黒翼島跡地(1)
翌朝。
「シルとエイルの隊は外務部隊として常時は砦に。陛下や兄から命令が出れば、基本的にはそれに従って動かせ。
お前とクロンの隊はフェルガリアでの務めをこなし、万一外務隊が足りない事態が起きれば、お前の隊の者数人を頭にクロン隊を付けろ。
私の隊の者はいつも通りお前の下の扱いだ。
いつもすまないが留守を守るのは頼んだぞ、ギース」
「承知しました。
隊長もどうかお気をつけて」
フェルガリア城・騎士団立ち寄所、司令室。
リークは、自分が不在の間のことを騎士団副団長である大柄な男と確認していた。
「なに、今回はただの調べ物だ。この間の様にお前達に混乱を与えてしまう様な事態にはならんだろう」
部屋のすぐ外でやり取りを見ていた宵闇が呟く。
「あいつも大変だよなぁ」
「何しみじみ言ってんだ?」
「だってよ、少し島出るだけで書類だの通達だの。
十七からあんな立場で、父親があの陛下で兄貴がアレなら、石頭になるのも無理無ぇなって」
隣に立つラグに、ため息混じりに返す。
「もう少しぐらい可愛げがあっても…………」
「可愛げぇ?」
リークの秘密を知らない紺髪の友人が変な顔ですっとんきょうな声を発する。
「女いなくて寂しいのは分かるが、よ~く考えろ宵闇?
あの美形で可愛げなんてモンがプラスされた日には、あいつーー」
ギシ……バギン!!
言葉の途中でラグの目の前数センチに白い欠片が舞う。
「おわっ!!」
「聞こえているぞ青毛。
誰が、何だと?」
「リーク殿下以外の誰かの話です」
室内から窓越しに刺さる、翡翠の視線から逃げるように宵闇の後ろに隠れ、ラグは顔だけ神妙にふざけた敬礼をした。
「まったく。人を小馬鹿にするのも大概にしろ」
ため息を吐きつつ言うリークの顔をギースがじっと見る。
「何だ?」
「いえ、その割りにはどこか楽しそうですね、隊長」
「なっ……そんな訳があるか!」
リークは即座に否定するが、彼が騎士団に入った頃から知っている古参の部下は、自らの憶測が外れていないと自信を持って言える。
「アスベル様よりはあの二人の方が、隊長と仲良いように見えただけですよ。
良く思っていなければ、あのような無礼者とは会話もなさらないでしょう?」
「奴と比べれば誰もが『まだマシ』だ」
リークはふいっと顔を逸らして部屋の外へと足を向けた。
(まぁ確かに、あいつら相手の方がまだ気は楽だがな)
家族の情など見せた事の無い父。何を考えているのか全く分からない兄。
生まれ持ってしまった王族の血と、破砕の剣を扱える資質。
それ故に背負う責任はそう言う物だと受け入れてはいるが、どこか息苦しい事も事実だ。
まともに関わった事が無い種類の人間が急に身近に二人も増え、戸惑いもするが新鮮さがそれを上回る。
自分と世界の間に張られていた見えない何かが消えている様な気になる。
もっと端的に言うなら、これが『居心地が良い』と言う事なのだろう。
ーーそんなことは自覚しているが口には出さなかった。
「お前達の準備はいいのか?」
「親父さんには話して5日ほど休みもらったから大丈夫だ」
「オレも同じく」
まだ宵闇の後ろに隠れつつ、ひょいっと片手を挙げるラグに、宵闇は複雑な顔をする。
「なぁ、やっぱラグはあんまり遺物の事に首突っ込まねぇ方がいいって」
「いいからいいから。前みたいなヘマはしねぇよ」
「だといいがな」
「うわキッツ……」
部屋の出入口の側で言葉を交わした後、宵闇はキョロキョロと周りを見た。居るはずの人物が見当たら無いからだ。
「そういやフェリオンは?
俺この前疲れて寝ちまって、あれから会ってねぇんだけど」
「彼なら用事が出来たと一旦国に帰った」
少しだけ不機嫌が混ざったアルトの声。
「もう少ししたら、移動塔を使って来るはずだから、私の雑事が終わり次第向かう」




