宵闇の過去(1)
『陛下やアスベルのする事の意味を、全て知っている訳ではないけれど……三年前の事は確かに変だったわ』
リークの脳裏に母・エレーナの話が甦る。
『あなたも知っている通り、黒翼の方達を皆捕まえて、今だから言えるけどその内の何人も殺してしまったみたいなの。
確かに風土病にかかっていた方もいたようだけど、それを防ぐためとは思えなかった』
『それで、あなたの気にしている、あの傭兵の方……あの時あなたも近くにいたはずなのだけれど、覚えてない?
あの拘束令より少し前に、アスベルが保護した方だと思うの。
わたくしは実際にこの眼で見たわけではないけれど、あの感じは多分間違いないはずよ』
自信はなさそうだったが、エレーナは白翼種の中でも稀有なほど術素養が強い。
人や物を知覚する月系術・『探査』を意図せず常時使っているに等しい状態で、抑えなければ倒れるほどなのだ。
その母が、宵闇を知っていた。
アスベルが宵闇に過去接触していたのは予想していたことだ。だが、
(アスベルが宵闇といたその場に、私も?)
覚えていない。全く。
しかも宵闇にもアスベルや自分を知っていた感じがない。
(拘束令発布の少し前だと?
だとしたらあいつの記憶喪失は、一週間程度ではすまんはず。少なくとも半年以上だ)
ずっと前から何もかも仕組まれ、踊らされていたかの様な感覚。
気味が悪すぎた。
「私が君や宵闇君に記憶操作をね……
術で出来ない訳ではないが、かけるのも維持も困難だ。
考えすぎではないかい?」
「貴様の言葉と母上の探査力は比べるべくもない。
私に意識を失うほど異常があったなら、母上に気付かれぬはずがないからな」
「……」
無言になるアスベルに、『観念しろ』とばかりの視線が突き刺さる。
「答えろ。
どうやって宵闇を見つけ、目をつけた?
手元から離して三年もしてから、偶然に見せかけて引き込んだ理由はなんだ?
そしてなぜ宵闇と面識があったはずの私にその記憶がなく、貴様も素知らぬ振りをしていた!」
「今それを知って、君はどうするつもりかな?
話さなければ、その剣で私を斬り殺すかい?」
手の指を組み直しながらアスベルが問う。
「事によっては腕1本程度は覚悟しろ。
何も知らぬまま躍らされてやるつもりもない」
リークの目線がラグの方へと向けられる。
少しの間上を向いて考えた後、紺髪の青年は口を開いた。
「それには同意見だな。
まぁ今の話に関しちゃオレが何か言う様な立場じゃねぇけど。
あんたのやり口はやられる方にすりゃたまったもんじゃ無ぇからな。
オレはともかく、宵闇とリークにはちゃんと筋通すべきなんじゃねーの?」
「……」
「……」
「……」
やや長い静寂を破ったのはアスベルのため息だった。
「ラグ君の言う『筋』が、はたしてリークの求めている情報と釣り合うのか疑問だね。
知らなくて良い事もある」
そう苦笑を浮かべながら椅子に深く背を預けた。
「だが居座られても迷惑だし、私が君たちに手を出せば、次はフェリオンや宵闇君が更に余計な事をやりかねないからね。
質問に答えよう。
彼は元々、黒翼種幻将の守人でね、次代になるはずだったんだよ。
先代と私が知り合いだったのさ」




