黒翼島跡地(3)
「この辺りのはずなんだ」
跳んで来た移動法陣から少し歩くと、荒れ果てた元集落とおぼしき開けた場所に出た。
フェリオンが投影水晶を回して地図を確認する。
「俺が見覚えあるって事は深都のどこかか?
ここにそんなもん無かったと思うけど」
見渡す限り、割れた石畳と朽ちかけた木造の廃屋。あとは木々のみだ。
「偽情報じゃ」と言いかけた宵闇をリークが止める。
「決めるのはまだ早い。このあたりを探してみるべきだ。
人は住んでいまい。
邪魔な所は崩してかまわんな?」
「あ、ああ。そうだな」
「そうだね」
「それでいいと思うぜ」
宵闇とフェリオンとラグの言葉に頷いて、色白の腕が鞘から剣を抜き、周囲の廃屋に青白い円が重なった。
直後の轟音と同時に家だったものが形を無くして崩れ始める。
「これで瓦礫を吹き飛ばしていけば、『壊れないモノ』が出てくるだろう」
表情を変えずに手当たり次第に廃屋を壊し瓦礫を砂に変えてゆく。
そして……
建物を壊しながら集落跡の奥地へと進み、幾度かの白い欠片が舞った後で、唐突な違和感にリークの腕が止まった。
(ーー?)
翡翠の瞳が破壊で生じた土煙の中で座る、不可思議な影を映す。
煙が晴れるにつれ、その姿がはっきりと現れた。
「!!」
4人の内2人は驚愕し、他の2人は警戒の表情を浮かべる。
身体中に巻かれた黒い布。
間から片方だけのぞく銀の瞳。
地面に突き立てられている赤い太刀。
「随分と煩い珍客だ。
『月』と……
久しい、と言うほどでもないか?リック=バートン」
不気味極まりない姿の人物は、座っていた祭壇のような場所から立ち上がりながら、低い声でそう言った。
「お前は……」
「いずれ探すつもりだったが、まさかこの地でとは。
いや、『月』の縁者であるなら不思議でもないな。
ハハ、ハハハ!」
低いがよく通る声で愉快そうに笑う見覚えのある不審者に、ラグが完全に臨戦体制を取りながら舌打ちする。
「何でいやがる。こっちはてめぇに出くわすなんざ吐き気がすんぜ」
(どう見てもまともな奴じゃねぇな。ラグの商売敵か何かか……?)
宵闇の戸惑いは、横に立つリークの表情でさらに大きくなる。
初めて会った時に似た、触ると切れそうな抜き身の刃の空気を纏っているのだ。
少し離れた所に立つフェリオンは、宵闇と同じように戸惑いの表情を浮かべている。
「リーク、ラグ、」宵闇
「『月』と言うのは……」
の声には応えずに、警戒を込めた翡翠の瞳で数メートル先に立つ人物を睨む。
「私のことか?」
「…………」
返事は沈黙。
「リーク、君の知り合いか?」
宵闇がさっきから聞こうとしていた事を、フェリオンが口に出すと、「オレの知り合いだよ」とラグが訂正した。
「こないだ殺されかかっただけの、薄っぺらくて胸くそ悪ぃ知り合いだけどな。
リークには昨日たまたまその話をしてたのさ」
(殺されかかった?)
「そう言うな」
笑いを含んだ声と同時に横を吹き抜ける風。
思考が中断される。
ガキン!
「!!」
ほぼ一瞬で黒布をなびかせた痩身が、宵闇とリークの斜め後ろ、ラグの目の前に移動していた。
同時に振るわれたであろう紅の刃を短刀が弾く。
さばききれずにかすった刃から、血の筋が飛んだ。
「いい判断だ。正面から受ければ体が割れていた」
「てめぇはオレの先生か何かかよ?
そんなもん願い下げだ、ぜ!!」
至近距離からばら蒔かれて引火した、火薬の爆音と炎の後ろに飛び下がった姿が、距離を取ろうとする紺髪の青年へとすぐに近づいて刃を振るう。
「ちっ!」
ギッ!!ガガガガ!
太刀とその持ち主を空間破砕が襲うがギリギリでかわされる。
三度空を裂いてラグに迫る赤い刃を、回り込んだ宵闇の黒い壁が遮った。
「させるかよ!」
「ふん……」
銀の眼が細められ、壁と刃の間に紫の火花が散る。
二、三秒ほどで黒い壁が裂け、腿を一緒に浅く斬られた宵闇と、後ろにいたラグがダッシュで数メートルを離れた。
落雷が追おうと踏み出した足を止める。
そして
ヒュン……ザクッ
「む」
「大した速さだけれど、油断しすぎさ。
これ以上動くと首を失う事になるよ?」
背後から隙を突いたフェリオンの短剣が、黒布を裂いて首と肩の間に深々と刺さっていた。
さらに、刺さった剣の柄から出ている太いワイヤーが首に巻き付いており、フェリオンの腕がそれを締め上げる。
「小僧……」
(あいつ、どんな体してんだよ)
短剣が抜ければ血の海ができるであろう、明らかな致命傷を受けながら、まだ黒巻きは余裕に満ちた雰囲気を纏わせていた。
宵闇の内心と同じ様に、深手を負わせたはずのフェリオンの顔に焦りがにじむ。
「答えるんだ。お前は何者で、なぜここにいる?」
それでも絞りだした問いの答えは、嘲笑じみた小さな笑い。
「逆に我が聞きたいくらいだな。
この地は『月』の場所にして『門』の在りし処。
易々と他者が踏み込んで良いものではない!」
「!?」




