ディーラたちの奮戦
昇った日が、荒れた大地を明るく染める。
黒翼の少女と獣人の娘の決着は未だついていなかった。
ディーラの仲間の十数人は、彼女自身の命令に従って身を隠し、茂みの中や木の上などから敵の隙を伺っている。
仲間を引かせたのは、相手の異常性に彼らでは太刀打ち出来ないと判断したからだ。
キシン!
「!」
ディーラの眼の前で突然景色に入る僅かなひび割れ。
割れ目が広がる一瞬の間に、その場を離れて敵との間合いを詰める。
「ーーいい、加減に!」
勢いを乗せて放った蹴りが少女の脇腹へとめり込んだ。
「沈みなさい!!」
ベキ、と明らかに骨の折れる音を立てて少女が吹き飛ぶ。
「今です!!」
「承知!!」
茂みに隠れていた獣人がここぞとばかりに、石と言うより岩に近いものを敵が飛ばされた場所へ投げつけた。
風を切って飛ぶそれは、狙いを過たず直撃して土煙を上げる。
だが直後。
「後退!」
ディーラの叫びと同時に、岩を投げた獣人が大きく下がって茂みに隠れた。
一瞬遅れてその辺一帯の景色が何ヵ所か割れる。
舞い散る白い破片。
「いい加減にして欲しいのはこっちよ。大勢で寄ってたかって酷いわ」
(やはり、駄目でしたか)
ディーラは思わず唇を噛んだ。
前に一度群を襲われた時にもこうだった。
何故かその時は向こうが大人しく引き下がったが、今回は退く気配が無い上に前よりも復活が早い。
(一体、何なのです。
まるで不死身ですわ)
獣人内でもずば抜けた運動能力を持つディーラだからこそ、変則的に襲い来る礫と破砕を大して苦もなく捌ききっているが、いくら何でもそれが無限に続けられる訳はない。
だが相手は、少なくとも一撃二撃で与えられる程度のダメージでは即回復するようなのだ。
(でも、こうしているのは全くの無意味でもない)
苦々しい気持ちを強気で押し殺して、獣人の幻将は相手の右手を見た。
「お前に責められる謂われはありません。
もっとも、リーク様の大切な剣を奪った報いはすでに受け始めているようですね」
わざと挑発の笑みを作って訊ねるディーラの頭の中で、何気ない会話が思い出されていた。
『リーク様の剣、真っ白でとても綺麗ですわね』
『気になるなら触ってみるか?』
『宜しいんですか?』
『ああ。だが、絶対に使ってみたいとは思うな。
この剣は私以外が使おうとすれば、その者を喰う』
『まぁ!剣が人を食べるのですか?』
『ああ。喰えば剣の力が強くなるが、その分負担も増える。
何より、お前を殺して強くなった剣を使うなど、私には耐えられん。
だから、使わないと約束してくれるならば』
昔リークが話してくれた自分の武器の秘密。
実際に目の当たりにする日が来るとは思わなかったが、今のディーラ達にとって明るい要素ではある。
(時間を稼げばそのぶん有利になるはず)
「煩いわね」
伸びた白い剣の柄に、肘の辺りまで這い上られた腕。
侵食を拒むように淡く境の部分が光る場所を撫で、黒翼の少女は目尻をあげる。
「別に構わないわ。こんなの。
どうせわたしは……」
声にならずに空気だけ震わせたわずかな音を、ディーラの耳が捉えた。
「?」
「貴女の事、とても羨ましいの。めちゃくちゃにしてあげたいくらい!」
月の眼が冷たい憎悪を宿していた。少女の体が仄かに紫の光を纏い、拡げていた翼が飴のように溶け始めた。
キュキュキュキュキュキュ!
「!?」
空中に現れた数十の黒い礫が、風を切ってディーラと辺りの森一帯に雨のごとく降り注ぐ。
その礫の隙間を埋めるように、景色にいくつもひび割れが発生した。
(急に形振り構わなくなりましたわね!)
避けるので手一杯になったディーラの耳に仲間の呻き声が僅かに聞こえた。
「皆!逃げなさい!!」
「よそ見してる余裕がまだあるのね」
「つっ!」
浅く片足に礫がかする。
「良いわよね、大事にし会える家族がいて、仲間がいて」
礫の数は更に増し、動きも鋭くなってゆく。
「思いやる相手なんか、わたしにはいないわ。居なくなってしまった」
声には明確な憤りが混じっていた。
かつて黒翼種の島が災害で崩壊したのは、勿論ディーラも知っている。
推測しか出来ないが、彼女が見た目通りなら、その事で無くしたものも多いだろう。
「わたくしの同胞を苦しめたのは、貴女が失った何かの腹いせとでも言うつもりですか!?」
ディーラの叫びに耳障りな笑い声が返された。
「それだけじゃないけど。それも有ると言ったらどうなの?
同情でもして、お願い聞いてくれる?」
「馬鹿なことを!はた迷惑にも限度がありますわ!!」
吐き捨てるも、傷が増えればその分動きが鈍っていくのは明白だった。
(このままでは、押しきられてしまう。
でもこれ以上、逃げて誰かを巻き込む訳にはいきませんわ!)




