黒翼島跡地(2)
移動塔は読んで字の如く、離れた場所との移動に使う塔のような形の施設だ。
術の盛んなセイングランドとフェルグランドにあり、申請さえすれば、離れた両国の間を一瞬で跳ぶこともできる。
王城の端にある移動塔に三人が行くと、茶髪の青年が入り口の壁に背を預けて立っていた。
「来ていたのか」
「ついさっきさ。
兵舎まで行こうかなと思ったけど、ちょっと待ってれば来るかなって。
……で、そっちの彼は?」
深緑の瞳がラグの方を向く
「ラグ=ディランだ」
「ああ!アスベルの言っていた宵闇の友人が君だね。
俺はフェリオン=ランドル。呼び捨てで構わないよ。
らしくないってよく言われるけど、一応フェルグランドの幻将やってる」
人好きのする笑顔で差し出された手を、紺髪の青年は黙って握り返した。
フェルガリアからフェルグランドの都市ロウェリ。
そこで待っていた、これまたフェリオンの部下らしくどこにでも居そうな、ツインテールのワンピースを着た少女が軽くお辞儀する。
「メル、頼むよ」
「はい隊長、皆さん、お気をつけて」
移動塔がある建物から出た敷地の裏手の地面には、すでに丸い円が描かれていた。
月術の『移動法陣』だ。
「うぇ……やっぱ酔う」
「ああ。これさえなければ便利な術なのだがな」
『移動法陣』独特の景色がひっくり返る感覚に、青い顔をしながら口を押える宵闇とリーク。
前で歩き出すフェリオンとラグはけろっとしている。
「大丈夫かぁ?お前ら」
「よくあれで酔わんな」
言いつつもふらつく足を叱咤して、二人は荒れた砂利道に踏み出した。
まだ昼にも関わらず、鳥の声すら聞こえない森の中の石畳すらない小道を、並んで進んでゆく。
「オレは動き回って飛び回ってってのが得意だから。
あんたもそうなんだろ?フェリオン。
その腰に吊してる短剣の使い方をぜひご教授願いたいね」
「今度模擬戦でもやるかい?俺の場合術に酔わないのはしょっ中あれで移動してる慣れもあるけど」
笑いながら言うラグの挑発じみた視線を、フェリオンは軽く受け流した。
宵闇が友人の言動に違和感を覚える。
「どうかしたか?」
隣からアルトの声。
「いや、大したことじゃねえよ」
(ラグが剣の使い方教えてくれなんて言うの初めて見た)
彼が他人を頼ったり弱みを一切見せようとしない性格なのはよく知っている。
『幻将』と言う肩書きから、フェリオンの腕が立つのは予測できる。
だが、人を信頼するのに相当時間をかけるタイプである紺髪の友人が、初対面で懐に入れるには、どうにも早すぎるように思えた。
(逆にマジで気に入らない相手なら、そもそも関わりたがらねぇもんな。酷けりゃ毒仕込む奴だし。
何かあったのか?)
「宵闇、じっと見んのやめろって。気持ち悪ぃぜ」
「あ、ああ。悪い」
宵闇の様子にラグは、はーっと大きく息を吐いた。
「勘がいいんだか悪いんだか。
心配しなくても大丈夫だ。
オレも似た武器使ってるからキョーミあるんだよ」
腰のベルトに差した短刀を叩きながらへらへらするラグに向けられている、まだ疑わしげな色の混じる月の瞳。
「あんま無茶苦茶はすんなよ?お前、前科持ちだし」
「ハイハイ。
お前も自分の心配しろよ?まだあの黒い壁、ちゃんと使いこなせてねぇんだろーが。
今日は調べもんだからいいとして、そんなんで大丈夫かぁ?」
「う゛……」
「言えてるな」
斜め横から刺さってくる視線。
「練習はちゃんと真剣にしてるっての!」
慌てて言い返す友人の姿にケラケラ笑った後、紺髪の青年は後ろ向きに歩いていた姿勢を前向きに戻して進む。
その紫の瞳には焦り。
(弱いまんまじゃ居られねぇんだよ)
遺物の件から手を引くことも、足手まといになることも真っ平ごめんだった。




