流された先にて(3)
不安を振り切る様に足早になる。
宵闇の言うように、すぐ戻って加勢することも出来ない訳ではない。
(だが、今の私が行って何になる?)
自分が行けば敵は丸腰の自分を狙い、その攻撃から守ろうとディーラは必死になるだろう。
リークには破砕の予兆が見えるが、獣人程の並外れた五感も運動能力も備わっていない。
それは宵闇とて同じだ。
破砕を壁で防げても、同胞を殺された獣人達が、大人しく固まって護られ続けるとは考えにくい。
彼らの動きについていけるはずもないのだ。
(加勢どころか、足を引っ張る事になる。
だからせめて、彼女の手が回らない部分を何とかできれば……)
宵闇はと言うと、特に掛ける言葉も見つからず、ずんずんと先へ進んでいくリークの背を黙って追いかけていた。
自然と思考に沈む。
自分の、よく解らないまま使い続けているフラグメントの能力。
唐突に出てくる、正体不明の『俺』。
今、ディーラ達が戦っているはずの襲撃者の事。
その少女が……あの黒巻きの奇人が言っていた『門』。
黒翼島跡に残ったラグとフェリオンの事。
(考えてみりゃ、話す種はあるんだけどなぁ……
色々ありすぎて、しかもわかんねー事多すぎて言葉になんねえ)
自然と遠い目になってしまう。
が、それと共に自分の持っていた投影水晶の事を思い出した。
マントの下、ベルトと一体になっている湿った革のポーチへと手をかける。
出した通信具は、二ヵ所ほどひび割れが入っていた。
「うわ、使えんのかこれ……」
木々の間から差し込む、朝の柔らかい光にかざして、難しい顔で壊れかけのそれをまじまじと見る。
「何をぶつぶつ言っている?」
振り返ったリークに、「あー、いや、ほら」とひびの入った水晶を見せる。
「ラグとフェリオンが黒翼の島に残っただろ?
ラグに聞いたら、『門』の手掛かり解らねーかなと思ってよ」
「ああ、失念していたな。
話せそうなのか?」
「今やってみる」
ラグの持っている水晶に繋がるよう操作して、ゆっくり回す。
「お!何とか浮かんだな」
「なら、大丈夫だ。
後はあちらが通信に出るかどうかだが……」
『あ~?誰だ朝っぱらから!今何時だと思ってやがんだ?』
ほどなく、ふらふらと頼りなく浮かぶ水晶から、雑音混じりに気だるげな声が流れてくる。宵闇とリークは顔を見合わせて失笑した。
『つまんねー事なら潰……』
「ラグ、俺だ。宵闇」
『宵闇?ああ!』
やっと目が覚めたらしい。
『繋げてくるって事は無事なんだな?セリシアねーさんはいたのか?
てか、姿見えねーんだけど』
「一応無事だ。姿見えねぇのは、多分こっちの水晶が壊れかけだからだな」
ラグの声に笑いながら返事して、一拍置く。
「たださ、セリシアさんは一応見つかったけど、面倒事がまだ続いてんだ。
それでお前に聞きたい事があってな」
『何だ?』
流れてくる声も真剣味を帯びる。
「黒翼の島で黒巻きが言ってた『門』、あれからそれらしいのが見つかったか聞きてぇんだ」
『……それ聞くって事は、そっちも『門』がどうだの言ってやがるのが居んのか?』
「まあな。あの黒巻きと関係は無さそうだったけど」
『そっか。
すまねーが、あの後調べた限りじゃ、それっぽいのは見つからなかった。
アスベルの旦那にも一応話はしたが、「調べとく」だそうだ。
今から聞いた処で似たよーな返事だろうよ』
ラグの返事に少しだけ落胆する。やはり、そううまくはいかないようだ。
「わかった。俺の方こそ悪ぃな、休んでるとこ朝早くに繋いじまって」
『別にいいさ。
あぁ、今ちょっと思いついたんだけどな。
確かあの変態の眼になってた石、お前に渡してただろ?あれを元にして侵径探査でも使ってみたらどうだ?』
「侵経探査?」
聞き慣れない単語に首を傾げる宵闇の代わりに、横で聞いていたリークが頷く。
「月術にそう言うものがあるんだ。
確かにあれなら、あのゴーレム紛いから『門』に関わる何かが解るかもしれんな」
「すぐ試してみる。ありがとな!」
『どーいたしまして。
オレもそっち行く……って言いたい所だが、その島移動塔無ぇし、船も止まってて行けそうにねぇわ。
お前ら徹夜してんだろ?
あんま無理しねぇで、さっさと片付けて帰ってこいよ』
「ああ」
もう一度友人に礼を言って、回っていた水晶を止める。
情報は聞けなかったが、いつも通りのラグの声を聞いて、少し気持ちが軽くなった気がした。
「よし。
んじゃあ一丁『侵経探査』ってのを使ってくれよリーク」
急いでポーチを漁って、銀色の小石を取り出した宵闇に、リークは首を振る。
「悪いが、私にその術は使えん」
「え?だって」
さっき……と言おうとした宵闇に「私は、その術が『ある』と言っただけだ。
そんなにほいほいと使える簡単な術ではない」とため息混じりの言葉が返された。
「だが、出来る奴がこの島に一人いる」
リーク以外で、この島で術を使える人物は、思いつく限り一人しかいない。
「セリシアさんか?」
「そうだ。どの道彼女の力を借りようと思っていた所でな。
『侵経探査』には思い至らなかったが丁度いい」




