正体(2)
黒翼の島が災害に見舞われた時その場にいた訳ではないが、それより以前に自分が島を出た事で別れきりになった姉にも近しい人の顔を忘れるはずがない。
(生きてた!)
宵闇がバークオルドの所で眼を覚ました直後は、黒翼種追放令のせいで災害の生き残りを知ることができなかったし、その後も生死すら掴めなかった。
再会は半ば諦めていたし、無理に調べて結果を知る事が少し怖かったのもある。
(生きてたってのに、何でだ!
これは、何だよ!!)
ギリギリと痛みを訴える胸を握るように爪を立て、白い欠片を纏った赤紫の火柱を見る。
一つ年上の従姉・朔は幼なじみで親同士も仲が良く、兄弟姉妹のいなかった宵闇にとって、実の姉にも等しい存在だったのだ。
朔の両親が病で他界してからはしばらく同じ屋根の下で暮らしていた程だ。
疑問ばかりが脳内を廻る。
彼女の錬気は槍や礫のような攻撃的なものではなかったはずだし、喋り方もあんな子どもっぽさを含んではいなかった。
性格的にも、こんな事は到底しそうになかったのだ。
むしろ閉鎖的な島を出たがる宵闇を心配しつつ、
「それが宵闇の本当に望んだ事なら応援するわ」
と、穏やかに笑って両親の説得に協力してくれたような――
「朔姉!朔姉なんだろ!?
何でそんな姿になってんだよ!何でこんな事してんだよ!
何で……っ
一体何があったんだよ!!」
火柱の中にいるはずの従姉に叫びが届いているのかどうか分からない。
地面に体を縫い付けようとする圧力に逆らい、宵闇は必死で足を前に出した。
「宵闇の様子がおかしい」
至近距離で落ちた落雷の衝撃に耐えて木々の間から様子を見たリークは、黒髪の青年が敵のいる場所に向かって何かを叫んでいる事に気づいた。
「姉、と聞こえました」
「姉だと?」
「はい」
ほとんど怪我が治ったディーラが立ち上がってリークと同じ場所を見る。
「朔姉と。
あの方自身も今まで気付かれておられなかったようで……なぜそんな姿を、なぜこんな事を、と。
とても動揺されています」
離れた距離と破砕の立てる音の嵐の中でも、ディーラの耳は青年の叫びを正確に聞き取っていた。
「それが本当なら、宵闇殿は……」
「闘えんだろうな」
セリシアの懸念を、青年は眉根に皴を寄せながら肯定する。
「それどころか壁も作らずに奴に近付こうとしている。
殺してくれと言っているようなものだ!」
言うが早いか青年はその場から走り出した。
「リーク様!」
セリシアが手を伸ばしても届きようのない場所まで白と赤黒の斑を作った背が遠くなる。
「大丈夫です。わたくしがリーク様を守ります」
ディーラもそう言葉を残して走り去る。
「…………」
できることならセリシアも追いたかったが、怪我と術の多用などでの疲労はすでに彼女の膝を折るほどになっていた。
地面を踏みしめて立とうにも、力が入らずただ震えるだけの足に苛立つ。
(?)
ふと、力を抜いてみても足にまだ震えが伝わっていることを疑問に思った。
足ではなく、その上のポケットの中が震えている。
震動の元は銀色の小石。
宵闇から「調べてくれ」と預かったあれだ。
ひとりでに震え、細かいヒビが入っていく小石を手のひらの上にのせてじっと見る。
「何が・・」
『これは、面白くないね』
「!!」
唐突に声が降ってきた。
高いのか低いのかよく分からない、何処となく発音のおかしい声。
ギョッとして顔を上げるも、視界を埋めるのは鬱蒼と繁る樹木と草花のみだ。
『現世と己を繋ぐ身体がその様になってでも、門の構築を防ごうとするあたり、流石は『牙』の者の執念、と言ったところかな?』
「…………」
『だが欠片だけでいくら努力しても無理な話さ。
お前もそうだ。アスベルの従者』
「……姿を見せなさい。
お前は誰で、なぜ我が主を知っているのです」
剣の柄に手を当てて虚空を睨む女性の青紫の眼に、枝から飛び下り、人間がするように片足ずつ前に出して歩いて近づいてくる奇妙な鳥が映った。




