雷鳴
「なるほど。そのゴーレムの関係を繋げば、確かに遺物に関しても解るかもしれませんね。
調べてみます」
「頼む」
宵闇が湖に潜ってしばらく。最初に異変に気付いたのはグルムだった。
リークとセリシアは、少年にはよく解らない話をしていた。
何をする目的も見つけられず足手纏い覚悟でディーラの所に行くことも躊躇われたので、仕方なくグルムはリークとセリシアの近くで、話が終わるのを待っていたのだ。
ふと、自分の背から生える長い尻尾に似た二本の触手に違和感に気付く。
(地面が揺れてる?)
おそらく獣人でも鋭くなければ感づけない程のわすかな振動。
だが、小さいとはいえ大地が震え続ける経験の無い感覚に、少年は寒気を覚えた。
「何で……何処から……」
「どうした?グルム」
セリシアと話し終えたらしい白銀髪の青年が少年の動揺に気づいて振り向く。
「地面が揺れてるんです」
「地面が?」
リークは怪訝な顔をしつつ掌を大地につける。数秒後首を横に振った。
「……悪いが、私にはわからんな」
「でも、本当に」
「お前の言う事を疑うつもりはない。
振動の元は解るか?」
「こっちの方向だと思うんですけど……はっきりとは」
自信無さげに、グルムは泉から少し離れた場所を向く。
リークは小さく頷いて少年の示した方へと歩き、木が生えている手前で足を止めた。
「私の術では何処まで調べられるかわからんが」
呟いて『探索』を使う為に意識を集中させ始める。足元から範囲を広げようとした矢先に後で見ていたグルムが叫んだ。
「り、リーク様!上……何か嫌な感じがします!!」「上?」
触手の毛を逆立てて上を向いている少年を振り返り、その顔の向きに沿って上を見上げたリークの眼が見開かれる。
視線の先、何キロか離れた上空に、あまりに不自然な雲の渦ができていた。
「何だ!あれは!?」
カッ!!
雲の渦の中心から発射されるように、空から森の奥に稲妻が突然落ちた。
白光が眼を眩ませる。
ドォン!!
「ぎゃっ!」
「くぅ!!」
腕で顔の前を覆ったリークの耳を、一拍遅れた轟音が襲った。
耳を押さえて音が生み出した空気圧の暴力に耐えながら気付く。
(これは『剣』の気配……急に強くなった。
もしや奴を喰ったのか?
だがこの雷は、一体ディーラの方で何が起きている?)
「グルム!大丈夫か?」
「は、はい。何とか。
ちょっと、聴こえにくいですが……」
音に耐えきれずうずくまっていたグルムがよろよろと立ち上がる。
「リーク様!グルム殿!」
自分の術に集中していたセリシアも異変に気付いて走り寄って来た。
「あちらの方角は、」
「私の剣の気配がする。
ディーラの所で何かあったんだ」
「嬢様が!!」
少年が血相を変える。
「ボクに行かせて下さい!嬢様が危ないかもしれないのに、もうここで待つなんて嫌です!!」
半泣きで懇願するグルムに青年は頷きで返した。
「先行して状況の確認と、向こうにお前の仲間が残っていれば、足の速い者を迎えに寄越してくれ。
宵闇に状況を伝えたら我々も直ぐに駆けつけるから、それまで絶対に無理はするな。
約束できるな?」
「はい!」
少年が地面に開けた穴へと姿を消すと同時にセリシアが投影水晶を取り出して回す。
「宵闇殿、聞こえますか?セリシアです。
宵闇殿?」
『……こえ
聞こえてる!……っちでも何か……ったか?』
途切れ途切れに流れて来た宵闇の声に、リークとセリシアの顔の険しさが増す。
「我々は特に何も。
ですがディーラ様の所で何かあったようなので、今から向かうつもりです。
貴方の読んだ通り、そちらに遺物があったのですか?」
『ああ!い……の底で……んでやがった!
俺いまそっ……に向かっ……喰われかけた……く翼のが………………逃げろ!!』
ブツンと通信が途切れたのと、背を向けていた泉から大きな水音がしたのは同時だった。
振り返ったその前で、二人の身長をゆうに超える高さの水柱が何本も上がり、柱の先から現れた黒い槍が所構わず辺りに降った。
「なっ!」
「下がっていて下さい!リーク様!!」
リークを庇って大剣で槍を弾き落とすセリシアの眼に、大きな赤紫の光が飛び込んだ。
赤紫に明滅する巨大な異形から生えた見覚えのある人物の上半身、俯いていた顔が濡れた髪を振り乱して跳ね上がる。
爛々と輝く常軌を逸した薄黄の瞳と眼が合った。
「あら、あなたたちもいたのね?」
「何ですか、その醜い姿は」
「クス」
構えた銀髪の女性に少女の口端がつり上がる。
「セリシアッ!!」
白い腕に背中を押されて倒れた直ぐ上を黒い槍が風を纏って飛んでいく。何メートルか離れた場所でそれは回転して再び先を二人へと向けた。
直ぐに姿勢を戻して横に飛び、攻撃をやり過ごす。
「黒翼の錬気か……追ってくる槍とは面倒だな!」
「全くです。」
背中合わせになって警戒するリークとセリシアの周囲で、地面に突き立っていた物も浮かび上がった。
数秒も経たずに一斉に生み主の敵を照準する。
『我有するは魔、我属するは星、我求めるは土、我創るは壁……ウォール!!』
リークの前に現れた四角い結晶の壁に槍が突き刺さり、一瞬の間を空けて壁を砕いたそれは避ける青年の脇腹を掠めて地面に突き立った。
「リーク様!お逃げ下さい!」
「く!」
片膝を付いたリークを狙って他の槍も降り注ぐ。
(まずい、逃げ切れん!)
槍の飛んでくる様子がひどくゆっくりに見えた。
自分が何本もの槍に貫かれる光景が頭を過り―――
視界に飛び込んだ暗緑のマントで、その光景が吹き飛ばされた。
「動くなよお前ら!!」
ボッ!ボボボボボボボン!!
自分とセリシアと現れた青年を囲む半球に、自らぶつかりに来た槍が鈍い音を立ててことごとく霧散する。
「よかったぜ間に合って!
水晶壊れちまったし、何せ泳ぐのが大変でよ。
ちょっと時間かかっちまった!」
びしょ濡れの宵闇が肩越しに振り返ってニッと笑った。




