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Lost fragment ーロスト・フラグメントー  作者: Konori
第3章 獣人島編
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ディーラたちの奮戦

 昇った日が、荒れた大地を明るく染める。


 黒翼の少女と獣人の娘の決着は未だついていなかった。


 ディーラの仲間の十数人は、彼女自身の命令に従って身を隠し、茂みの中や木の上などから敵の隙を伺っている。

 仲間を引かせたのは、相手の異常性に彼らでは太刀打ち出来ないと判断したからだ。


 キシン!


「!」


 ディーラの眼の前で突然景色に入る僅かなひび割れ。

 割れ目が広がる一瞬の間に、その場を離れて敵との間合いを詰める。


「ーーいい、加減に!」


 勢いを乗せて放った蹴りが少女の脇腹へとめり込んだ。


「沈みなさい!!」


 ベキ、と明らかに骨の折れる音を立てて少女が吹き飛ぶ。


「今です!!」

「承知!!」


 茂みに隠れていた獣人がここぞとばかりに、石と言うより岩に近いものを敵が飛ばされた場所へ投げつけた。

 風を切って飛ぶそれは、狙いを過たず直撃して土煙を上げる。

だが直後。


「後退!」


 ディーラの叫びと同時に、岩を投げた獣人が大きく下がって茂みに隠れた。

 一瞬遅れてその辺一帯の景色が何ヵ所か割れる。


 舞い散る白い破片。


「いい加減にして欲しいのはこっちよ。大勢で寄ってたかって酷いわ」


(やはり、駄目でしたか)


 ディーラは思わず唇を噛んだ。


 前に一度群を襲われた時にもこうだった。

 何故かその時は向こうが大人しく引き下がったが、今回は退く気配が無い上に前よりも復活が早い。


(一体、何なのです。

まるで不死身ですわ)


 獣人内でもずば抜けた運動能力を持つディーラだからこそ、変則的に襲い来る礫と破砕を大して苦もなく捌ききっているが、いくら何でもそれが無限に続けられる訳はない。


 だが相手は、少なくとも一撃二撃で与えられる程度のダメージでは即回復するようなのだ。


(でも、こうしているのは全くの無意味でもない)

 

 苦々しい気持ちを強気で押し殺して、獣人の幻将は相手の右手を見た。


「お前に責められる謂われはありません。

もっとも、リーク様の大切な剣を奪った報いはすでに受け始めているようですね」


 わざと挑発の笑みを作って訊ねるディーラの頭の中で、何気ない会話が思い出されていた。




『リーク様の剣、真っ白でとても綺麗ですわね』

『気になるなら触ってみるか?』

『宜しいんですか?』

『ああ。だが、絶対に使ってみたいとは思うな。

この剣は私以外が使おうとすれば、その者を喰う』

『まぁ!剣が人を食べるのですか?』

『ああ。喰えば剣の力が強くなるが、その分負担も増える。

何より、お前を殺して強くなった剣を使うなど、私には耐えられん。

だから、使わないと約束してくれるならば』





 昔リークが話してくれた自分の武器の秘密。

 実際に目の当たりにする日が来るとは思わなかったが、今のディーラ達にとって明るい要素ではある。


(時間を稼げばそのぶん有利になるはず)


「煩いわね」

 

 伸びた白い剣の柄に、肘の辺りまで這い上られた腕。

 侵食を拒むように淡く境の部分が光る場所を撫で、黒翼の少女は目尻をあげる。



「別に構わないわ。こんなの。

どうせわたしは……」


 声にならずに空気だけ震わせたわずかな音を、ディーラの耳が捉えた。


「?」

「貴女の事、とても羨ましいの。めちゃくちゃにしてあげたいくらい!」


 月の眼が冷たい憎悪を宿していた。少女の体が仄かに紫の光を纏い、拡げていた翼が飴のように溶け始めた。

 キュキュキュキュキュキュ!


「!?」


 空中に現れた数十の黒い(つぶて)が、風を切ってディーラと辺りの森一帯に雨のごとく降り注ぐ。

 その礫の隙間を埋めるように、景色にいくつもひび割れが発生した。


(急に形振り構わなくなりましたわね!)


 避けるので手一杯になったディーラの耳に仲間の呻き声が僅かに聞こえた。


「皆!逃げなさい!!」

「よそ見してる余裕がまだあるのね」

「つっ!」


 浅く片足に礫がかする。


「良いわよね、大事にし会える家族がいて、仲間がいて」


 礫の数は更に増し、動きも鋭くなってゆく。


「思いやる相手なんか、わたしにはいないわ。居なくなってしまった」


 声には明確な憤りが混じっていた。

 かつて黒翼種の島が災害で崩壊したのは、勿論ディーラも知っている。

推測しか出来ないが、彼女が見た目通りなら、その事で無くしたものも多いだろう。


「わたくしの同胞を苦しめたのは、貴女が失った何かの腹いせとでも言うつもりですか!?」


 ディーラの叫びに耳障りな笑い声が返された。


「それだけじゃないけど。それも有ると言ったらどうなの?

同情でもして、お願い聞いてくれる?」

「馬鹿なことを!はた迷惑にも限度がありますわ!!」


 吐き捨てるも、傷が増えればその分動きが鈍っていくのは明白だった。


(このままでは、押しきられてしまう。

でもこれ以上、逃げて誰かを巻き込む訳にはいきませんわ!)


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