いただけさ。
それなら、この在るべきでない物も壊せるだろう。
望み通りその娘も助かるよ』
「…………」
無言で一気に高く掲げられた剣が、破砕音を立てながら振り下ろされた。
「ディーラ!」
赤い石板は砕かれた場所から粉になって風に溶け始める。
ディーラの腕を掴み直し、渾身の力で引いた少女に、粉の渦から逃れた娘が正面からぶつかって倒れた。
その後ろでセリシアも膝をつく。
重なって倒れている二人の少し後ろ。
赤い粉の殆どが見えなくなった奥で、黒々とした靄で出来た腕らしきものが、苦しむようにくねりながら消えたのを青紫の瞳は捉えていた。
『見えたかい?』
耳元で囁く、つい今まで自分を操っていた姿のない者の声。
『あれが、道の先に在るモノ。気を付けることだ』
それきり声は聞こえず、張り詰めていた周りの空気も和らいだ。




